毒殺事件
佐久間たちは時間通り科捜研入りした。
「おう、来たか?」
「手間かけて済まない。約束通り好物を持参したよ」
佐久間は、氏原に氷下魚の干物を渡した。
「いい氷下魚だ。今度これで飲むか?」
「ああ。非番に付き合うよ。それで結果は見立て通りか?」
「ああ。やはり胃の中から出て来たよ。イチイの有毒成分が確認されたよ」
「イチイの有毒成分?ですか?」
山川は、見当も付かない様子で尋ねた。
「イチイな有毒成分について、説明しようか」
氏原は、ホワイトボードにイチイの有毒成分について書き出した。
「イチイの有毒成分はタキシンというアルカロイドだ。種子を飲み込んでしまうと中毒を起こして、死ぬ寸前まで本人は気付かない。死後、時間経過してしまうと成分が体内で分解されて、解剖しても検出できない事が多いが、今回は発見が早かった為に、ほんの微量
だが胃の中に残っていたよ」
「何故わかったんですか?」
「胃のあたりを触診した時に、わずかにタネみたいな感覚を覚えたからかな?」
「それだけでわかったのですか?まるで外科医並みですな!」
山川は心底、感嘆した。
「あの、別件でお尋ねしたいんですが?」
山川は、先程捜査一課で話題に上がった痴呆症と交通事故の関連について、状況説明を行なった。
「ほう?保険金にまつわる事件か?痴呆症に仕立てるなら、水銀が怪しい」
「・・・水銀ですか?」
「そうだ。体温計などから、水銀を取り出して車内にばら撒いておけば、車内で蒸発して、その成分を吸い込むと痴呆症になる実例があるな」
山川は、面食らって佐久間の顔を見た。
「警部。派遣した鑑識官たちに、すぐこの情報を連絡してきたいのですが」
「まだ間に合うだろう。電話を!」
山川は、科捜研に電話を借り、各鑑識官に連絡を行う。
「・・・やはり、出たな?」
「お前の勘は、相変わらず鋭いな。まだまだ現役で大丈夫のようだ。しかし、イチイの毒殺は久しぶりだ。保険金殺人でこの毒物を使用するとは素人ではないな。かなり、毒物について博識であり、タチが悪い」
「イチイの毒殺といい、水銀を使った見せかけ殺人かもしれない場所は二軒とも中野区だ。これは事件として、繋がるかもしれないな」
「佐久間。気をつけて捜査に臨めよ。農薬なんかは触れただけでオダブツだ。もし、お前たちが話した通り、交通事故も水銀を使った見せかけ殺人なら、一連の事件は毒物が対象となる。しかも、見た目が難しいものが使用され、厄介だ。今回の仕業、プロかもしれないな」
「ああ。氏原にすぐ相談して良かったよ」