敵は身内にあり
佐久間は、喫茶店から出ると、直ぐに捜査本部に電話を入れた。
「佐久間だ。本部長に繋いでくれ」
「藤田だ。どうした?」
「高田紀子を張っていたところ、情報提供者が出来ました。詳しくは、後で説明します。今から言う住所に捜査員と鑑識官、それと科捜研の氏原を呼んでください。殺害されている可能性があります。私と山川刑事は、直接向かいます」
「わかった。すぐに現場に向かわせる」
電話を切った佐久間は、葬儀場の外で見張っている山川刑事を連れて、井上遙に聞いた住所に向かった。
( ピンポーン )
呼び鈴を鳴らしたが、やはり応答がない。
「・・・警部、鍵は空いています」
「非常事態だ。踏み込もう!」
佐久間たちは、国本香織の部屋に突入。すでに変死した国本香織が、テーブル脇に横たわっていた。
「やはり、先ほど警部が言われた通り、六月十三日の深夜に殺されたんでしょうか?」
「解剖しないとわからないが、私は井上遙の言葉を信じようと思う。高田紀子は、ここで国本香織を殺害し逃走し、二日後には夫である高田清を殺害した。そして、三田村と高田紀子は繋がっている」
間も無く、捜査本部から連絡を受けた捜査員、鑑識官、科捜研の氏原が現場に到着した。
「氏原すまない。科捜研に運ぶ前に、お前に来てもらったのには、理由が二つある。一つ目は、この事件も毒物だと井上遙からの話で予想したからだ」
「井上遙?・・・情報提供者か?」
「ああ。高田紀子と同じスナックで働く店員だ。彼氏を寝取られ、尾行した結果、この犯行に気づき密告してきた。彼女の証言では、高田紀子は六月十三日二十二時過ぎに、この部屋から、外へ逃走したことがわかった」
「わかった。調べてみよう。残りの一つは?どんな理由だ?」
佐久間は、氏原の耳元で囁いた。
「もう一つは、後で氏原にだけ話す」
「・・・わかった。後で聴こう」
全員で、国本香織の部屋の調査を開始。
部屋を荒らされた形跡はなく、通帳、財布、貴金属、携帯など全てそのままである。
氏原は、何かを見つけたようだ。
「みんな、チョット集まってくれ!」
「どうした?何かを見つけたのか?」
「ああ。おそらく、国本香織は、このスズランの根で殺されたんだろう。スズランの根は、すり潰すことで、強心配糖体という成分を出し、これは青酸カリの十五倍に匹敵する猛毒となるんだ。スズランの花粉も毒があり、花粉症のある人間には、相性が悪い」
「高田紀子は、当然、国本香織が花粉症であることは友人ならわかっていたと思われますね、警部!」
「ああ。氏原、すり潰したスズランの根を料理か何かに入れたか、検出可能かわかるか?」
「時間が経過しているからな。ただ、事件当日、不整脈や心臓麻痺を起こすまで三時間程度は掛かっただろう。ワインが残されていることから、飲酒中に症状が現れたはずだ。苦しむのは一瞬だったかもしれない。ガイシャの顔もそこまで苦しんでいないだろ?せめてもの救いかな・・・」
佐久間は、その場にいる捜査官たちに指示をした。
「山川刑事は、高田紀子を張ってくれ。誰かとこの後に接近しないかを監視するんだ。鑑識官は、スズラン以外に、何か毒物が出るかを調査し高田紀子の指紋とそれ以外、不審者の指紋がないか調査、アルバムも探してくれ。私は氏原と科捜研に向かい、死因と発生時刻の特定に全力を挙げる」
佐久間は、氏原と二人で科捜研に向かった。
「佐久間、二人きりだ。先ほどの二つ目の理由とは何だ?」
・・・佐久間は、まっすぐ前を見ながら氏原に尋ねた。
「三田村という苗字に覚えはないか?」
「三田村?・・・三田村とは、あの三田村一成のことか?」
「ああ。情報提供者の井上遙は、高田紀子と自分で三田村を取り合い、三田村はかなり薬学に精通している口振りだった。まるで医者みたいだと。金をそれなりに持ち、精力が強そうで、携帯を使用せず、公衆電話をよく利用するとのことだ。科警研の三田村一成に特徴が似ていると思わないか?」
「・・・似ているな。科警研なら、設備も科捜研と同等だし、毒物学に優れている。奴は疑い深く、携帯嫌いで有名だ。・・・なるほどな。お前があの場で、話さなかったのは、身内に科警研と裏で繋がっている者がいないとも限らないから黙っていたのか。敵は身内にいることが多いからな、脱帽するよ。お前には」
「本ボシが、あの三田村一成となるとこちらの捜査が筒抜けになってもいかん。本部長にだけ話して、極力これからは少数での捜査となるだろう。しかし、高田紀子と三田村一成の繋がりが見えた以上、もう奴らの好きにはさせないさ。氏原、すまんが・・・」
「わかってるさ。今までの一連の毒殺履歴、本日の捜査結果である死亡推定時間を早く一式形にしてくれ!だろ?」
「お前には負けるよ。よろしく頼む」
「ああ。乗りかかった船だ。俺たちで科警研の三田村一成を追い詰めるとするか」