農薬反応
六月十五日、二十二時三十分、科捜研。
東京の杉並区で死亡した高田清の現場検証で発見された粉末の成分について検査結果が発表された。
「佐久間、待たせて済まなかったな。やはり黒のようだ。粉末の正体は、農薬の硫酸ニコチンとパラチオン。手や服についたままでも放置しておくと死亡する劇薬だ。無臭無職でバスクリンに入れられたと考えられる。死因は農薬による心臓麻痺となるよ。当然、病院でも心臓麻痺で診断書が出るはずだ」
「いつも済まない。やはり黒か」
「しかし、お前の話が事実なら、高田紀子はどこで農薬を手に入れたのか?普通に暮らしていたら、まず入手は出来ないはずだ」
佐久間は、氏原に率直な質問をした。
「なあ、氏原。この事件も大島可奈子の時と同じ匂いを感じるのは私だけかな?お前はどう思う?」
「ポイントは事件発生のタイミングだ。つまりだ、大島可奈子死亡と高田清死亡のタイミングや発生場所から同一犯の可能性は非常高いと思うよ」
佐久間が、氏原にタバコを差し出し、氏原は、タバコに火をつけ、一口吸った。
「確か杉並区と中野区も隣接だったな?」
「ああ。駅同士も近く、行き来は楽だ」
「大島可奈子と高田紀子は、二人とも水商売という大きな共通点がある。大島可奈子と高田紀子は、スナックを通じ犯人と知り合い、実は踊らされているだけかもしれん」
「貴重な意見、助かるよ」
「これから、どうするんだ?」
「捜査本部で、みんなと善後策を立てることにするさ。ただ、まだ高田紀子の意図がわからないからね。なぜ自ら高田清を殺害する必要があるのか。保険金欲しさなのか、恨みによるものなのか、しっかりと見極めないとね」
「泳がす気だな?次のターゲット時にまとめて捕らえるために?でも注意しろよ。何せ毒物を扱う奴等だ。迂闊に何でも素手で触るなよ、死ぬぞ」
「ああ、氏原の忠告、肝に銘じるよ。まとめて捕らえたいね。それが出来れば、御の字さ。また、相談するよ。ありがとう」
同日、六月十五日、科捜研より三時間前の十九時三十分。
高田紀子は、病院で検死後、心臓麻痺による死亡診断書を発行してもらい、検死中手配した葬儀屋に、高田清の遺体を告別式まで葬儀屋で管理する旨、依頼してから帰宅した。
自宅では、留守番をお願いした勝彦が出迎えてくれた。
「お帰り。大変だったろう?死因はやはり、心臓麻痺だったのかい?」
「・・・ええ。心臓麻痺でした」
「そうか・・・。清もまだ若いのにな。気持ちの整理がまだつかないだろう?告別式の準備とか連絡などは、私がやっておく。紀子さんは何もしなくていい。今日はゆっくり休みなさい」
「義兄さん、色々と助かりました。・・ウチの人、告別式まで葬儀屋さんに、お願いしました。病院に行っている間、何かありました?」
「警視庁の方が、現場検証に来たよ」
「ーーーーーー!」
「・・・現場検証?ウチのは病死ですよ?何故警視庁が家に来るんですか?」
勝彦は、紀子の肩に手を置いた。
「自宅で死亡した場合は、必ず自然死か事故死か他殺か現場検証があるんだよ。私の親父が死んだ時もだ。みんな必ず通る道なんだよ」
紀子は、納得出来ないが、仕方ないと思ったのか、落ち着きを取り戻した。
「それで、どうなりました?」
「すぐに現場検証は終わったよ。何事もなく、お悔やみを述べて帰ったよ」
「・・・そうですか。少し疲れました。先に眠っても?」
「ああ、ゆっくりお休み。明日は必ずやってくる。今はただ、悲しみなさい」




