柿音の過去3
「いいよ、付き合おう」
世界が止まったような気がした。
一瞬、その言葉の意味が分からなくなって10秒程考える・・
「いいの!!?だって・・関谷君はモテるし・・」
色んなクラスの女子からモテモテでファンクラブがあるという噂まであるような人気者の男の子と付き合ってしまっていいのだろうか。
夢・・みたい。
私は自分の頬っぺたをつねろうとして・・そんな醜い顔を見せたくなかったから止めた。
「俺は他の女子なんて興味なんかないよ。ただ、最初から柿音・・いや、月華ちゃんだけだよ」
関谷君は私を苗字を言おうとして下の名前で言った。
大したことはないのかもしれないけど特別な意味を持っているような行為に見えた。
「あ・・ありがとう。関・・和人くん。」
顔がまるでゆでだこの様に真っ赤になるような気がした。
関谷君とは言えるのに、和人君と言うと恥ずかしさの余り身投げしたくなる程だ。
「なぁ、月華ちゃん。俺達恋人同士になったんだよなぁ・・?」
そう言って、和人君は私に接近してくる。いつもの優しい雰囲気とはどこか違う。
「えっ・・うん。」
「なら、こういうことしてもいいよなぁ・・?」
和人君はそういうと、私の唇を奪った。
・・え??頭が真っ白になる。
そりゃ確かに恋人同士ならそういう事をするのは当たり前である。
でも、順序とか雰囲気とか・・
「ちょっ・・まって・・」
私は慌てて和人君から距離を取ろうとする。
しかし、一瞬で和人君は詰め寄り再び獣のように私の唇を奪った。
「うっ・・ぷはっ・・」
息ももはや出来ない。小鳥が囀る様な優しいキスなんかではない。
本能のままに、まるで獣のようなキスだ。
そんなキスが1分ほどした頃であろうか。
和人君の手が・・胸に伸びてきて・・
「あっ・・いやっ!!」
私は和人君を突き飛ばした。
和人君はそのまま押されてよろけて地面に倒れた。
「まだ、そういうのは早いと思う・・」
再び立ち上がった和人君の目は私が知っている目ではなかった。
「ああっ!!?てめぇ、優しくしてやったら調子に乗りやがって!!」
和人君は怒り狂って私の髪を思いっきり掴んだ。
「痛い・・痛い!!」
「よくも俺を吹っ飛ばしたな!!」
そのまま、和人君は私のお腹を思いっきり殴りつける。
お腹に激痛が走る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
私は何とか許してもらおうと必死に謝罪する。
「じゃあ、土下座しろよ。ただ痛いのを許してもらおうと思ってるだけの謝罪じゃないっていう証拠みせろよ」
私は和人君の変貌振りに驚く暇もなかった。
脳が早く謝れと必死に危険信号も出している。これ以上和人君の機嫌を逆撫でてはいけない。
私は髪の毛を離されるとその場で床にひれ伏した。
屈辱だ。でも、これ以上暴力を振るわれたくない。
「す・・すいませんでした。」
私は土下座しながら言葉を口にする。
「なんで、謝ってんだよ。理由を言えよ」
だが、それだけでは和人君は許してくれない。
「和人君を吹っ飛ばしてしまいすいませんでした。」
私は理由を述べて謝罪する。
そして、土下座している私の頭を和人君は踏みつけた。
「違うだろ。恋人なのに逆らってすいませんでしただろ。」
私の頭を踏みにじりながら、和人君は言う。
もう私に逆らう気力など残っていなかった。
「恋人なのに逆らってすいませんでした。」
私は言われたとおりに口にする。
このままじゃ、人形だ。
「せっかく付き合ってあげたのに調子に乗りやがって。白けたよ。今日はこのくらいにしてあげるね。よ ・ ろ ・ し ・ く ・月華ちゃん。」
そう口にして和人君は屋上を去った。
・・これは夢なの?
悪夢にも程がある。さっさと冷めて欲しい。
私は状況が飲み込めずその場に座り込んだ。
そっからその後の事は何も覚えてない。
和人君が会いに来てなにかを言っていたがもはやなにも頭に入っていない。
私は家に帰ると、懐かしい物が見つかった。
・・カッターナイフだ。
そう、私は昔いじめられていた時、いわゆるリスカと呼ばれる行為を行っていた。
そうすることで日頃のストレスが発散できた。
もしかしたらこの苦しみから解き放たれるのかもしれない。
今でも、その跡は少し残っている。
この跡を見て、もうしないと決めていたはずだった。
私はそのカッターナイフを誘われるように手に取り、思いっきり刺す。
刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す
腕から血が滴る。
この激痛で今日起こったことをリセットしようとした。
だが・・消えない。消えない消えない消えない消えない消えない・・
私は制服の胸ポケットの中に血が付着した歯が付いているカッターナイフを入れた。
・・何故入れたなんかなんて私にも分からない。
ーー翌日。
私が和人君と付き合ったというニュースは瞬く間に校内中を駆け巡ったのであろう。
周りから嫉妬の眼差しで見られたり尊敬の眼差しで見られたり・・
皆、見方はそれぞれであったが周知の事実になったということは明白であった。
黒板には、相合傘に私と和人君の名前が書いてあった。
その名前を照れくさそうに消そうとする和人くん。
全ての行為に吐き気を催しそうになったが私は耐える。
その後、友達とワイワイ話した後、いつものように和人君が近づいてきた。
いつものように笑い話や雑談などを私に持ちかけて笑わせてくれる。
だが、いつもと違うのはその去り際。私に囁くように顔を耳に近づけると・・
「昼休みの後、時間残しておけよ」
そう、囁いたあとニッコリ笑って私の元を去っていったのであった。
ーー昼休み。
私は命令された通りに向かった。
昨日のように和人君は立っていた。
もちろんこの屋上には人影すらない。
「昨日はよくもやってくれたよな。さっ、昨日の続きしようぜ。」
私を性的な対象でしか見ていないという表情だ。
この表情を見て、確信した。
昨日の事は夢なんかじゃないってことを。
まずは昨日のようにキスをする。
もう、私は抵抗なんてしなかった。
・・できなかった。
そのまま、抵抗もできないまま和人君の手が胸に伸びてそのままもみはじめた。
「全く苦労したよ。君を落とすのは・・」
和人君は抵抗できない人形のような私の全身を舐め回すかのように触れる。
もはや、私は人形だ。
「体側服もさ・・。月華ちゃんの好感度を上げるためだけに、わざわざあのブス共に体操服無くすように命令してさ・・」
私・・は・・人・・・
「その見返りにあんなブス2人を抱いたんだよ。とんだ罰ゲームさ!でも、そのおかげで月華ちゃんを今から抱けるなら問題はないけどね!」
私の心はもう完全に砕け散った。
あの優しかった和人君は幻だったのか。
それともこれは、悪夢の続きなのか。
いい加減、いい夢を見させてよ。
こんな夢ばっかじゃ嫌だよ。
助けてよ・・誰か。
「僕達は付き合ってるんだから。これは和姦さ。さぁ、一つになろうか・・」
チャックを下ろす音が聞こえる。
これから私の初めては奪われてしまうのだろうか。
嫌だ・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
こんな・・こんな悪夢!!
私が晴らす!!!!!
「てめぇ・・よくも・・」
一心不乱に私が刺していたのは和人君の心臓だった。
大量の血が吹き出しその場で倒れる和人君。
もはや、もうあの優しい目などはない。あれは殺意の眼差しだ。
・・目の前にいる人は和人君じゃない。
・・こいつは悪夢の元凶だ。
私が退治してやる。
私は、悪夢の元凶を刺す。刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す
私が次に気がついた時にはもう悪夢の元凶の意識はなかった。
・・終わった。
この悪夢から解放されるのだ。
私は 嗤う。
心の底から。
もう既に心は完全に壊れてしまっているのかもしれない。
ただ、嗤い続けていた。
最後に残ったのは血が大量に付いた屋上とカッターナイフをもった嗤い続ける私と血まみれで倒れた悪夢の元凶だった。