初動捜査の失敗
疋田が帰った後の捜査本部では、引き続き、大島可奈子について、捜査の整理を行なっていた。
佐久間は、ホワイトボードに先ほどの疋田情報を追加記入した。
「みんな、もう一度事件を整理しよう。端的にだ。三船敏朗は、水銀で痴呆症にされて交通事故で死亡。佐藤健太は、イチイの種子で毒殺。これら二件は、スナック杏奈経営者の大島可奈子が画策および実行を行なったと思われる。その後、大島可奈子は県会議員の疋田と会食中、口論から疋田が席を立った一瞬の間に何者かがビールに毒物を混入して死亡したと思われる」
藤田は、佐久間に毒物について尋ねた?
「佐久間警部、まず大島可奈子の死因は何かね?」
「解剖結果より、心臓発作です」
「単なる偶然死という落ちは?」
「全くではありませんが、確率は少ないと思われます。犯行もこの一瞬ではなく、この時刻辺りに死亡するように、他の毒物が使われてないかは科捜研で引き続き、調べておりますが、体内で該当するものは検出してないと報告を受けております」
「時間差を作るのは、どのような毒物かね?きみは知っているのか?」
「代表的なものは、毒キノコや毒草です。乾燥させたものを粉末にしてニグラムで致死に至り、死ぬまで六時間から十時間程度かかるそうです」
佐久間は、一通り説明を終えると、山川に続きを任せた。
「山さん、店内の調査結果を発表してくれ」
「はい。事件発生時の間取りです」
山川はホワイトボードに店内の位置図を描き入れながら、説明を始めた。
「まず、店内の入り口から真っ直ぐ通路があります。突き当たりが、コの字型のカウンターになっており、六人ずつ計十二人座れます。大島可奈子と疋田はちょうどこの位置、正面入り口から進んだ突き当たりに並んで座っていました。二人からは後方は振向かない限り見えなかったと思われます。カウンターで、他にペアが一組と三人組が一組座っていました。カウンター内の店員話では、大島可奈子と疋田の手元は内部からよく見えるらしく、疋田が大島可奈子と口論時に何かをビールに入れたところは見ていないことから、疋田が犯行を行なった事実は本人の供述通り、まずないと思われます」
「すると、誰が大島可奈子のビールに毒物を混入したのかね?」
藤田本部長が、山川にかみつく。
「それは、まだわかりません・・・」
佐久間がすかざす、助け船を出した。
「犯行は我々もダマされましたが、ほんの数秒です。大島可奈子は後ろを振り向いて入り口を見た角度からもカウンターサイドのどちらかの組、つまりペア組か三人組の誰かでしょう」
「山川刑事、カウンター両サイドにいた客の住所と指紋はおさえているんだろうね?」
「・・・それが、私も容疑者の一人に入るため、他の客を抑えるのが一杯で応援部隊に任せておりました」
「応援部隊。証拠は抑えたのか?」
「スミマセン。大島可奈子の後始末に手間取り、事件発生した直後の状況しか確認しませんでした」
「では、いたかもしれない犯人を、ろくに調べもしないで、取り逃したのかね?お前たちは、佐久間警部が不在だと何の機転も利かんのか?」
藤田本部長は激昂しながら捜査官たちに指示した。
「いつも初動調査が大事だと言っているだろう!もう一度店員から話を聞いたり店の防犯カメラをチェックしてカウンターに座っていた人間を何としても特定すること。または、他に座っていた客が実は犯人ということもある。気を引き締め直して捜査に臨め」
「・・・はっ。承知いたしました」