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奈良 興福寺2

★★★

 唯識思想は、前回挙げた四つのポイントに沿って解説してゆきたいと思う。ただあまり唯識の解説に偏っても面白くないので、しばしば脱線したいと思う。



 ところで唯識仏教の大前提として人間には八識というものがあると言う。それは眼識(げんしき)耳識(にしき)鼻識(びしき)舌識(ぜつしき)身識(しんしき)意識(いしき)末那識(まなしき)、それに阿頼耶識(あらやしき)を加えた八つの心というものである。眼識から身識は、現在も良く言われる視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感のことである。そして、意識とは概念的に把握する心、末那識(まなしき)とは自我意識の心、阿頼耶識(あらやしき)とは根本心であり、全ての存在を生じせしめる種子を貯めている認識の主体である。

 眼識から末那識までの七識は、ことごとく阿頼耶識の一部分であると言う。つまり心の総合体が阿頼耶識なのである。

 このシステムはこのようになっている。眼識から身識の五感で「それ」を捉える。末那識(まなしき)の自我心を元にして、さまざまな心作用が起こり「それ」が彩られる。例えば「不気味なもの」などと感じられる。これは個人的な「思い」のようなものである。しかし、それはあくまでも自分にとって「不気味なもの」という話である。そして意識の持つ「男」という概念によって「不気味な男」と言語的に結論付けられる。このようにして「それ」は「不気味な男」として認識されることになる。そして「それ」を「不気味な男」として生じさせている認識の主体は根本心である阿頼耶識(あらやしき)なのである。

 


 この八識は、自分が認識することのできる主観的な宇宙というものである。この内側で人間はさまざまな存在と心作用を生じさせているのである。

 この世の生命は皆それぞれ、自己が所有する主観的な宇宙の中に生きているものであるから、他者と同じものを見たとしても必ずしも他者と同じようには認識しないのである。例えば、自分にとって「面白い小説」が他人にとっては「面白くも何ともない小説」だったりすることがある。また自分では「真面目なつもりで書いた文章」が相手には「笑いを誘う文章」だったりする。それはお互いに違った心の宇宙を所有しているからという説明になるであろう。

 それは自我意識である末那識や、概念意識である意識、そして阿頼耶識に植えられた種子というものが、人それぞれ違っているからなのである。

 同じように日頃、ペットのわんこやにゃんこが見ている世界や、金魚やトンボが見ている世界も、やはり人間の世界とはずいぶんと違ってくるものだろうと思われる。それでは金魚の見ている世界と、人間の見ている世界のどちらが真実の世界なのだろうか。否、人間の認識が正しいとか、動物の認識が間違っているとか、そんな単純な話ではないのである。皆、それぞれが自分にとって真実の認識の世界を持っているということなのである。



 唯識論は、唯心論と同じように捉えられることも多いが、仏教においては心と物を二元的に分かつことはしない。したがって、唯心論とも違ってくるというものだろう。

 また、この世は自分の心が描き出したものということで、よく夢に例えられる。

 唯識仏教は、それだからと言って虚無的であるという訳ではない。心を一応「ある」ものとみるところに唯識の特色があると言えよう。

 しかし、そうは言っても、心があるかどうかは人間には分からないのである。心自体は人間は認識することはできない。心そのものではなく、心作用としての感情、意志、知恵が働くのを感じるのみである。それも対象がある時にだけ生ずるものである。まことに刹那に生じては消えゆく、川の流れのようなものである。心そのものがあるのかどうかは結局分からない。

 その為、結局のところ、心も空だと言わざるを得ない。あるような、ないような、そうした存在と言わざるを得ないのである。

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