科捜研
五月七日、十四時過ぎ。
警視庁捜査一課の佐久間は、所轄署の要請で哲学堂公園近くの現場に到着した。
先に現場検証をしていた山川が佐久間を見かけると、困り果てた顔をして、佐久間に検証結果を報告した。
「警部、お待ちしておりました」
「何か手掛かりはあったかい?」
「いえ、何も。目立った外傷や争った形跡はないようです」
「外傷なしか?では病死だろうか?」
「この状況は、自然死なのかそれ以外なのか?さすがに困りました」
「百戦錬磨の山さんでもかい?」
佐久間は、念入りに被害者の身体を調べた。
しかし、山川の言う通り、外傷がなく、また呼吸困難を示すチョークサインをしていた様子もない。
「衣服を調べましたが、持病の薬はなく財布もありました。財布は、千円札が三枚と小銭が少し。免許証やクレジットカードも残っていました」
「なるほど。確かに自然死と言いたくなる」
しかし、過去佐久間には、これと似た状況を経験したことがあった。
表情や解剖で薬物反応が出なくても、人を死に至らしめる毒薬があることを。
その時と同じ匂いを感じてならないのだ。
「鑑識官ではなく、最強の助っ人に連絡をして、捜査協力を要請しよう。奴ならおそらく、わかるはずだ」
そう言って、早速、電話を掛ける。
「もしもし、氏原か?佐久間だ。君にどうしても調べて欲しい事件が発生してね。これから、至急来られないかな?・・・・ああ。私の勘だが、何か毒薬が出るかもしれない。場所?場所は、哲学堂公園近くの現場だ」
山川は、思わず佐久間に尋ねた。
「警部、最強の助っ人とは誰ですか?私は面識ありましたでしょうか?」
「山さんは面識ないと思うよ。科捜研に所属している私の友人であり、同期さ。私の知る限り、薬の知識は類を見ないと思うよ。本当にお互い困った時にだけ、連絡を取り合っているんだ。奴は、科捜研のくせに極端に出不精でね」
「はあ、科捜研の方ですか?」
四十分後、科捜研の氏原が到着した。
「待っていたよ。山さん、紹介するよ。科捜研の氏原誠人だ」
「科捜研リーダーの氏原です。佐久間とは同じ大学で学び、同じ研究室で警察でも同期です。互いに変に意識して、よく殴り合いの喧嘩をしたもんです」
「はあ。山川です。よろしくお願いします」
「見て欲しい被害者は?」
「あそこにいる。何か怪しいんだ」
「ほう。お前の勘は鋭いからな。早速、見てみるか?」
氏原は、丹念に被害者の身体を触り、口や首筋、瞳孔、うなじ、耳元の匂いや感触を確かめた。また、ワイシャツを前だけ、裸出して触診した。
「何かわかるか?」
「・・・解剖してみないと断定出来ないが薬物反応が出ると思うぞ。多分、胃の中で証拠が出るだろう。預かっても?」
「ああ。勿論だ。解剖結果が出る頃に、お前の好物持参で伺うことにするよ」
「では、今十五時半だから、十八時頃に科捜研に来てくれ」
氏原は、佐久間にそう告げると、救急車と一緒に科捜研に戻っていった。
「山さん、我々も一度、警視庁に戻って、課長に中間報告をしよう」