バカンスサマー
俺は、今にも心臓が張り裂けそうでいた。
鼓動が加速する。心拍数が上がり、ドクンドクンと伝わってくるようだ。
そう、俺は俗に言う緊張って奴が起こっているのだ。
何故か・・何故かって・・?
もうすぐ水着が見れるからに決まってるだろ!!!!
俺は男の水着を貸してくれる場所に行って青色のトランクスのような水着を手にとってそのままレジに持っていった。
何故その水着を選んだかって?たまたま最初に目に付いたのがそれだった、ただそれだけ。
Tバックの褌でもない限りもう最初に目に付いたものを持っていくことを決めていた。
理由・・?理由は、男の水着なんかに全く需要なんて無いことともしも万が一先に智癒さんたちがついていたら嫌だったからだった。
俺がまだかまだかと楽しみに待っていた所に、
お待たせしましたー!
などと行って水着の女の子達が俺の元に駆け寄ってくる。
これが楽しみで仕方がないのだ。
5分ほどで着替えを終えて待ち合わせようといった場所で待機していたのであった。
1時間後・・
「まだかな・・?」
思った以上に智癒さん達は遅かった。これじゃ早く用意した意味はなかったな。
まぁ、いいか。そろそろかな・・
そう、思っているとこちらの場所に向かって近づいてくる2つの影。
智癒さんと剣華だ。
「お待たせしましたー!待ちました?」
「いや、もう全然待ってないよ」
俺が人生で一度だけでも言いたかったセリフ、ベスト3に入るセリフが言えただけで俺は満足だ。
ちなみに2位と1位は完全に下ネタなのでここでいうのはやめておこう。
だが、俺は智癒さんを見た瞬間そんなことどうでもよくなった。
「智癒さん・・その水着は!!?」
「どうですか?似合ってないでしょうか?」
「いえ、むちゃくちゃ似合ってるんですけど・・」
俺はこの炎天下の夏に鼻血でぶっ倒れそうになった意識を根性で元に戻した。
智癒さんの水着は三角形だったのだ。
そう、胸は確かに隠れているが両方の豊満な胸を隠すのに心許ない三角形だった。
もちろん下の方も三角形で隠れている。
俺は、もうこの水着を見た瞬間1時間待ったとか全てのことがどうでもよくなった。
エ・・エロい!!300点!!!
「智癒さん、完璧です・・」
智癒さんは俺のセリフを聞いて後ろを向いてガッツポーズのようなものをしていたが全く気にならなかったというよりは、それどころではなかったのだ。
落ち着け、マイジョイスティック。
俺の息子はもう既に今にも暴れ出そうとウズウズしていた。
だめだ・・こんな場所でお前が暴れだしたら止められないんだよ・・落ち着いてくれよ・・
嫌だね!!!親父!!俺は自分の本能のままでいくんだ!
俺の息子は、言うことを聞かずに暴れだした。
こうなれば誰も止めることはできない。
思わず前屈みになって、必死にこいつが暴れるのを抑え込むことくらいしかできないのだ。
「僕のナイスバディな水着も見るのだ!」
誰だよ・・今、俺は息子と親子喧嘩してた所に・・
下を見ると剣華が水着を着ていたのであった。
その水着とは、そう古来より伝わる紺色で自分の名前が刺繍している一部のマニアには絶大な人気がある水着。
スクール水着だ。
俺はその水着を見たらなんと息子もこの辺にしといてやるか・・と言わんばかりに収まっていくのを感じた。
確かに剣華はかわいいしスクール水着との相性も悪くない。
だが、幼児体型なのだ。
さすがにこの水着に反応してしまったら俺は今頃犯罪者として牢獄にいるだろう。
「うん・・カワイイヨ」
「へっへ・・当然なのだ!」
せめて・・よくビデオで見るような大事な部分だけハサミで円形に切り取ったらまだ俺の息子も危なかったのかもしれないとだけ言っておこう。
「どうします?連絡された所によるとあと30分くらいで月華ちゃん達が来ますけど・・」
「じゃあ、待っておこう。俺達だけ先に楽しむのは良くないだろう」
そして・・30分後。
「お待たせや!」
そう言って、遊実達の影がこちらに見えてきた。
「遊実・・グッジョブ!!」
「せやろー。とっておきなんやで!」
遊実の水着は、智癒さんほどの露出は少ないが黄色のビキニだった。
元々の素材がかなり大きい分、多くの部分がはみ出してしまうので結局遊実も智癒さんと同じぐらいの露出度になってしまっている。
思わず目がいってしまう胸はもう、まさに 芸術。
はちきれんばかりの胸はもう、遊実の方を向いてしまえば自然とそちらに目線が吸い寄せられていくようだ。
「・・どうでもいいから、早く行こ・・」
そう行って歩き出そうとする月華ちゃん。その水着は、かわいかった。
もちろん胸の面では遊実や智癒さんに遠く及ばないだろう。
だが、とにかくかわいい。思わず保護欲をそそられてしまいそうだ。
水着は露出はほぼないといっても過言ではないTシャツのような水着なんだが、下半身に付いているフリフリが最高にかわいいのだ。
「月華ちゃん最高にかわいい!」
俺は思わず、少し食いつき気味に言ってしまった。
「・・・・そう。・・」
月華ちゃんは、興味ないと言ったような口ぶりでそのまま歩き続ける。
だが、俺がそういったら少し顔を赤くしたような・・?
まぁ、夏だし暑いしな。
「じゃあ海にLETS go!!!!」
太陽がサンサンと照らし、まさに絶好の海日和っていう感じの海だった。人は、思った以上にはいない。
貸し切りとまではいかないが俺たち含めてこの海にいるのは20人程度なものだろう。
「いくぜぇぇ!!」
思いのままに飛び込む。
・・・・気持ちいい!!!
やはり1時間30分太陽に照らされていたので身体は水を欲していたのだろう。なんとも言えない心地よさが染み渡る。
「じゃあうちはちょっと泳いでくるで!」
そう言いながら、遊実は砂浜とは反対の方角に泳ぎ始めた。遠泳をする気なのだろう。
やっぱり遊実はあの見た目からか泳ぎは抜群に良かった。まず、フォームに無駄が一切ない。俺達が水泳の時によくやるクロールが遊びに見えるほどだ。
泳いでする様は、まるで魚にでもなっているようだ。
智癒さんは、遊実さんほどは泳げないが平均よりは泳げるようだ。
智癒さんは何故かわからないが遊実に対抗意識を燃やして遊実のように泳ごうと必死に泳いでいた。
他の二人はどうしてるかな・・?
俺は海も程々に砂浜に上がり他の二人の所在を確かめることにした。
剣華はすぐに見つかった。砂を集めて何かを作ろうとしていた。
「何を作るつもりなんだ?」
俺は、剣華に聞いてみることにした。
「御城なのだ!!御城はすごいのだ!でっかいのだ!」
どうやら、剣華は御城を作りたいらしい。俺には、ぐちゃぐちゃになった砂の塊にしか見えないが本人が御城というなら御城なのだろう。
もしかしたら、30分くらいたったらこれが御城になっているのかもしれない。
・・ありえないけど。
俺は剣華ちゃんを励ましつつ柿音の元に向かうことにした。
「柿音ー?柿音ー?」
・・いた。
柿音はビーチパラソルの下で本を読んでいたのだった。
その姿は様になっていてかわいいとは思ったがそうではない。
「柿音ー?泳がないのか?」
「・・結構です。」
即答だった。柿音は一切こちらの方を向かずひたすら本の世界に没頭してしまっている。
「もしかして・・泳げないのか?」
「・・・・そんなこと・・ない・・です・・・・」
嘘だ。これはもう確実に嘘をついてしまっている。
うーん・・どうしたものか。
このままじゃ、柿音は楽しくないだろう。
さすがに剣華のように砂遊びっていうのも嫌だろうな・・
・・そうだ。
俺は名案を閃いてしまった。すぐさま、みんなを集めた。
「ビーチバレーをしよう!!」
そう、海の定番ビーチバレーだ。
これなら泳げない人でも遊ぶことは可能だ。
「でも・・バレーボールなんてどこにも・・」
・・そうだ。確かに誰もバレーボールなんて持ってきていなかった。
普通なら・・できるはずがない。
そう・・普通なら!
「あるじゃないか。昨日出来るようになったとっておきのバレーボールが。」
そう言って俺は柿音の方を指差した。
「まさか・・!!まさか・・!」
全員の疑問が確信に変わる。
「そう、結界でバレーボールを作ればいいんじゃないか!!」
結界は確かにボール状にまで圧縮して飛ばしたら相当の威力になる。だがバレーボールぐらいの大きさならろくに威力はでない。
ただのバレーボール程だ。
つまり・・バレーボールは、作れる!!
「ええやんけ!面白そうやないか!やるでー!」
こうして、俺達のバレーボールは始まった。
チーム分けは、Aチームが俺、智癒さん、柿音
Bチームが剣華ちゃん、遊実に決定した。
「・・ハァァ!!」
柿音が結界を程よいサイズに丸める。・・完成だ。
「ルールは9点先取制のデュースあり。じゃ、始め!」
まずは、Bチームからのサーブだ。
遊実が構える。
そして勢いよくサーブが放たれる。
・・どこだ!!?
あまりの速さにボールを見失ってしまった。
・・どこだ?どこだ?
「そこやで」
指差した方向を見ると既にこちらのコートの地面に埋もれているボールがあった。
は・・はぇぇ!!!
「まだまだだね」
何処かで聞いたことのある決め台詞を吐いた後はもう向かうのワンサイドゲームだった。
剣華ちゃんなんてもはや置物だ。
サーブは打つたびに点数が入るしこちらがサーブでも強烈なシュートをお見舞いされる。
あれ・・?ビーチバレーってこういうスポーツだったっけ・・?
もう、全部あいつ一人でいいんじゃないかな?
「甘いね!」
ここにバレー界のリョーマ君が誕生したのであった。
「いやー!やっぱ運動はええもんやな!」
一人で全てを成し遂げたエースでありキャプテンでありMVPでもある遊実は、コーヒー牛乳を豪快に口に含んでいた。
「ぷはぁー!運動後のコーヒー牛乳は身体に染み渡るで!」
「私達は全然疲れていませんけどね!」
それもそうだ。っというよりは動けなかったというのが正しい言い方だ。
俺達はただ炎天下の中試合中、ひたすら無双される様を見ていただけだから疲れとはもはや無縁だった。
「まぁ、いいです!遊実さん!私と水泳対決で勝負してください!」
「ええで、勝てるもんならな。」
「な・・なにをーー!!」
2人は、そのまま海の方に向かっていった。あの二人仲いいんだか、悪いんだか・・
「なら、僕は御城を完成させるのだ!!」
剣華ちゃんも砂浜の方に駆け出していった。
残されたのは、俺と柿音。
「なぁ、柿音。泳げないなら俺と一緒に練習しないか?・・」
せっかく海に来たのに、本を読んでるだけなんて寂しすぎる。
そう言って、柿音の手を繋ごうとして・・
「嫌っ!!!」
拒絶。拒否というよりは明らかな拒絶だった。
「ご・・ごめん・・」
「いや、こちらこそ無理やりしてすまんかった。」
いくら何でも、嫌がっている女の子を無理やり連れて行こうとするなんてデリカシーが欠けていたな。
「・・私ね。・・」
そう、柿音はうわ言のように誰かに聞いて貰うというよりは自分に言い聞かせているかのように。
「私は・・犯罪者なの。・・汚れてるの。・・こんな私を知って・・普通に接せられる?・・」
そう、それは俺が柿音と出会う前の世界で起きた悲しい悲しい悲劇の物語。