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囮捜査

 科捜研を出た佐久間たちは、すぐに手を打ち始めた。


 佐久間は、山川を呼び止めた。


「山さん、山さんは私と別行動だ。これから話すことを決して話さず、行動してくれ。山さんしか出来ないことだ。頼んだよ」



 日付が変わり、六月十八日、0時四十分。


 高田紀子の自宅ベルが鳴る。



 ( ピンポーン )


「どなた?こんな夜中に?」


「夜分遅く済まない。勝彦だ。弟のことで仕方なく話したいことが出来た」


「明日の朝にしてください。義兄でも不謹慎ですよ。ご近所に見られたら、マズイわ」


 勝彦は、少し考え、切り出した。


「実は、現場検証で農薬が出てね。どうしたもんかと・・・」


「ーーーーーー!ちょっ、ちょっと待ってください。今出ますわ!」


 高田紀子は、慌てて玄関から出てきた。


 高田紀子の目の前に何人もの捜査官の姿が映った。


 周りを取り囲んだ捜査官に目をやると、全てを悟ったのか、ただ黙ってうなだれた。


 佐久間は、高田紀子の前に立った。


「始めまして。高田紀子さん。なぜ我々がいるか、あなたなら全てを理解しているはずだ。0時四十ハ分、身柄を拘束する」


 こうして高田紀子は身柄を拘束された。



 同日、六月十八日、十時三十分。


 科警研に一人の科警研リーダー氏原が捜査履歴が入った封筒を持参して捜査依頼に来ていた。


「やあ、氏原くん。科捜研での君の活躍科警研まで聞こえてくるよ。テレビでも科捜研は我々と違い有名だからね」


 室長の柳原は、笑顔で氏原を迎えた。


「実は科警研さんに捜査協力をお願いに参りました。恥を忍んで話を聞いて、頂きたいんです。そして、このことはご内密にお願いしたいんです」


「・・・話を伺おう。誰か、そうだ。三田村くん、話を一緒に聴いてくれ」


 奥に座り、顕微鏡を覗いていた一人の職員が柳原の横に座った。


 すらっと背の高い、整った顔立ち。

 その男が三田村一成だった。


「三田村です。科警研へようこそ。氏原さんの噂は予々聞いております。科捜研て持て余す捜査を、科警研では対応出来ないのでは?」


「まあまあ、三田村くん。こうして恥を忍んで、来てくれたんだ。まずは捜査内容を聴いて判断してみよう。氏原くん、お願いします」


 氏原は、ホッとして説明を始めた。


「じつは、警視庁捜査一課の案件で東京都中野区と杉並区で毒物による連続殺人が起こりました。捜査内容はこのような展開を見せておりますが、捜査一課は、科捜研の毒物報告を否定するのです。根拠が乏しいと。そこで、科警研にも同判定となるかを検証願いしたいと考えております」


「どれどれ、・・・ほう?捜査はほぼ詰みまで、あと一歩といったところか?しかし、この所見を見る限り、犯人は我々に近い感性の持ち主だな。三田村くんも、見たまえ。中々、興味深いぞ?」


 三田村は、渋々資料に目を通し、やがて青ざめた。


「・・・これは?・・少し科警研でも協力してみましょう。捜査一課は何かと我々を軽視する傾向にあるようです。我々の協力なくしては捜査は成り立たないところを見せる良い機会かと」


「三田村くんが、そこまで言うとは。いいでしょう。科警研として正式に捜査内容を精査して、ご報告します」


「あっ、ありがとうございます。これで捜査一課を見返せます」


 氏原と三田村は、ガッチリ握手を交わした。



 〜 同時刻、捜査一課 〜


 捜査本部長の藤田に山川が話しかける。


「今頃、上手くいっていると良いんですが。どうなりましたかね?」


「俺に聞くなよ。佐久間警部に尋ねれば良いだろうが。佐久間警部はどうしたんだね。捜査本部にも顔を出さんと!」


「警部は、現在、高田紀子の事情聴取をしています。新事実がないかを尋問している頃でしょう」


「・・・そうか。そうだった」


「本部長も立ち会われますか?」


「俺は遠慮させてもらう。そもそも今回は佐久間警部が俺を差し置いて進めた計画だ。失敗したら奴に責任を取ってもらうつもりだ。

山川くんも、あまり首を突っ込まんことだ。いいね、君の身のためだよ」


「・・・わかりました」



 〜 科警研 〜


 三田村は、科捜研から預かった捜査一課の捜査記録を熟読していた。


 犯行に使用された毒物が全て解明され、三船敏朗の水銀、佐藤健太のイチイ、大島可奈子の消毒用メチールアルコール、高田清の硫酸ニコチンとパラチオン、そして国本香織のスズランの根までだ。

 三船敏朗と佐藤健太を大島可奈子が殺害し大島可奈子を誰かが操り殺害したことや高田紀子が、国本香織と高田清を殺害し高田紀子の事件について密告したことも書いてあるため、三田村一成は、捜査が自分の直ぐ近くまで忍び寄ってきていることを確信した。


(捜査一課と科捜研がここまでとは。少し侮り過ぎたようだ。高田紀子の逮捕予定は六月二十八日。まだ十日ある。高田紀子がゲロしたら、俺は終わりだ。高田紀子はいつでも始末できるとして、まず井上遙がこれ以上、密告しないように手を打たなければ)


 まず、井上遙を呼び出し、大島可奈子と同じように始末し、高田紀子は、どの毒で始末しようか考えることにした。


 その時、科捜研の氏原から三田村宛に電話が鳴った。


「もしもし、三田村さん。氏原です。一つ捜査記録に誤りがあり、訂正連絡をするために掛けたんですが、良かった。まだ居られて。じつは、高田紀子の逮捕は十日後でなくて、三日後だそうです」


「ーーーー!三日?ですか?」


「・・・どうされました?」


「・・あっ、いえ。あまりにも唐突だなと思いまして、捜査一課も」


「何でも新証拠が見つかったようです。もし、検証に間に合わなくても結構です。それでは、失礼します」


 電話は切れた。


(マズイ。三日だと?新証拠って何だ?三日後には高田紀子は逮捕される。高田紀子を先に始末するか?・・いや、ダメだ。高田紀子の死を知った井上遙は間違いなく、自分の仕業だと捜査一課に話すだろう。逆に、井上遙を殺しても高田紀子は喜ぶはずだ。・・・井上遙を明日、いや今夜始末しなくては?)


 三田村は、室長の柳原に捜査記録を検証するための外出許可をとり、科警研を後にした。


駅前の公衆電話から、井上遙に連絡を入れた。



「・・・はい、井上です。あっ!三田村さん?お久しぶり!元気にしてた?」


「ああ。元気だよ。急に遙の声が聴きたくなってね。今夜食事でもどうかな?家に来ないか?誰も呼んだことないけどね」


「ホントに?・・・嬉しいな。でも」


「・・・でも?何だい?」


「・・・ヤラシイことしない?」


「しない、しない。仕事で疲れててね。君に癒されたいんだ。どうかな?」


「・・・なら、阿佐ヶ谷駅前の居酒屋で。そこならヤラシイことされないし。十九時でどう?」


「わかった。阿佐ヶ谷駅前の居酒屋で。十九時に落ち合おう」


 何とか、井上遙と約束を交わした三田村は急ぎ準備のために自宅へと向かった。



 十五分後、科捜研。


 井上遙から電話連絡を受けた氏原は、携帯メールで佐久間と県会議員の疋田のみに情報を発信し、囮捜査による三田村一成の確保準備を開始した。


 佐久間は、十六時五十分、捜査員を集め緊急捜査会議を開催した。


「佐久間警部、これは何の会議だね。俺は何も報告されてないじゃないか?君は最近、本部長を蔑ろにしてるね?独断すぎると、本部長権限で君を外しても良いんだぞ!」


「申し訳ございません、本部長。決して本部長を軽く見てるつもりではありません。ただ、この事件に関しては私のクビを、かけて臨むと話した手前好きにさせて頂きたい。宜しいですね?」


「・・・勝手にするがいい」


「ありがとうございます。みんな、よく聴いてくれ。これから本ボシ三田村一成の確保に向かう。場所は、阿佐ヶ谷駅前の居酒屋だ。十九時に三田村一成は、井上遙と居酒屋で食事をする。食事の合間に井上遙が席を外した時、三田村一成は間違いなく、井上遙のグラスに毒物を混入させる。その瞬間を現行犯で抑えるぞ。全員、客に扮し、居酒屋で食事をしながら、待機だ。このチャンスしかない。また井上遙もここで助けなければ、命の危険があると心得て行動するように!」


「・・・はい!全力を尽くします!」



 十八時二十分、捜査員全員が居酒屋で配置につき三田村一成と井上遙到着を待った。


 佐久間は事前に店主に了解をとり、居酒屋の全面的なバックアップを取りつけた。


 十九時五分、予定通り、三田村一成と井上遙が居酒屋内に入店してきた。



 三田村一成と井上遙は暫く食事を楽しだ。


「会ってくれて、嬉しいよ」


「高田さんは、いいの?私のこと、放っておいたくせに」


「目が覚めたんだ。やはり、高田でなく遙にずっと側に居て欲しくてさ」


「・・・もう一人にしない?」


「当たり前だ。もう離さないよ」


「ふふっ。じゃあ、赦してあげる。ねっ、後で良いことしようね。今日、安全日だから大丈夫だよ!」


「・・・いいのかい?期待するよ」


「うん。チョットお手洗い。ごめんね」


 井上遙が、席を立った。


 三田村一成は周囲を確認し、胸から粉末の粉を素早く取り出し、井上遙のグラスへ混入させ、席を立った。


 そして、胸を張り、外の出口へ向かった。

 

 出口まであと、一メートルのところで、佐久間に声を掛けられた。


「そこまでだ。三田村一成。井上遙の殺害容疑で現行犯逮捕する。井上遙さん、出てきて大丈夫ですよ!」


 三田村一成は、まだ現実が掴めない。

 何がおきたのか、周囲を見渡す。


 周囲には、捜査員だらけなのだ。


「もしかして、この店ほとんどが、捜査一課か?これは何だ?囮捜査か?」


「その通りだよ、三田村くん」


 出口には、科警研の室長、柳原が立っていた。


「科捜研の氏原くんから、連絡があってな。私は最後まで君を信じていたよ。君は私の後継者だ。その君が犯罪などに手を染めることはないとな。私の目は節穴だったようだ。もう、君と会うこともないだろう。君の処分は三十分前に処理しておいた。君は三十分前から科警研の人間ではないから、安心して残りの短い人生を過ごすがよい」


「・・・室長・・・」


 こうして、三田村一成を真犯人とした東京都中野区・杉並区連続毒殺事件は解決したのである。


 居酒屋の外で待機していた本部長の藤田に佐久間は三田村逮捕を報告した。


「佐久間警部、今回はご苦労だった。何とか君のクビの皮も繋がったな?」


 佐久間は大笑いした。


「本部長、事件はまだ終わっていません。この事件には、我々組織の裏切り者がいます。捜査一課、本部長、藤田要。捜査情報漏洩及び三田村一成との共犯容疑でお前を現行犯逮捕する!」


「ーーーーーー!なっ、何を言って。おい!これは何の真似だ。共犯?俺は何をした?答えろ、佐久間!」


「本部長、いや、藤田よ。あなたも刑事の端くれなら理解出来るでしょ?あなたのメール履歴、電話の着信履歴、通話履歴全部、山川刑事が調べ上げている。県会議員疋田氏にチンコロした時に、よりによって、捜査一課から電話するとは電話会社に調べて貰ってすぐにわかりましたよ」


「馬鹿な。では、何故?科捜研で囮捜査を俺の前で話した?」


「敵を欺くには、まず味方からと、私はあなたから教わりましたよ。だから、ワザと高田紀子逮捕を十日後に設定し、あなた、いえ、あなた方を、油断させた。あなたが、三田村に五日前に情報漏洩すると踏んでね。だから、十日後ではなく、初めから三日後逮捕の設定だったんです。申し訳ございません」


「俺を嵌めたのか?」


「はい。あなたの捜査一課での指揮にはいつも疑問を抱いていました。調べてみましたが、あなたは高田勝彦さんの父親が亡くなった時に、現場検証した刑事でしたよね。あなたの代わりに、私と山川刑事、鑑識官、所轄警官みんなで高田勝彦さんには謝罪しておきました。今度はあなたが、法廷で直接、謝罪をお願いいたします」


 佐久間は、全てを語ると藤田はガクッと崩れ落ち、連行された。


 これで、本当に一連の事件は解決したのだ。


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