疾さの攻略法
「俺を一人で相手するとは、いい度胸だな。後で吠え面かいても知らねーぞ・・!!」
隼は、自分を一人で相手をすると言った俺の発言に怒りを露わにした。
空気が揺れる。心臓の鼓動がやけにうるさい。
ーーこれが、戦い。
今まで味わった事ない極度の緊張感に身体が押しつぶされそうだ。
「てめぇなんて、俺一人で十分なんだよ、イカレツンツン野郎。」
「・・俺様の、髪の毛をバカにしたなぁァァァ!!!!」
隼と名乗る男は、この異様なまでに尖った髪の毛によほど誇りがあるらしい。
その瞬間、隼は消えた。
・・どこだ?
相手の場所が分からないようでは剣の振るいようがない。
このままでは、宝の持ち腐れとなってしまう。
俺が右往左往する中、声だけが頭に響き渡る。
「俺の、頭をバカにしたこと・・後悔させてやんよ!!」
隼が、いた場所はすでに風の跡が残るのみ。
先ほどよりも、早いスピードで加速している。
「疾きこと、風の舞!!!」
声だけが木霊した次の瞬間、隼が・・百人程になった。
ーーいや、違う。これは隼が百人居るわけではない。
速すぎるのだ。身体が数多の残像を生み出しているのだ。
身体が震える。いつ、どこから隼が襲いかかってくるのかも分からない。
百人の隼が、現実に百人いるかの様な錯覚に陥る。
・・落ちつけ・・落ちつけ。
身体が言うことを聞いてくれない。
闇雲に剣を振るおうとしても、身体が振ることを拒絶してしまっている。
「なんだぁぁ?震えているのかぁぁぁぁぁ?」
まるで百人全員が同じ事を話しているようだ。
恐怖の文字が頭をよぎる。
ーーーてめぇ、その程度か?
・・その時、誰かの声が聞こえた気がした。
ーーーインテンションだ。
この俺様を抜いたんだ。そんなお前がこんな相手にビビっているのか?
こんな雑魚にビビっている程度の男に俺は抜かれてしまったのか??
ーー違う。俺は、こんな敵にビビるような男じゃない。
空元気でもいい、ハッタリでもいい。
俺は、自分で自分を言い聞かせる。
ーー思考を逆転させろ。さっき、インテンションはなんて言っていた?
何故、お前が俺を抜いたかだって?
そんなの・・・・
「決まってるよな・・!」
震える拳を握る。勝算は出来た。活路は開いた。
おい!!なにが決まったんだよ!!
「うるっせぇな・・黙って見てろよ!!!!」
もう、震えは止まった。
いや、むしろ増したかもしれない。
武者震いって奴だ。
「どんな敵だって、止まってしまったらただの棒人形なんだよ!!」
俺は、カバンから5円玉を揺らす。
それだけで・・時は止まってしまうのだ。
隼は・・あそこだ。半径5メートル程の地点にいた。
この距離なら、剣を振ることは可能だ。
1 俺の髪の毛をバカにしやがって!ぶっ殺す!
2 夜鬼様の命令だ!貴様を消す!
3 速く動くの疲れたなぁ・・
この場合、選択肢なんて俺にとってはどうでもいい。
この世界で、時を止めた。
それこそが重要なのだ。
例え、どれだけ速いスピードで走れようが時を止めてしまえばそれだけで場所がわかってしまう。
そんな簡単な事に気付けなかったのだ。
初めての戦闘で内心、恐怖を感じていたのもあるだろう。
今回は、完全にインテンションに助けられてしまった。
だが・・次こそは。
俺はあいつを越えてみせる。
それが、俺の新たな目標だ!
とは、言ってももう時間がない。
場所は分かった。
選択肢はなんでもいいのだが、ここは一番ましな・・
「3!」
その、瞬間失われた時はゆっくりと針を進めた。
ーー用意は出来たか。相手は一瞬で動く男だ。
相手に一瞬の隙を与えてはならない。
「いまだぁぁぁぁぁ!!」
俺は、時が動きだすほぼ同時に隼がいた方向に剣を思いっきり振り下ろす!!!
ザクっ!!!!!!!!!
剣の先には隼の血が染み付いて紅に染まっていた。
「な・・何故・・?俺のスピードが・・負けた???」
隼の身体は、そのまま地面に転げ落ちた。
地面には砂が血に染まるほどだ。
そのまま、隼の身体が動きが止まったのであった。
なんだよ!やるじゃねぇかよ!お前!
自分の先に血が付いてしまったことなど全く気にしていない様子で、インテンションは興奮を露わにする。
「いや、お前こそすげぇよ・・」
俺は、ただ剣をその方向に向けただけだった。
結局、その程度のことしか出来なかったのだ。
ーーしかし、身体は・・剣が勝手に動き出し、一瞬で隼の身体に突き刺したのだ。
これが意思のある剣・・インテンションの強さ・・!!?
いやぁ!なかなか面白ぇよ!眠!ただの変態野郎なんて思っていた30秒程前の俺を殴り飛ばしてやりたいぜ!!
「お前・・俺のことそんなこと思っていたのかよ・・まぁいいよ。俺こそお前を舐めていたわ。今日からは親しみを込めてインテって呼ぶわ」
・・イ・・インテだと!!?インテンション様なら分かるが、インテなんて名前願い下げだ!!
「だってお前の名前長くてしかもなんかダサいし・・しょうがないなぁ・・なら、少し隠してあげて・・イン◯って呼ぶことにするか」
俺の高貴な名前を下ネタ扱いするなぁ!!!
「あぁー、うるさいうるさい。じゃあこれからよろしくな、イン◯」
えっ・・?ちょ、マジでそれで定着させる気・・?
やっぱりインテでいいから名前で呼んでくれない?
ってかインテって呼んでくださぃぃぃぃぃぃぃ!!!
「しょうがねぇなぁ、じゃあインテにしてやるよ。感謝しろよな。」
変態如きがこの俺様を侮辱しやがって・・許さん・・許さん・・
なんか恨みがましい声が聞こえて来るような気がしなくもないが俺は全て聞かないことにした。
「眠くーーん!!大丈夫ですか!!」
隼と戦う時に、安全な場所に隠れてもらっていたみんながこちらに向かってきた。
体力が回復していく。
みんなの声がどんな事よりも活力剤となったのだ。
戦いは終わったんだ。
俺は、仲間を守ることができたんだ。
その実感が湧いてきた。
「敵は俺が片付けた!よし。みんな!いくぞ!」
この仲間がいればどんな敵にだって勝てる気がする。
ー....ー....ー....ー....
電話が鳴った。
そろそろ、隼がインテンションを奪った男達を抹殺している頃だろう。
僕は、受話器を取る。
その向こうの声は、さっきの店主であったが明らかに声も震えていて最早別人のようだった。
「も・・申し上げます!先ほどインテンションを奪った男達が・・隼様を倒したようなのです!!」
・・僕は自分の耳を疑った。
・・隼が・・負けた??
一人でそこらのギルドなら三十分そこらで壊滅に追い込める実力はあるはずだ。
そんな男が殺されたなんて脳の理解を超えていた。
「倒した人数は・・何人だ?」
大方、数十人でリンチでもしたのであろう。
いや、もっと多かったのかもしれない。
「それが・・インテンションを持った男が一人で倒したのです!」
ひ・・一人???
頭は沸騰寸前だ。
その後も店主は何か言っていたが最早耳に入らない。
勢いに任せ受話器を切った。
怒りが頂点を超えるとはこの事であろう。
・・許さない。
「この SOLAに敵対した罪・・死ぬだけでは済まさんぞ・・・・」
僕は、すぐさま幹部達を呼びつけた。
・・必ず生かして返さない。
この世界にまた一つやることができてしまったのだ。
僕は、怒りの中に嬉しさもあったのかもしれなかったのであった。




