福岡 太宰府天満宮
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何年か前に、とある音楽グループのコンサートがあるということで、私は友人と二人で、九州の博多に旅行したことがある。私はこの旅行で、友人との価値観の違いを痛感して、それ以降、この友人としばらくの間疎遠となった。そういう意味で極めて問題のある旅行であった。この友人との確執が起きた為に、音楽グループのファンもその年で辞めてしまった。
一体何が問題であったのか、それはあろうことか食事だった。この友人はそもそも観光が全般的に嫌いであった。何しろ歴史と自然のどちらにも関心のないインドアの男だった。友人は音楽グループの二日間のコンサートだけみたら帰ってきたかったものらしく、食事もコンビニで買えば良いと語っていた。
ところが私には、どうしても食べたいものがあった。それは博多の豚骨ラーメンだ。それで博多の豚骨ラーメンを食べるか否かで意見が対立し、しばらくきな臭い雰囲気になった。結局は豚骨ラーメンは食べたが、友人はついに何も語らなかった。友人は九州という慣れない土地で興味のない観光資源と食事に付き合わされて、終始不機嫌であった。
ちなみにこの時、せめて友人の興味のあるものをということで、駅の近くのゲームセンターに二人で行ってクレームゲームをした。運が良くフィギュアを二体、どちらも一発目で落とすことができた。ところが、これに完全に味を占めた私は、その後関東に帰ってからクレームゲームに夢中になり、何万円も失う羽目になった……。
何はともあれ、私は、この九州旅行をきっかけに旅行にはまり、友人はその後も徹底した旅行否定派であり続けた。友人は、休日は自宅で音楽グループのDVDを見るのが楽しみで、あまりアウトドア派ではなかったのに、こういう環境に連れ出してしまったのが、非常に耐えがたいストレスだったのだろう。
今でも友人にこの旅行の話を出すと「あの旅行さえ無ければ、お前は今でも俺と同じファンだったはず……」と旅行自体が完全な黒歴史になっているらしい。なんだかよく分からないが、今ではこの友人には大変申し訳ないことをしたと思う。
さて、そんな旅行ではあったが、二日間のコンサートの後の旅行最終日に、太宰府天満宮だけは無事に観光することができた。この日は、いつもよりも参拝者が色鮮やかであった。
太宰府天満宮の参道の賑わいを見た瞬間、機嫌の悪かった友人の目が輝き「あっ、これいいじゃん! 俺、こういう所好きよ!」と叫んだ。しかしその五分後には友人は飽きて、機嫌はますます悪くなっていった。
菅原道真、太宰府に流された男……。彼は梅の花が好きだったんだよなぁ。私はそんなことしか知らないまま、友人はおそらくそれさえも知らずに、二人で太宰府天満宮を参拝した。
波乱に満ちた旅行ではあったけど、それまで旅行をしたこともない、阿呆な二人のくせして、関東からはるばる九州まで旅行できたのは、今となっては良い思い出だなぁ。
……ああ、楽しかった。