団長の剣
俺達は、再び遊実の家へと戻ったのであった。
「ねぇ、あの時2人で何してたんですか?」
「私がいなきゃあのまま何をするつもりだったんですか?」
などと、帰り道の途中散々、智癒さんに質問攻めにあっていたがお互い口を割らなかった。
この出来事は、二人だけの秘密だ。
二人だけの秘密・・なんと甘美な響きなんだろう。
間違いなくこの思い出は二人にとっても忘れられない思い出になるはずだ。
無表情でいつも何を考えているのかわからない月華だがあの時ばかりは共感することができたと思いたい。
家に帰って俺達は、遊実に晩飯をご馳走になると月華と遊実は技を完璧にする為に練習に行った。
それ以外のメンバーは就寝に向かう。
昨日寝たからかすっかり自分の家のような感覚だ。
俺は催眠術の練習をしていた。
催眠術だって鍛えたら何か出来るのかも知れない。
俺は、様々な可能性を確かめた。
・・しかし、結局思いつく訳がない。
闇雲に練習するもやはり思考のある者に対して選択肢の中から相手の行動を選択・・
この活用法しか、わからない。
八方塞がりか・・
俺が、練習を始めて2時間程経過すると・・
コンコン・・
優しくノックする音が部屋に響く。
疑う事は無いだろう。
「智癒さん?今、開けますよー」
俺は、疑うこともなくドアまで向かいカギを開けた。
「って・・月華!!?」
「・・きちゃった。」
優しくノックした張本人は、智癒さんではなく月華だ。俺は大声を上げて智癒さんに気づかれないように慌てて声を静める。
智癒さんにこの現場を目撃されたらベテランの刑事並みの取り調べが始まることになるだろう。
「え・・でも、月華の部屋は向こうだぞ?」
同じ2階ではあるが月華、智癒、剣華の順に部屋は割り振られていたはずだ。
意図的でないとこの部屋には来ないだろう。
「ちょっと・・暑くて・・」
そう言った、月華の服を見ると確かに暑そうだった。
特訓を済ませお風呂で汗を流した後なのであろう。
お風呂に入ると身体が熱くなるから冬には嬉しいが夏には辛いものがある。
クーラーは各自の部屋に用意されているが、部屋全体が冷たくなるのにも時間がかかる。
そこで俺の出番ってわけか。
「わかったよ。じゃあ入ってくれ」
「・・ありがとう。」
柿音の服装はパジャマだった。
赤色のパジャマがやけに煽情的だ。
恐らく下着はつけていないのであろう。
女の子特有の胸の膨らみが少ないながらも透けてきて見たくなくても思わず目がいってしまう。
「・・どう?」
俺が月華のパジャマ姿に目がいっていたのが気づかれたのだろう。
上目ずかいでまるで男を挑発するような仕草で、見上げてくる。
「・・かわいいよ。」
俺はどんな言葉で語ろうか悩んだがどれほど言葉を飾っても伝わらないだろう。
俺はシンプルに一番頭の中で思い浮かんだ率直な感想を述べた。
「・・・・うれしい。」
頬を赤く染めながら目を逸らしながら照れる月華の姿は思わず一目惚れしてしまいそうになる程の破壊力があったのであった。
その後、たわいのない雑談を三十分ほど話した頃だろうか、月華は自分の部屋に戻っていった。
「じゃあ、また明日。ばいばい眠・・」
「ああ、また明日な。」
小さく手を振る仕草が小動物のような保護欲に駆られてしまう。
その日の夜はグッスリと眠ることが出来たのであった。
ー.... ー....ー....ー....ー....
そして朝、みんなの話し声で目を覚ました。
相変わらず瞼は重いが使命感で目を覚ますと下の階に向かうと俺以外の全員はリビングで話してていた。
大きめのテーブルにみんな足を曲げて座る日本独特の囲み方だ。
「・・今日の予定は決まったで。武具を揃えるんや。」
「えっ・・でも金が・・」
俺が役立たずだったせいでモンスターを狩りに行った時の成果は芳しくなかった。
一体・・どうして?
「僕のお金があったのだ!」
・・そうだった!
俺はカバンの中身を確かめる。
剣華が苦労してモンスターを狩ってきて貯めたお金が収納されていた。
「・・それで武器を買おうなのだ!」
幼女から奢られるという行為はプライドどうこうの問題というよりは倫理的にどうかと思うが背に腹は変えられない。
「剣華・・すまねぇ・・すまねぇなぁ・・」
「気にしなくていいのだ!その金で武器を買うといいのだ。」
「剣華ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は力の限り剣華を抱擁した。
まるで我が子が、かけっこで一等賞を取った父親に気分だ。
要約すると、物凄く褒めてあげたい。
ー....ー....ー....ー....
遊実の家から一時間程歩くと武器屋が見えてきた。
サンクルーム通りの武器屋程の大きさはないが歴史ある雰囲気がある。
そんな場所に所狭しと剣だけではなく鎧や銃なども揃えてある。
・・なにがいいかなぁ。
俺は目に付いた剣や様々な武器を見た。
・・・しかし、これだっ!と直感が働くものがない。
「おっ、少年よ。武器を探してるのか?」
無精髭が目立ついかにもおっさんの風貌を醸し立つ男が訪ねてきた。
カウンターに入ることからこの男が店の店長であることが判明した。
「いやぁ・・探しに来たんやけどこれ!と言う奴が無くて・・」
店長は、無精髭が似合うおっさんだった。
「なんだぁ?ここの武器が気に入らねぇっていうのか?」
「いや、そういうことじゃないんだけど・・」
店長は、一瞬考えた後、何かを思い出すように呟いた。
「そういや、あれはまだ誰も手に入れてないか・・」
「なんだ?あれって?」
「今の名実共にNO1ギルドSOLAの初期団長、空洞寺 空が愛用していた意思があると言われている剣だ。」
「空洞寺 空!?」
その男の名前とギルド名には俺の記憶に新しい。智癒さんが一番初めに入ったギルドだ。
智癒さんを拾ってくれた、最強のギルドを作り上げた団長の剣がここに眠っているというのか!!
「・・なんでこんなところに?」
この武器屋はお世辞にも良い武器屋とは言えないだろう。
立派な装飾がしてあり、豪勢に作られてある武器屋ならまだしもこんな場所に最強の男が愛用していた剣があるというなんて信じられない話だ。
「この近くに刺さってるぜ。ついてこい。」
店長は俺を手招く仕草をして、俺をカウンターの奥に案内した。
・・そこは埃が舞い散りまともに掃除されているような形跡もない。
・・本当にこんな場所にあるのか心配になるがそれよりも懸念していた点が一つあった。
「俺、あんまお金ないんだけど・・」
5000ベル預けられたとは言え全部作ったんじゃ申し訳が立たない。
だが、まさに最強の剣の一つと言っても過言ではないような剣がその程度の額で済むとは思わない。
「いや、タダでいいぜ」
「えっ?タダ!!?」
そんな上手い話があるのだろうか。
タダより怖いものはない。
「あぁ・・ただし、抜けたらな。」
目の前には埃が舞い散る部屋の真ん中。様々な武器が散乱しているなか、その剣は真ん中でそり立つ様に存在感を醸し出していた。
・・どれがその剣か?
辺りにはたくさんの剣が散らばっている。その中のどれかという可能性だってある。
しかし、考えられない。
その剣は他の剣とは放たれている気配が違うのだ。
一目見れば釘付けになってしまう。
この剣から目を話すことなど出来やしない。
「この剣・・インテンションは、意思がある剣だとは言ったが認めた者にしか感じることは出来ない。そして認めた者にしか鞘を抜くことができない。最強だが 空洞寺空にしか使えない剣。たった一人で帰らぬ主を待ち続ける孤高の剣よ。」
地面に突き刺さる剣・・インテンション。
この剣を手に入れる事が出来たら、俺は変われるかもしれない。
守られてばかりなんて性に合わない。
俺は慎重に剣の柄に触れようとする・・!!