三田村一成の真理
東京都で起こった杉並・中野連続毒殺事件は、科警研の三田村一成と捜査一課本部長、藤田要の逮捕で幕を閉じた。
当然、行政側による事件であったため、マスコミや世間の批判を一成に浴び捜査一課の信用はガタ落ち必須であった。
しかし、高田勝彦に対しての佐久間がとった土下座の行動を群衆が目視し、佐久間たちの行動を群衆が拍手喝采して暖かく見守る様子が、ネットで生配信されたこと、県会議員疋田がマスコミに対して何らかの圧力をかけたことで、警視庁が想定した以上に事態は早期に沈静化したのだった。
留置所で佐久間は、三田村一成を訪ね一連の事件について動機を尋ねてみた。
「動機だって?人を殺すことが快感ではダメかい?納得もしない?やれやれ」
三田村一成は、両手の手のひらを佐久間に見せながら、おどけて見せた。
「それは、お前の真実ではない。お前の心の内を教えてくれ。闇と言うべきか」
「じゃあ、教えてやる。私は、イギリスの毒物犯罪者、グレアム・ヤングを崇拝し尊敬している。粉末タリウムだけでなく、あの時代に一時ではあるが、完全犯罪をなし得た人物だからね。男なら憧れる。この世には本当に優れた毒物がある。それを利用しないお前たちの方が、余程イカれていると思うよ。科警研の連中もそうさ。いいところを科捜研に持っていかれ、チヤホヤだ。どちらも薬物の専門機関だ。何故、科捜研ばかりが注目を浴びる?俺は心底、うんざりしたんだよ。だから、毒殺の研究をして、飲み屋の女を使って色々試したさ。楽しかったぜ。保険金は入ってくるし、女は取っ替え放題だし、邪魔になれば消せば良いんだ。お前も立場が違えば、俺になっていたさ。まだ試していない毒物を試せなかったのが心残りだがな・・・」
「藤田とは、いつから関係を?」
「藤田は、俺と同期だ。お前が科捜研の氏原と付き合うように、俺もあいつとはよく捜査で一緒にやってたよ。何年か前にあいつと飲んだ時、二人で警察の仕事がバカらしくなったなと話合ったのさ。俺は毒物で事件を起こし、奴が解決するように協力したり、互いに楽して出世して楽しむことにしたのさ。今回の事件で、藤田は俺に科捜研の捜査が始まる旨と科警研に仕事を依頼出来なかった詫びのメールが来ていたよ。お前がスタンドプレー紛いをしているとも書いてあったぞ。もっと上司を立ててやれよ」
佐久間は、静かに三田村に話掛けた。
「三田村よ。お前の話は決して正義ではない。誰もお前を救えなかったんだな。そして、藤田もだ。せめて、残りわずかな人生、穏やかに過ごすが良い。これだけは言っておく。グレアム・ヤングは悪だ。それ以上それ以外はない。それだけは自覚してくれ。同じ捜査官の端くれとして、お前の懺悔を聴きたかったよ・・・」
留置所を、出ると山川刑事が佐久間を待っていた。
「警部、藤田が牢の中で自殺したと、先ほど副署長より連絡が入りました」
「・・・・・。そうか。死んだか」
佐久間は、どうしようもない悲しみに覆われた。
「山さん、今回の事件、山さんには損な役を与えてしまった。本当に辛い思いをさせてしまい、申し訳なかった。この通り、頭を下げます」
山川は、慌てて佐久間を止める。
「警部、辞めてください。今回、警部の姿勢や苦悩が嫌という程わかったつもりです。警察の過去のエゴも、捜査員の使い方も皆んなの捜査に対する気持ちをあなたは、クビを掛けて、守ったんだ。私だけじゃない。捜査員全員があなたについてきて、本当に良かったと思ってることでしょう。だから、謝らないで、胸を張ってください」
「・・・ありがとう。山さん」
「また、出直しですね」
「・・・ああ、そうだね。また明日から一兵卒気分で捜査一課の皆んなと頑張るとするかね?」
こうして、佐久間たち捜査一課にほんの一瞬だが、平和が訪れたのであった。




