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京都 醍醐寺

 前回、休載をすると豪語していたのだが、次の日の朝、鳥の高らかな鳴き声に起こされて、爽やかな気分で朝ごはんを食べたら、次のお寺はどこにしようかと考えていた。そういう訳であるから休載はしないことになったで候う故、嘘をついて誠に申し訳なく御座候う。

 さて、この短すぎる休載期間の間に章の名前を変えることにした。最初、三章に分けるつもりでいたので「欲界、色界、無色界」の三つにしていた。それぞれ、欲界が性欲・食欲の欲望の色界、色界が物質的な世界、無色界が精神的な世界のことなのだ。ところが三章どころか六章ぐらいになりそうなので、変えることにした。

 すると、まず一章目は空の思想を述べているので「般若」の文字の入った名前にしようと思った。ところが般若だけだと短いし、般若波羅蜜だと主張が強すぎた。そこで四文字熟語で行こうと決めて、とりあえず「摩訶般若(まかはんにゃ)」ということにした。仏教だと章ではなく、(ほん)だから「摩訶般若品(まかはんにゃぼん)」ということにした。

 その要領で「秘密荘厳品(ひみつしょうごんぼん)」「法華一乗品(ほけいちじょうぼん)」「華厳世界品(けごんせかいぼん)」ということにした。こうしてみると、まことに大層な言葉をお経なり仏教書から拝借したが、肝心の内容は変てこなエッセイまがいの文章でしかないので、恥ずかしい気もする。まあ、それでもいいだろう。



 それでは醍醐寺(だいごじ)のお話をしたいと思う。醍醐寺に赴いたのは京都二回目の旅行の時、おばあちゃんと一緒に京都をふらふらと楽しんだのであった。その日は午前中に伏見稲荷を参拝し、お昼頃、宇治の平等院を訪れて、最後に醍醐寺にゆくという割とハードなスケジュールだった。

 それで醍醐寺というと、上醍醐(かみだいご)下醍醐(しもだいご)があって、上醍醐までたどり着いていない僕がエッセイにするのもおかしな気もするが、その時は、おばあちゃんをおいて一人で山頂まで登っても楽しくもない気がしたので、一緒に下醍醐を参拝することにした。

 ちなみに醍醐寺というのは真言宗醍醐寺派の総本山であり、真言系の修験道(しゅげんどう)の本山でもある。

 筆者の友人に、真言宗のお坊さんがいるが、彼も学生だったので、奈良の吉野の金峯山寺(きんぷせんじ)で修験道の修行をしたらしい。なんでも崖っぷちに這いつくばって、下を見るのだという。僕はその話を聞いて「命がけなことをするもんだなぁ、大変なもんだなぁ」と無責任なことを思いながら、その時、飲み屋のテーブルの上に並んでいたカンガルーの肉を食べるのに必死だった。

 下手物(げてもの)というものかもしれないが、肉としては立派である。しかし、どうしても食べ慣れない味は喉を通らないもので、この時色々な下手物を食べたが、どれも駄目であった。うさぎの肉に関しては飼っていたので見るのも嫌だった。無論、僕は食べなかった。結局食べたことのあるイナゴの佃煮を食べてホッとした。あれが一番美味しかった。また話が脱線してしまった。そういう飲み会があったということである。



 山門のいかめしい仁王像を見た後、醍醐寺の新緑の林の中を歩く。醍醐寺には快慶作の素晴らしい弥勒菩薩像があるのだが、残念ながら見ることはできなかった。元より鎌倉時代の仏像はあまり好きではない。けれども大変に立派なものだと言うから、おばあちゃんに見せたかった。

 広い境内を歩いて金堂に向かった。薬師如来、日光・月光菩薩、さらに四天王が歌舞伎役者のように伊達で洒脱な様子で構えているところを参拝した。

 その後、振り返って後ろの光景に思わず、おばあちゃんと「すごいねぇ」などと話し合った。そこには、男前でものものしい五重塔が天に向かって(いらか)を連ねていた。それはまるで武者の鎧兜のようにがっしりとしていた。その木の肌、剥げかけた色彩、重そうな相輪、いかり肩の屋根……。これがあまりにも立派だったので、忘れることができない。

 その先には池があって、そこに弁天堂のようなものが浮かんでいた。新緑の中のことで、あまりの美しさに目を奪われた。そういう訳で、ここで休憩をすることにした。



 修験道の話を書くべきかもしれない。しかし、筆者は今、修験道の話を書きたい気分ではない。それよりも、あの厳めしい五重塔が凄んでいたのをやけに思い出してしまって仕方ない。

 僕にとって五重塔とは東寺の五重塔のことだ。しかし醍醐寺の五重塔もまた良かった。東寺の五重塔は大変に女性的な五重塔だと思う。というのはつまり、絶妙な曲線美を持つこと、雅な雰囲気、しなやかな印象であることからである。これに対して、醍醐寺の五重塔は大変に男性的だと思った。

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