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東京 五百羅漢寺

 僕は不信心な為、お祭りでも何でもない日に目黒不動などにゆくと、特にこれと言って何とも思わぬのであるが、その隣の五百羅漢寺に少しばかり立ち寄ると大変に興味が惹かれる。



 この五百羅漢寺というお寺は、現在は浄土宗のお寺であるが、元々は鉄眼道光によって開山された黄檗宗のお寺で、江戸時代にはずいぶんと賑わったようである。ここにはかつて、さざえ堂という螺旋階段のあるのっぽなお堂が建っていたらしい。その螺旋階段を上って、本尊を参拝した後、もう一本の下りの螺旋階段を使って降りると、本尊の周りを三周したことになり、自動的にもっとも丁寧な参拝をしたことになるというのである。福島県の会津若松の飯盛山には現在もこれと同じものがある。

 今では建物も新しいものに建て替えてしまったので、お寺という感じもしないが、江戸時代につくられた五百羅漢の尊像が廊下に立ち並び、釈迦仏などの御仏が本尊にまします姿はまことに素晴らしいものである。五百羅漢像は三百体以上あり、江戸時代につくられたものらしく、個性的でユーモラスであり迫りくるような躍動感がある。本当に三百体、それぞれ似たものは一つとしてなく、みな創意に飛んでいる。



 羅漢というのは、仏教の聖者である阿羅漢のことで、釈迦の弟子であった十六羅漢と、仏典編纂の為の集い(第一次結集(けつじゅう))に集まってきた五百人の聖者である五百羅漢などがある。

 この時に多くのお経が出来たのだと考えられているが、実際にはまず原始仏教の「阿含経」が編纂された。阿含とはアーガマの音訳である。その後、大乗仏教の発展と共に「般若経」などの般若系の経典が編纂された。その後に「維摩経」「華厳経」「法華経」「無量寿経」などの主要な経典が揃ってゆく。その後に唯識系のお経、そして「涅槃経」が編纂され、最後にヒンドゥー教の影響を受けて、大乗仏教のタントラ化が起こり、密教系のお経「大日経」「金剛頂経」が編纂された。思想の内容から言っても一度に出来たとは思えないものばかりである。

 しかし、そんなことを言っては、五百羅漢への思い入れが深まってこないではないか。



 この五百羅漢にはそれぞれ変わった名前がついていて、その説明を見ると「すべての人は平等である」とか、ちゃんとした教えになっている。名前を見てゆくだけで為になるお寺である。

 こうしてちょっとユーモラスな羅漢さんを見ていると、心が穏やかになってくる。親しみが感じられてくる。みんな、自分の味方のように思えて、心強くなってくるのはどうしてだろう。仏さまは人間を越えている感じがするけれど、羅漢さんは人間である。欲望もあり、悩みもあり、それでも仏になろうと修行を頑張っているのである。これが人間味というものだろう。僕はそんな羅漢さんたちを見て、なんだかほっとした。

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