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柿音の笑顔


「・・それから、もちろん警察の人が来て・・刑務所にいた時期もあった。・・でも、私には全く反省するということができなかった。」


そう語る、月華の後ろ姿はどこか寂しそうだが安心したような口調だ。


「・・むしろ反省なんてしたくなった。・・私としては悪夢の元凶を倒した 英雄ヒーロー。・・賞賛される事はあったとしても咎められるとは思わなかった。」


「柿音・・」


こんな小さくてかわいらしい少女に隠された大きすぎる過去におれは言葉もでなかった。出せなかったのだ。

余計な慰めは同情になってしまう。

同情じゃだめだ、この問題は。


「・・私が上手く話せなくなったのもそれから。・・人が怖くなった。・・男なんて信じられなくなった。・・本に再び読み出したのもそれから。・・前よりも熱中して読みふけっていた。・・現実が怖いから。・・今すぐにでも別の世界に飛びたかったから。」


すっかり夕焼けに染まっている波打ち際がまるで柿音の心が泣いているように感じた。


「・・そんな時だった。・・刑務所にいた時、神様と名乗る人が現れて願いを言ったら異世界に連れてあげるなんて言われた・・」


俺は寝ていた時に、勝手に付けられたけど柿音は普通に話していたらしい。


「・・普通、信じないよね。こんな話。・・でも、私は信じた。・・だってこんな世界から抜け出せるためだったらどんな物にもしがみつきたかったから・・私が願った力は守れる力。・・他人を守るなんて大層な事は考えてなかった。・・ただ、自分だけ。自分をあらゆる関わりから結界を貼りたかった・・」


「そうだったのか・・」


今でこそ、人を守る為にも使っていたが当初はそんな事は考えていなかったのだ。

嫌な現実から目を逸らす為に結界を張る。

いわゆる本のように現実からも守れるようになりたかったのだ。


本の中では例えどんな絶望な状況になろうとも本人に及ぼすことはない。


・・それを現実でも再現したかったのだ、柿音は。


「・・だから、私は汚れた女の子なのよ。・・私なんかに構わないで。

・・私みたいな犯罪者と相手していたら、いずれ身を滅ぼすことになるわ・・」


そういって、その場から柿音は逃げ去ろうとする。

俺はその逃げ去ろうとする手を掴む。


「海に・・・・入ろう!!」


「・・・・え???」


俺に手を掴まれて、振り返った柿音の姿は・・心が泣いているような気がした。


「いいから!俺が手を掴んでやるから!」


そういって、思いっきり柿音の手を掴む。


「嫌っ!!!」


柿音は拒否反応と呼べるほどの勢いで、掴んだ手を離そうとする。


・・だが俺は絶対に離さない。

例え腕を引きちぎられようがこの手は離さない。


「俺が絶対に柿音を守ってやる!!!!!」


「え・・なんで・・」


柿音は何故私みたいな女に・・?

と表情が語っている。


「俺は確かに非力で柿音よりも闘える男じゃない。・・だが、守れる。柿音に巻きおころうとする障害から!!だから、この手は離さない!」


「嫌っ・・・!!嫌っ・・!!」


必死に振り離そうとする手を必死に繋ぐ。

今、この手が振りほどかれたら一生柿音の心は閉ざされたままだ。


それだけは・・俺がさせない。

俺が・・柿音を守る!


「柿音は汚れてなんかいない!!柿音はかわいい!!綺麗だ!!それは俺が保証する!!」


「・・そんなの私の見た目でしょ!!どうせ男なんて見た目だけなんだから!!」


「見た目だけじゃない!!!心もだよ!!綺麗過ぎたから・・。心が純粋過ぎたからそんな奴に騙されたんだ!!俺が・・二度とそんな奴に騙されなくしてやる!!」


柿音は・・振り離そうとする手を・・止めた。


「・・ほんと?・・」


声が震えている。怖いんだ。

男が、男という人種が。


「もちろんだよ、俺が守るよ。だから・・一緒に泳ごう。俺は柿音と一緒に泳ぎたいんだ。」


「・・・・うん・・・・」


俺は柿音の手と繋いだまま、夕焼けが照らす海を目指した。

・・もう、この手は離さない。


「・・海って冷たい。」


「当たり前だろ。海なんだから」


俺は柿音の手を繋いだまま、海に入る。

確かに昼間よりも冷たいかもしれない。

・・だけど、今は柿音の手の感触がある。・・あったかい。


・・俺達は10分ほど柿音が海に入る練習をした。


柿音の手を繋いだまま、バタ足の練習やクロールの泳ぎ方を練習する。

それを真剣そうに聞いて実践しようとする柿音。


・・手を繋いだままならクロールの泳ぎ方だって完璧になるまでになった。


「柿音、偉いぞ。そろそろ上がるか。」


「・・うん。」


辺りはもう夜に差し掛かろうとしていた。

・・そろそろ帰らなくてはならない時間だ。


「多分もう今の柿音なら、手をつながなくても泳げると思うぞ。次、泳ぐ機会があったら手を離して挑戦するか?」


「・・嫌。」


柿音は今だに海に上がった時もこの手を離そうとはしなかった。


「・・それと、私の名前は柿音じゃない。月華っていう名前がある。」


えっ・・?それってもしかして下の名前で呼べってこと?



「でも、前に下の名前でよぼうとしたら・・」


「私の名前は柿音じゃない。げ・っ・か・っていう名前がある。」


口調は、それ程強くないが迫力がある。

有無を言わせないという表情だ。


「わかったよ・・月華。」


「うん。・・ありがとう、眠。」


月華は初めて俺を下の名前で呼んでくれた。

認めてくれたと思っていいだろうか。

心なしか月華の表情も薄紅色になっている。

・・かわいい。


「眠君!!そろそろ帰りますよー!!」


そんな時、智癒さんの声が遠くから聞こえてきた。


「いこっか・・。」


「ああ。」


月華は俺の手を繋いだまま智癒の声がする元へ走っていく。


どこか嬉しそうな月華の表情をおれは忘れないだろう。


「そういえば・・」


月華は急に立ち止まった。そのまま俺の方に身体を向ける。


「私の水着・・どう?」


そう言って手を離し、1回転して見せた。

月華の水着は、智癒さんの水着のように露出する訳ではない。

だけど、とてもかわいい。

ワンピースのような生地にスカートの部分にフリルがついているのがかわいい。


「すごく・・かわいい。」


「そっか・・うん。」


月華は最大の笑みを浮かべる。

その笑顔も最高にかわいかった。


「・・じゃあ中も・・見る?」


「・・・・え???」


中・・それは一体何の中なんですか?っと思っていると柿音は後ろに付いているファスナーをさす。


「これを下ろしたら・・中見れるよ。」


そう言って、柿音は俺がファスナーを下ろせるように後ろを向く。


「い・・イインデスカ」


俺が声が思わずカタコトになるほど緊張していた。

こんなに緊張しているのは生まれて初めてだ。

なんせ、俺が女の子のファスナーを下ろせるのだ。


「失礼しまーす・・」


俺はファスナーの先端を持ち、ジジ・・と言う音を鳴らしながらゆっくりとファスナーを下ろす。

ファスナーを下ろすと・・月華の綺麗な背中が見えて・・

月華の背中は艶やかであった。

撫で肩っていう奴だ。傷一つなく美しい。そして、なによりエロい。


よしっ!このまま!!


「あっ!見つけました!!眠君!!」


思いっきり上げた!!!!!!


「あっ・・智癒・・」


何時もは、智癒さんを見ると嬉しそうな月華もこの時ばかりは残念そうだ。


俺も死ぬほど残念でたまらない。

まぁ・・今回は綺麗でエロい背中を見られたので良しとしよう。胸は今度に・・。


「ところで二人で何をしていたんですか?」


ギクッ!!どうやら、ばれてはいなかったようで安心したけどどう答えたもんか・・


「・・泳ぐ練習していた。ずっと。」


月華はさっき起こった事はなかったことにしたようだ。


「えっ・・?でも月華ちゃんは泳がないって・・」


これ以上、余計な詮索されてたまるか!


「さっ、辺りはもう真っ暗になりますよ。急いで遊実の家に向かいましょう!」


そう言って、半ば強引に智癒さんの肩を押して遊実と剣華がいる方向へ向かった。


その向かう途中に・・


「ありがとう、眠。」


そう柿音が小さい声で発したような気がした。

柿音の笑顔をまた見たい。

俺は心に誓ったのであった。

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