新たな事件へ
「警部、申し訳ありません。私が現場を任されながら、人任せにしたことが、初動捜査の失敗に繋がりました」
山川は大島可奈子が殺害された居酒屋に向かう途中、立ち止まり涙ながら、佐久間に謝罪した。
「・・・いいんだよ、山さん。これは結果から見て初めてわかる犯人像だ。現に私も山さんも、大島可奈子と男に気を取られ、カウンターに座っていた他の客など注意深く観察出来なかった。あの状況では本部長だって、おそらく見落とすさ」
「・・・警部。ありがとうございます」
「うん。振り出しに戻るが、きっとどこかに小さな糸口は見つかるさ。気を取り直して、本部長を見返そう」
「しかし、一つだけ気になることが」
「県会議員疋田のことだろう?」
「はい。疋田は犯行を事務所に何者かが電話してきたと言っていました」
「疋田の言葉が事実なら、少なくとも犯人は大島可奈子と疋田を知っており、事務所連絡先まで知っている。あの中にいれば大島可奈子や疋田はわかるのではないでしょうか?」
佐久間はゆっくり歩きながら考えた。
「山さんの仮説は正しいよ。しかし、犯行はプロに任せて、結果だけを外から傍観し電話を掛けることも想定出来る。今まで足も見せない本ボシだからね。稀に見る用心深さかもしれない」
「・・・確かに。それなら合点がいきます。警部はいつも考えが深い」
「たまたまだよ、山さん」
その時だった。
佐久間の携帯に藤田から連絡が入った。
「佐久間警部、今どの辺りだ?」
「新中野駅近くです。どうされました?」
「そちらは、他の捜査官に任せて、君はすぐ杉並に向かってくれ。荻窪だ。荻窪駅近くの戸建て住宅からの通報で浴槽で男性が入浴中に死亡したらしい。現場検証に立ち会ってくれ。どうも他の捜査官はアテにならん。君自ら確認してくれ」
「・・・現場に急行します」
佐久間は電話を切り、ため息をついた。
『捜査はチームでやるものだ。本部長は今回の失敗を引きずり、失敗した捜査官たちを信用していない。しかし、チームを立て直すのも上に立つ者の責務でないのではないか?』
「どうされました?」
佐久間は、ハッと我に帰り山川を見た。
「山さん、本部長からだった。荻窪で男性が入浴中に死亡したらしい。至急現場検証に立ち会って欲しい旨の連絡だったよ。他の捜査官が、居酒屋に向かうようだ。我々は荻窪駅に向かう。荻窪駅は何線だったかな?」
「JR中央本線です。阿佐ヶ谷駅の隣ですよ。しかし、新中野駅からなら東京メトロ丸ノ内線荻窪行きに乗れば、四駅、約八分程で到着します」
「さすが、山さん。鉄道マニアだ。現場まで引率よろしく頼むよ」
佐久間に頼まれた山川は、少し照れ臭く自分を持ち上げてくれた佐久間の大きさに感謝したのだった。
「さあ、行こう。山さん!」
「はい。仕切り直しますよ!」
二人は、新しい事件に乗り出した。