攫われた王子?
インフェルに言われるがまま従うと、レヴィンの体が赤い円柱に包まれ、一瞬で今までいた景色が変わった。
眼前には、見上げる様な階段が一段ずつ小さな火が灯されて行く。
階段の頂上を見上げるも、周り全体が薄暗く目視では確認出来ない。
インフェルは口で言う代わりに顎をくいっとしゃくり、足元を照らす階段を登る様に指示する。
相変わらずにこやかな笑顔は崩さない。
カツンカツンと靴音を響かせ、慣れた様子で階段を登っていくインフェルの後に警戒しつつ続く。
登って行くと、一段、又一段と、火が消えていく・・。
レヴィンは試しに一段戻ってみると、又火が付いた。
「何してんの」
「い、いやっ不思議だと思って??」
インフェルはクスクス笑いながら、レヴィンを見下ろす。
「危機感の無い人だなあ??君は一応攫われたんだよ?レヴィン王子」
「・・・目的は何なんだ??」
「まあまあそんな焦らないでさ?良いから付いて来てよ、王子」
再び背を向け、階段を登り始める。
納得行かず口を尖らせつつも再び後に続くレヴィン。
階段を登り切ると暗闇が広がり、インフェルは指を鳴らす。
すると瞬く間に今まで無かった筈の風格のある館が出現した。
建物の周りに火が燃え盛り暗かった一帯に光が灯り明るくなり、視界が広がる。
「中にどうぞ?」
客人を招く様に、丁寧に招き入れられる。
明かりの代わりに火が使われ、幻想的な雰囲気も醸し出す。
先を歩いていたインフェルは、扉を開け放ちレヴィンを部屋の中に入れた。
中に入ると5人の視線が一気にレヴィンに集中した。
「!!」
「こいつが例の王子か?」
「ふーん??」
「へえ?良い男じゃない」
「初めまして」
「・・・・」
部屋にいた個性の強そうな5人は立ち尽くすレヴィンを興味深そうに観察する。
「まあ座ってよ、レヴィン」
半ば強引に5人の中心に座らされる。
じいいいい〜〜。
す、すっげえ見られてる!?
両脇の2人が近過ぎる位に見てくる!!
黒髪のセクシー系な美人だけど、妙に迫力がある紅一点の女に、長身で体格が良いが、少し軽そうだが明らかに威嚇してくる男。
後の3人は童顔で、子供っぽい奴に、ちょっと年齢の高い渋い男に、儚げで口をパクリとも開かない奴は如何にも無関心を装う。
「な、何なんだよこいつらは」
「仲間みたいなもんだよ??まあ何かすれば返り討ちに遭うの王子だから気を付けてね」
隣の体格の良い男はニヤニヤしながら、ボキボキ拳を鳴らす。
「脅かしちゃ駄目よ?ディラ、インフェル、・・ね?レヴィン王子??」
「!!!」
ふうっと耳に息を吹きかけられ、足を絡ませてくる女に思わず慌てて離れると女は髪を耳にかけ、微笑する。
「ふふっ、可愛い〜赤くなっちゃって」
「〜〜!」
か、からかわれてるのか!?これ!?
「イッインフェル!!何で俺をこんな所に連れて来たんだよっ!?いい加減目的を言えっっ!!」
空気に、特に黒髪の女の目線に耐えきれず、立ち上がりインフェルを指差す。
「ん、率直に言うとさ?僕達に手を組んで欲しいんだ」
「はああ〜?」
我ながら素っ頓狂な声が出た。拉致しといて手を組めって何だよ!?
「君に拒否権無いから」
出た!!インフェルの笑顔での脅し!!
「手を組むって俺と手を組んで何すんだよ、こいつら只者じゃ無さそうだけど・・こいつらだけで充分なんじゃ??」
5人がピクリとレヴィンの言葉に反応した。
隣の女がレヴィンの顎を人差し指ですっと撫で、白い足を絡ませて耳元で囁く。
「悪いようにはしないわ?私達に協力して欲しいのよ?そしたら貴方にも良い事してあげる・・」
「いっいちいち・・くっつくな!!」
「そんな顔で王子なのに女慣れして無いのねえ?手取り足取り教えたげようか??」
「そっそんな事よりっ、えっ、ええと!?な、なんだっけ!?」
「俺に聞くな。しかもアイリーンの色気にガッツリ動揺してんじゃねぇよ」
「あ、ああ、そうだった!!」
隣のディラとか言う男に言われ我に返る。
「よ、要はお前らの手を汚さず俺になんかさせる気かよ!?」
「人聞きが悪いな、とある男に接触したいんだ、王子を囮にしてそいつを呼び出したいだけさ」
「充分物騒じゃねえかっっ!!何が囮だっっ!!」
ディラがテーブルに足を乱暴に置き、レヴィンを睨む。
「王子様よ、悪いが利用させて貰うぜ??力付くでもなあ??」
「乱暴は良くないよ」
「お前が言うなあっっ!?こんな紋章で脅しやがって!!早く消せよ!!」
「どこどこ??」
「ギャアアア!?下じゃねえよ!?」
「ア、アイリ右腕だよ」
インフェルが仄かに赤い顔でセクハラから助け舟を出してくれた。
アイリーンがレヴィンの紋章を確認する。
「あら、本当だ。こんな物つけられちゃって」
「然りげ無く服を剥いでいくなあ!!」
セクハラ女王みたいな女から離れ、インフェルの方に逃げる。
「だから何なんだよこの紋章は!!変な技かけなかったか!?」
インフェルはゆっくりティーカップに優雅に口をつけ、啜り一息付き笑顔を消す。
「かけた、しかも強力なやつ」
「・・・」
笑顔じゃないインフェル怖え・・。反射的に背筋がゾクッとした。
「暫く王子には役に立って貰うから」
「い、嫌だ」
「ん?何か言ったかな?紋章忘れたかな?」
「!!」
こっちに逃げたのは不正解だった様だ。
な、何かとんでもない場所に連れて来られたかも知れない・・。
「だ、だけど、内容次第では、脅そうが、拷問しようがなあっ、俺は得体の知れないお前らに協力する気も手を貸す気も無いからな!」
言い切った後で静まり返る室内にレヴィンは首を傾げた。
「ふうん??いい度胸してんじゃん、ぬくぬく育った箱入りの王子かと思いきや、それともただの命知らずかまあ、バカって訳でも無さそうだな」
「だろう??僕もそう思ったんだよ。だから攫って来ちゃった、しかも攫われたのに全否定しない所が甘いよねえ、レヴィンは」
そんな理由で俺を攫ったのか!!
インフェルはにっこり笑い、レヴィンを再び宥める様に座らせた。
「・・・王子にはある貴族と接触して貰いたいんだ、レヴィン王子なら貴族と接点あるでしょ??」
「貴族・・・?」
インフェルは頷き、他の5人も眉を潜めるレヴィンの答えを待つ。