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杉並・中野連続毒殺事件 〜佐久間警部の友人〜  作者: 佐久間元三
新たな事件
13/20

現場検証

 荻窪駅に着いた佐久間たちは、連絡を受けた住宅に向かった。


 荻窪駅から、街なか沿いに進むこと、約二十分で通報を受けた住宅に到着。すでに三台のパトカーが赤色灯を回し、周囲には近所の野次馬が群がっていた。


 通報者は、高田紀子。死亡した高田清の妻である。高田紀子は、親戚に留守を託し現在病院の方に行っているようだ。


 佐久間は、親戚の高田勝彦と名乗る人物に事情を説明し、深々と頭を下げた。


「この度は、ご愁傷さまです。警視庁捜査一課の佐久間と申します。ご心中を察し、本日は最低限の現場検証だけ行います。事件性はないことを確認するためにどうしても、発生した時点で行わないとなりません。静かに喪に服したい時にお願いするには心苦しい話ですが、現場検証はすぐ済ませますのでご協力ください」


 高田勝彦は、佐久間の申し出を聞いて快く受け入れた。


「私は、心底、警察が嫌いでした。昔、親父が自宅で心筋梗塞により死亡しました。その時、病院から帰ってきた私たちをまるで犯人扱いするかのように、ロクに説明もせず、取り調べをするかの如く、質問をしました。保険金は幾ら掛けただの、誰が受け取るだの、遺族の心中を逆撫でするやり方でね」


 それを聞いた佐久間は、すぐさま土下座をした。

 思わず、現場にいた山川はもちろん、居合わせた鑑識官、所轄警官も佐久間に倣い土下座した。


「過去とはいえ、同胞が大変な無礼を働きました。ご遺族の心中、深く察します。どれだけ辛い時に無神経な対応をしたか。この場にいる警察を代表して改めて、土下座して謝罪いたします。本当に心からお詫びいたします。申し訳ありませんでした」


 これには、高田勝彦をはじめ、野次馬で見ていた群衆からも驚きと拍手が上がった。


 高田勝彦は、こみ上げた涙を拭うと佐久間の手を取り、話しかけた。


「面を上げてください。あなたや今の警察の方の姿勢がよくわかりました。あの時も今と同じく接してくれたら、どれだけ遺族は心を傷めず、喪に服すことができたか。・・弟も浮かばれますよ。現場検証どうかよろしくお願いします」


 こうして、現場検証が始まった。



 現場検証を開始して、二十分後。


「警部、こちらをご覧ください」


 鑑識官の江本が、佐久間に耳打ちした。


「浴槽の中は、普通のバスクリンですが浴室前の脱衣室に微量ですが、粉末成分が確認されました。我々で分析しますか?それとも科捜研へ依頼しますか?」


「どのような成分か見当つくか?」


「無臭無色です。農薬系かと。一般家庭内では扱わないものかもしれません」


 佐久間は、手に取ろうとしゃがんだが、鑑識官江本は、佐久間の肩に手をやり、静止した。


「警部、ご無礼を。農薬系には触れただけで死亡する劇薬もあります。鑑識にお任せを」


「・・・わかった。よろしく頼む。私は少し、高田勝彦氏に事情を聞いてみる」


 リビングで待機している高田勝彦に佐久間は話を聴くことにした。


「高田さん、もう少しで現場検証が終了します。ご協力のおかげで早く済みそうです」


「・・・そうですか。それは助かります」


「高田勝彦さんは、亡くなった清さんのお兄様で宜しかったでしょうか?」


「はい。清とは八歳、歳は離れています」


「普段は、頻繁にお会いになっておられるのですか?それとも、何ヶ月に一回かの頻度ですか?」


「ひと月に一回といったところでしょうか。何か気になる点でも?」


「少しだけです。弟さん夫婦はどちらか農協にお勤めか農業に関係したお仕事をされていますか?もしくは、勝彦さんや高田家の方で農業に関する仕事の方は?」


 それを聴いた勝彦の顔色が少し変わった。


「・・何か出てきたということですか?」


 佐久間は、無言で首を縦に振った。


「・・・弟はシステムエンジニア。義理の妹は紀子と言いますが、スナックで働いているようです。私は、郵便局員です。高田家も代々、農業とは無縁の一族です。これだけ聴くということは、農薬がどこかで?」


「・・・脱衣室で微量ですが、検出された模様です。しかし、まだ検査はこれからです。結果を見るまでは、疑いがあるだけですし、外れることもあります。この話は高田紀子さんには、絶対に口外しないで頂けますか?まずは、清さんの弔いを」


「・・・わかりました。もし、警部さんの言われる通り、農薬だった場合は?」


「まだ何とも言えません。清さんの死が今は心筋梗塞や心臓麻痺でも、原因を追及しなければなりません。仮に死因が農薬によるものとわかれば、悲しい結果になることもあります。その為に今日の現場検証があるんです」


「・・・このまま、何も知らない方が私たちは幸せだったんでしょうか?」


「どうでしょうか?ご家族は、普通に死者を偲んで生きていきます。しかし、真実を伏せられて亡くなった清さんは浮かばれないかもしれない。真実をきちんと追及することは、正しいと私は思います」


「・・・そうですね。弟のためにも、捜査をお願いします。今はまだ、義妹を信じます」


「はい。我々の思い過ごしであることを私も期待します。何もないことが一番ですから。どうか、身内を信じてあげてください」


 佐久間は、現場検証を終えた捜査官と鑑識官たちに引き上げの合図を行なった。


「みんな、お疲れさま。各自持ち場に戻ってくれ。鑑識官は、科捜研へもう少し付き合ってくれ。では、解散!」


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