特訓の夜
夜が更ける。すっかり辺りは夜になり人の気配はまるでなくなった。
俺たちは、遊実の家に入ったのであった。
遊実の家は和風の家で、俺が住んでいた家の構造によく似ていた。
まぁ、こっちの方が広いけど。
「ひ・・広い!!これ、もしかして智癒さんの家よりも?」
智癒さんの家も結構広い方だと思っていたが、この家は更に上を行くようだった。
「ゆ・・遊実さんの家は田舎だからです!私の家はなんといっても都会だからです!物価は私の家の方が高いはずです!」
智癒さんはまさに反論を許さない勢いで畳み掛けるようにしていう。
そして・・遊実を親の仇のように睨みつける。
さすがの遊実も迫力に負けたのか少し押され気味になっていた。
その姿はまるで蛇に睨まれたカエル状態。
・・なんか智癒さんの性格がまた変わった気がしたけどもう今更なのでなにも言わないことに決めた。
「じ・・じゃあ、ほなとりあえずダイニングにいこか。料理作るし。」
その視線から逃げるようにして遊実はダイニングに向かった。
ダイニングも和風な感じだ。
大きな机が一つありそれに足を畳んで4人で座る。
畳がいい味を出している。
そこに20分ほど待っていると夕食が出てくる。
まぁ、大したことはなかったんで割愛させていただくがこれだけは言わせて欲しい。
美味かったと・・そして、やっぱり普通の料理が上手いと。
普通だ、普通。
決して毒のようなものをいれるのが普通なんていうんじゃねーぞ、うん。
「じゃあ、あんさんらは寝といてな。うちらは柿音と特訓するさかい」
そういって、遊実はポンっと柿音の肩を叩く。
なんだが、柿音は少し嬉しそうな表情に見えた。
間違いなく俺がやったら殺されそうだから絶対やんねーけど。
俺たちの寝室は2階にあるようだ。
普段、来客用に部屋を開けているそうだ。
その余った部屋を使わせてもらった。
布団はベッドなんかじゃなくて畳に布団を敷いて寝るという古き良き日本スタイル。
俺たちは冒険の疲れもあったのであろうか瞼を閉じるとすぐ深く安からな就寝に入った。
ー....ー....ー....ー....
時刻はもう既に12時を回った頃であろうか。
人の気配などあるはずがないこの深夜真っ只中。
家の裏にある庭で灯をともしながら練習する二人の影があった。
「ええか。球体は繊細なもんや。ギリギリを責めなければ大した威力にならん。だけど攻めすぎると割れて消えてしまう。とりあえずはイメトレなどをしてコツ掴んでいくで!」
「・・了解。・・」
この練習はまさにイメトレが物をいう。なんせ連発ができないのだ結界魔法は。
結界魔法は強力な攻撃でも守ることができたり圧縮して強力な攻撃を生み出すことができる反面、デメリットとして結界なら1日に3回しかできない。攻撃は一度うったら10分のインターバルがいるというデメリットが付きまとうのだ。
だから、何度も連続で練習することができない。慎重に、慎重に。
一回、一回が本番と言っても過言ではないのだ。
・・だめ。小さすぎて割れてしまった。
・・だめ。大きすぎてこんなの当てても意味がない。
いたずらに時間だけが過ぎていく。
ダメなのか。守ることしかできないのか、私は。
そして・・練習は20回におよぼうとしていた。
・・そんなの・・いや!!
私だって闘いたい。自分の身だけを守ることしか望まなかった昔の私から決別するように。
もう、あの男にも立ち向かう力があるという証明がしたい。
「目の色が・・変わったな。ええやんか」
作れ・・作れ・・
私ならやれる・・自分に自信をつける。
もう・・私は今までの自分じゃない!!!
球に魂を込める。しかし、それを割れないように慎重に。
心は冷まし中身は熱く。
そして・・その先の力を込めた先には小さな球ができていた。
「・・や・・やった!!・・」
自分にもこんな声が出せたのか。
そんなくらい大きな声が出た。
例えるなら初めてさかのぼりができたときや自転車に乗れたときなど。
今となっては当たり前のことだったが当時はできるようになるのがたまらなく嬉しく感動するのだ。
正直、身体はボロボロだ。
もう疲労感で瞼も虚ろだ。
だが、この経験だけは忘れないであろう。例え100年たとうが。
「・・柿音!球忘れてんで!!その次は飛ばすんや!」
「・・・・・・え?・・・・」
その床を見るとさっきまで綺麗に完璧にできた球は無残に散っていた。
・・そうだ。この球飛ばさないといけないんだった。
目先の作ることに集中していた余りすっかりそのあとについて覚えていなかったのだ。
・・・・辺りを見回すとお日様が今にも出てこようとうずうずしている。
チュンチュンという小鳥のさえずりが聞こえてきた。
二人の終わらない夜が始まるのであ った。
さぁ、次は水着回になりそうです!