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みんなより少しオトナになってみないかい

「ハアッ!!」


 三人組の男、吉岡流なる流派の剣豪を前世にもつ人たちは、俺にむけて刀を振り下ろしてきた。


 「もひょー!!!」


 俺は地面に転がり込んで、必死に逃げる。刀? 刀なんてみてもいないよ。どうせ目で見たって反応できないし。そもそも接近戦で戦う方法なんて知らないし。刀を避けるときは転がったほうがいいよ! っていうの昔漫画で読んだだけだよ。



避けるときの声がおかしいって? いや人間、意外ととっさの時には変な声が出るもんだよ。ガチで怖いホラー映画みたときに「きゃー」なんていわないのと一緒。



 「待て!! 待て待て!! 待ってくださいってば!!」


 ごろごろと地面を転がって距離をとって立ち上がり、三人に懇願する。勝てるわけがない。単純問題、俺はケンカなんてしたこともないし、丸腰だし。相手は三人で刀持ってて、俺よりも明らかに体格がいい。その上躊躇なくヒトサマに斬りかかるというクレイジーな人間性の持ち主。


 頼みのつなのチート能力の前世能力覚醒だけど、俺の前世はボニーさんとかいう農場経営者(仮)、相手はなんか有名らしい剣士(多分)。


 勝てるわけねぇ。


 「ね? ね? へへへ。イヤだなぁ。俺はお兄さんたちと戦う気なんてこれっっっっぽっちもないんですよ? あっしみたいにケチな野郎は異世界の片隅でひっそり生きていきますから。いやーお兄さんたちすんげー強いんすね。負けました! この通りです!!」


 コメツキバッタのように土下座してみせる。地面と額をリズミカルにぶつける。


 バン、バン、バーン。としてみた。ラマーズ法って人を落ち着かせる効果があるとかないとか聞いたことあるのよ。


 「……こいつ、俺の剣をよけやがった」


 いや、避けたってわけじゃ……


 「……なんの迷いもなく…だと?」


 だって迷ってたら死んでたじゃん。正直言うと、俺自身よく悲鳴をあげて固まらなかったもんだと思うよ。即決でごろごろ転がるとか今思えばナイスプレイだよね。俺にそんなことできるとは。


 ああ、そうか。ボニーさん(仮)は農場経営してたから暴れた牛とかに襲われたりしてて逃げ慣れしてたのかもしれん。いや多分そうだ。


 「気をつけろ! こいつ……トリッパーの能力が読めない」


 トリッパーの能力? ああ俺の前世ね。多分食料事情の改善とか出来るんだよ。

 

 あ、そういえば知ってるはずのない馬の飼育知識とか思い出せるよ! 記憶や人格も定着してくると前世のものを取り戻していくらしいね! そうか! お兄さんの剣をマグレ避けしたからレベルがあがったんだね! 馬の知識のほかにはギターも弾ける気がしてきたよ! ホント糞の役にも立たないよ! あれ!? なんだか目に熱いものがこみ上げてきたよ!


 「いや、ホント、マジで勘弁してください……うぇっ…えぐっ…」


 「……お、いや、なんつーかその…すまん」


 おお!! サムライB! お前はいい人だ!! もう一息だ!!


 「バカ野郎! 油断すんな! それにこいつを殺せばレベルも上がるんだぞ!!」


 黙れサムライA。死ね。お前なんて死んでしまえばいいんだ。


 「……おねがい…します…えぐっ…うえっ…ぐすっ」


 くそ、なんでこんな目にあうんじゃ。異世界にトリップした高校生は無双するのが基本じゃないんかワレ。


 「木戸さん!? どうしたんですか!? 身を守ってください!!」


 すこし離れた位置で戦っていたエリカちゃんの声が聞こえた。いやーいい勝負してらっしゃる。君とはこんなところで会いたくなかった。大学2年生になったときの合コンとかで会いたかった。合コンなんてしたこともないけど。


 「まさか怪我を!? 今、回復薬を…! 待っててください!」


 エリカちゃんは一度敵から大きく間合いを取り、こちらにかけてきてくれた。いい人だ。でもなんの解決にもならないけど。


 いや、そうでもなかった。


 「! 野郎ども、あの女がこっちにくるぞ!!」


 サムライAがBとCに声をかけた。一瞬ではあるが、3人の注意が俺からそれたのだ。


 今だ!!!


 俺は勇気を振り絞って立ち上がり、全身全霊の力を込めて…


 「さようなら!!!」


 走り出した!!


 「あ!? てめぇ、ふざけんてじゃねぇぞ! 逃げんな!!」


 「アホが!! これは逃げているのではない!! 明日への、そして自由への疾走じゃ、ぼけ!!バカ! 人でなし! 人殺し! 」


 どうせつかまったら死ぬ。なら好き放題言ってやる。


 「ばーかばーか!!」


 振り返らずに走る!! 


 「え? き、木戸さん…?」


 「エリカちゃん! こっちこっち!! 俺は平和主義だから戦わないの! いやもちろん戦えば楽勝だけどね? でもね? 優しいから! 俺めっちゃ優しいから!!」


 きょとん、としているエリカのところまで走り、彼女の手を握る。うーん。非常にすべらかでいい手だよキミ。俺が政治家とかだったら『マンション買うたるわ。愛人にならへんか』とか言いたいくらい。びっくりしている表情が、きみの子猫のようなベイビィフェイスをより愛らしくするよね。


 「ちょ、ちょっと待ってください…! いったいなにを!?」

 

 事態がつかめていないエリカちゃんの手を握ったまま、目標地点まで走る。

 

 さっきから遠目に見えてはいた。ここは荒野で、俺とエリカちゃんは徒歩だったけど、こいつらは馬に乗ってきていたのだ。馬はすこし離れた岩のところに繋がれていた。

 あの馬、盗んで逃げてやる。



 出来る気がした。乗馬なんてしたこともないが、なんとなく『できる』と思った。やっぱり俺の前世のボニーさんは牧場経営者とかだったに違いない。この馬にたいする絶対的な自信。


 戦闘力はまったくないようだが、それなりには使えそうだ。


 鎧のようなものを来た男たちは軽装の俺たちより脚が遅い。俺は体力がないので、長距離だとやばいがこの距離なら追いつかれはしない。


 「野郎! 俺たちの馬を盗むつもりだ!!」


 いえす、あい、どぅー。


 「心配するな。あの馬は乗り手を選ぶいい馬だ、俺たち以外の人間は乗せないし、ついてもいかない」


 え? そうなの? そうかなぁ、できる気がするんだけど。


 「ああ、そうだったな。おいガキ!! お前もう絶対死ぬぞ! 舐めたことしやがって!」


 怖いよ。あの人たち怖いよ。たっけて。お、馬のところについたぞ。


 「……はぁ…はぁ…、ど、どうするつもりなのよ?」


 エリカちゃんもちょっとお疲れの模様。


 「ひひーん」


 馬さんはつぶらな瞳でこっちを見ている。ほう、キミは名馬らしいね。乗り手を選ぶらしいね。うん、いい子だねぇ。とりあえず繋がれてる縄は外すね。


 「ねぇねぇ。俺も結構いいよ? 馬の扱い上手いみたいだし、愛情たっぷりに育てるよ。あの人たち鎧とか着てるとか重いでしょ。俺についてきたほうが幸せだと思うなぁ」

 「……」


 馬さんは何か考えているようだった。


 「バカが! ムダだ!!」


 後ろのほうでサムライABCが自信満々に言ってる。もうすこしで追いつかれちゃうね。


 「ね? ね? 悪いようにはしないからお兄さんと一緒に行こう。にんじんなども後であげるから、ん? お父さんとお母さんに知らない人について言っちゃダメ、っていわれたの? うーん。でも他の子よりちょっとオトナになってみないかい? ん?可愛い子だねぇ。君」


 馬さんの背をやさしく撫で回す。


 「木戸…やっぱり戦うしか…」


 エリカちゃんが残念そうに可愛い顔を曇らしたそのときだった!


 「ひひーん!!」


 馬さんは全員(7頭いた)一斉にいななき、1頭は俺とエリカちゃんによりそってきた。


 空気読めるやつだな。俺は2ケツしたかったんだ。


 「ありがとう! 馬さん!! 仲良くやろうね!! さあエリカちゃん、乗って!」

 「え? え? ちょ…」


 俺は白馬の騎士よろしく馬さんにまたがり、エリカちゃんを後ろに乗せる。

 振り返れば馬さんの元飼い主は唖然とした表情でこっちを見ている。


 「ふはははは!!! この馬はもらったぞ!! そしてさようなら!! もう二度と会うこともないでしょう!… ばーか! ばーか! 死ね!」


 俺は可憐な少女を後ろに乗せ、そして食料や水、その他もろもろの物資を積んだほかの馬さんたちを引き連れ、荒野を疾走した!!


 自分にこんな乗馬スキルがあったのかと感動するほど、その疾走は早く、そしてよどみなかった。風を切る快感をたっぷり楽しみつつしばらく走ると、町が見えてきたので、とりあえず入った。宿を借りてメシも買うことにした。


 え? お金持ってんのか? って。そんなの馬売ったにきまってんじゃん。盗品だし? 足ついたら困るしさ。すぐ現金化するのが基本だよね。


 つぶらな瞳の彼らは荷馬車に揺られてどこかにいったよ。それが何か?




現在の状態


木戸雄介/ウィリアムHボニー(レベル2)

得意スキル:馬泥棒


当面の目標

落ち着く

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