紋章を刻まれたレヴィン
初投稿です。
よろしくお願いします。
「レヴィン、レヴィンはどうした!?」
「部屋にはいません!」
「又、抜け出したか。探せ!!今日は何としても刻印を刻むのだ!!」
城が挙って騒ぎ出す。
今日は王子の16の誕生日。
王子としての儀式の日だ、それなのに王子はもぬけの殻だった。
王子達の教育係である、執事サーマスは今日もレヴィン王子の事で頭を抱える。
次男であるレヴィン様は、長男である真面目なニヴィ様に比べ、少々マイペースで、型破りな所がある人だ。
王子である自覚があるのか無いのか、考えが読めない事で溜息を吐くのも少々では無い。
しかし、確かな剣の腕と、人を惹きつける魅力と、それに、器の大きさを持っていた。
金色に輝く髪に、意思の強さを秘める吸いこまれる様な瞳、男女問わずに目を引く端正な顔立ちをしている。
又、良いのか悪いのか身分等に捉われず、親しくなれる人だった。
長男のニヴィ様は、容姿は無難な男だったが、城の跡継ぎとして、実直にコツコツ積み重ねられる性格で、穏和で真面目なので、見ていて安心していられるが、王になるには少々頼りない。
2人が合わせて1人だったら良かったのだが、中々上手くは行かないものだとサーマスはため息を漏らす。
今日もレヴィン様は、剣の訓練か、城下町にいる庶民の連中の元にでもいるのだろう。
そう鷹を括っていたのに、探せど探せど、どこにもおられない・・・!?!?
まさか儀式が嫌で、逃げ出したのでは!?!?
あんなマイペースで好奇心旺盛な型破りな王子、世に送り出したら何を起こすかわかったものじゃない!!
「この大陸中探せ!!王子を必ず見つけ出すんだ!」
「はっ!!」
屈強な兵士をずらっと一列に並べ、王子を隈なく捜索に入る。
何故だ!!何故見つからない!!
容姿の目立つ王子の事だ。すぐ見つかる筈と思っていたのに、行方が分からない!?
こんなに探してもおられないとは何かに巻き込まれたのだろうか?
大陸の外にフラリと旅にでも出たのだろうか?
いつもの剣の訓練をしている中庭の草の根を掻き分けてもおらず、項垂れ膝をつく・・・。
サーマスに至らない所でもあっただろうか?
好きな女性でも、出来たのだろうか??
王子と言う身分に嫌気が刺したのだろうか???
色んな思案がぐるぐると頭を駆け巡り、心配で仕方無くなる。
レヴィン王子・・一体どうなさったのですか。
その時、サーマスの脳天に衝撃が起きた。
「!?」
「サーマス様!?」
・・・何か固い物が頭に落ちてきた・・・。
頭が猛烈に、ズキズキする。尋常じゃ無い痛みだ。
こんな事前にもあった様な気がするぞ、レヴィン様が、幼少期のクソガキの頃、天使の様な顔で私の頭に、壺を落としてきやがった。しかも王のお気に入りの。
子供の無垢な可愛い悪戯で落としてきたのだ。
子供の無垢な可愛い悪戯だから許した。
だが、あの時は死ぬかと思った・・。
今回、頭に落ちて来た物は、レヴィンの愛用の鞘に納められた剣だった。
・・あのクソ王子。
サーマスは、剣を拾い上げ、頭上を見上げギロッと睨み付けた!!
木の上で呑気に眠りこけるレヴィン王子。
寝顔は可愛いんだが、寝起きが非常に悪い!!
王子の癖にどこでも寝てしまう!!
何度幼少期に人攫い騒動が起きたかわからん!!
絶対レヴィン王子のせいで私の寿命は20年は縮んでるに違いない!!
レヴィン王子の教育係になってから、急に老いたな。と同郷の者に哀れな目で心配された。
「王子!?起きて降りてきて下さい!!今日は刻印を刻む日です!!」
・・返ってきた返事は規則正しい寝息だけだった。
この野郎。このサーマスも王子には目を瞑って来ましたが、いい加減に堪忍袋の尾が切れましたよ?
サーマスは怒りに任せ、王子の寝てる木を揺らした!!
「サ、サーマス様!?」
我を忘れたサーマスを止める兵士達。
段々と大きく揺れる木からバランスを崩したレヴィン王子が寝ながら落ちて来た。
「いってええ〜〜!?」
背中を打ったレヴィンは、いきなり痛みで覚醒した。
王子に駆け寄る兵士達を他所にまだ寝ぼけ眼のレヴィン。挙句に呑気に欠伸をする。
ちっ、ダメージは無かったか。
「どうした?皆で揃って」
まだぼんやりしてる人懐こい笑顔で自分を取り囲む面々を見遣る。
「どうしたじゃねえ〜!クソ王子!!」
怒りを越えに越えたサーマスは、自分の立場を忘れ、素が出てしまっている。
「何をそんなに怒ってんだよ?サーマスは」
「お前のせいじゃあ!!今日は何の日だあ〜!?」
「・・・何かあったか?・・・痛えっっ!?」
サーマスは無性にイラっとし、レヴィンの剣の鞘で王子の脳天を小突いた。本気で。
残念ながら、石頭の王子には大したダメージは与えられなかった様だ。
こうしてはいられん!レヴィン王子を急いで支度させねば!!王が首を長くしてお待ちだ!!
兵士と仲良く雑談を始める王子を引き摺り、この日の為にサーマスが職人に作らせた王族の衣装を身に纏わせる。
赤を基調とした細身のデザイン、肩にはレヴィンの髪と同じ、金の繊細な装飾が施され、華やかさを引き立てる。
サーマスは目を疑った。
あの、破天荒な王子が立派な王子に見えた。
上品な王族の衣装は主役にならず、彼の引き立て役になった。
皆が王子に見惚れ、言葉を失う。
貫禄すら漂う王子の晴れ姿にサーマスは涙で視界がぼやけていく。
「これ窮屈だな」
・・・感涙が引っ込んだわ・・・。
レヴィン王子は容姿だけは、文句の付けようが無いんだがな。中身は相変わらずだ。
現に、王子が歩くだけで兵士やメイド達が目を奪われる。
ニヴィ様は私に感謝の言葉を述べたのにな・・。
馬鹿な王子にはニヴィ様の何倍も苦労したのに、感謝の一言位欲しい。
「あ、サーマス」
「は、はい、王子!!」
王子からお言葉を頂戴出来るのだろうか!?
淡い期待を胸にする。
「今日何するんだっけ?」
「さっき説明しただろうがっっ!!今日は王子が16になられたので、このアレクス城の紋章を刻むんです!!」
「ええ〜何か痛そうだな、紋章ってあれだろ?平和の象徴の宝石、俺剣が良いな〜?」
「有り難い儀式ですよ!?レヴィン様のお父上アレクス様があの宝石に灼熱の炎を使う恐ろしい男を封じ込めたんですよ?今だって世には恐ろしく強い奴等が蔓延り、この城はアレクス様と屈強な兵士達の力で平和なんですよ?アレクス様は素晴らしいお方です。王子も16なんですから、もっと自覚を持ってくださいよ」
「・・・だったら俺も戦いたいな」
ポツリと呟いた言葉は、サーマスの耳にしっかり届いた。
「王子!?王子は確かに剣のセンスをお持ちですが、世に蔓延る奴らは生身の人間には歯が立ちません。王子はしっかり城を守って下さい!!」
「兄貴がいるじゃん。それに俺がこうしてる間にも苦しんでる人達がいるんだろ?そう言う人達を守るのも俺ら王族の役目なんじゃ無いの?」
「王子・・」
何考えてるか分からない人だったが、こんな事を考えていたのか。
そう言えば昔から王子は心根の優しい勇敢な人物だったな。
その横顔には、姿こそ似てないが昔の勇敢なアレクス様を彷彿とさせる。
ニヴィ様とは違うが、レヴィン様も素晴らしいお方だな。すっっかり忘れていたが。
サーマスは王子の成長が嬉しくて、涙で前が見えません〜〜!!
レヴィンは儀式の為、薄暗い地下に下りていく。
地下牢より、更に下に下りていくと、儀式の為に作られた広間に出る。
黄金の床に、散りばめられた宝石からは眩い光を放ち、幻想的な雰囲気が醸し出される。
既にアレクスが待ち構えていた。
サーマスは、入り口で陰ながら微笑みつつ、見守る。
王子も一人前のお年になられたか。
16と言えば、王族の成人のお年。
ふふ、王子も威厳のある立派な王の前ではいつもより大人しいな。
「レヴィン、今日の日を迎えられた事を父は嬉しく思うぞ」
「ありがとうございます。父上」
レヴィンは膝をつき、王に頭を下げる。
やれば出来るじゃないですかあ!?王子!!
サーマスは嬉しさの余り、目頭を下げる。
「レヴィン、紋章はどこに刻む」
「父上と同じ右肩で、お願いします」
「ほお?私と同じとな?」
「はい。父上に少しでも近付きたいのです」
「そうか。分かった。右肩を差し出せ」
王は息子の言葉に嬉しさを噛み締める。
顔に出ぬよう、顔を引き締める。
サーマスは号泣でハンカチを濡らした。
レヴィンは、真剣な顔で服を脱ぎ、右肩を出す。
王は驚く。
鍛え込んでいる体に目を見張る。
ふと、思い出す。自分も16の時にがむしゃらに己を鍛えてきた遠い昔に想いを馳せる。
・・背後に飾られた真紅の玉石に封じたアグニの気配を感じる。奴は玉石の中で怒っているのだろうな。
いかん、今は余計な事を考えてる場合では無いな。
レヴィンの儀式の最中だったな。
この城の紋章を刻み込んでやらねばな。
「レヴィン、腕を・・」
レヴィンは、今まで見た事無いような精悍な顔で、自分では無く背後に視線を真っ直ぐ向けている。
剣呑な雰囲気に喉を鳴らし、自分も背後を見遣る。
そこには今まで存在していなかった筈の、鮮やかな赤い髪に真っ黒なローブに身を包んだ男が、アグニを封じた真紅の玉石を手にして眺めていた。
あの燃えるような赤い髪。
アグニ?いや違う。誰だ?似ている・・アグニに。
「やあ、君がアレクスか?初めまして。僕はアグニの息子のインフェル。今日は君の息子の誕生日に僕からもささやかだけど祝いに来たんだ」
「い、祝い?」
「そうさ、今日は儀式があるんだろう?紋章を刻む手伝いをしようと思ってね?」
インフェルは、燃え滾る炎を右手に纏わす。
その男は穏やかな笑いなのに見る者を怯ませる凄みがあった。
「な、何故お前がアグニと同じ力を?」
「僕はアグニの息子さ、力が宿っても不思議じゃない、父上の封印された玉石は貰っていくよ」
「行かせんぞ!貴様も封じてやる!」
レヴィンを庇い前に立ちはだかるアレクス。
インフェルは楽しげにくすりと笑い、アレクスを取り囲むように火柱を起こすと中でアレクスの断末魔の様な悲鳴が響く。
「父上!?」
「大丈夫。熱いけど動きを封じてるだけだから、恐ろしく熱いけどね?もう一人の執事も気絶してるだけさ」
入り口を見るとサーマスが既に倒れていた。
「父親の玉石を奪い返しに来たのか?後、何で俺なんだ」
「へえ?怖く無いの?随分冷静だね?」
「そんなの今関係無いだろ。質問に答えろ!!」
「だから君の成人のお祝いに来たって言ってるだろ?」
レヴィンはチラリと視線を流し、サーマスの横に転がってる剣に目を向ける。
一歩、一歩ゆっくり笑顔で、近づいて来るインフェル。
「逃げ・・ろ・・・・」
火柱の中から父、アレクスの声が微かに聞こえ途絶えた。
インフェルは眉間に皺を寄せ、一瞬アレクスを見た間を見逃さず、レヴィンは後ろに飛び、愛刀を手に握り刃をインフェルに向けた。
「そんな物、僕にとっては遊び道具にしかならないよ?」
インフェルが手を差し伸べると、レヴィンの王家の剣はドロリと溶けた。
「!!」
インフェルはレヴィンに不敵に笑いかけた。
「さあ、楽しい儀式の始まりだ、王子?」
インフェルとレヴィンのみ炎の円に囲まれる。
これで逃げ場は失った。
笑顔のまま燃え滾る炎を纏った掌を向けた。
「サービスだ。刻印はお前の城にしてやろう」
インフェルの掌から自分の住む城の絵が火で描かれていく。
悪魔の様な顔で笑うインフェルに背筋が凍り付く。
「我が灼熱の紋章で苦しむが良いっ!!貴様を縛り付けてやろう!!」
インフェルはレヴィンの右肩に赤く燃え盛る様なアレクス城の刻印を焼き付けた。
ジュウウッ!っと、煙と共に体が焼かれ、余りの熱さと痛みに絶叫する。
そんな様子を楽しむ様に見下ろし、インフェルは姿を眩ました。
儀式の間には、倒れるアレクスとサーマス、痛みに堪えるレヴィンの姿だけが、残されていた・・・。