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今日以上のボリュームで日頃から提供できればいいんですがねー……。
「一体何を――」
「誤魔化さなくて結構です。彼女は粗暴ではありますが同時に正直でもありますから」
「だからこそ粗暴さが際立つという負の要素も含みますが……」と語尾を濁しつつもそう言って断定するアリサさん。
おそらくこの使用人達は相当な信頼関係があるのだろう。
少なくとも自分の誤魔化すような台詞を言わせないくらいには。
「とにかく、」
咳払いが一つ。
「優希様、まずはその御自身が仰った言葉の真意を御教授願えますでしょうか?」
「真意……」
「はい」
『しんい』。この場合は『真意』だろう。
そう、真意。
何を以ってそうしたのか。
何を思ってそう言ったのか。
そこから始まる――『柳刃優希』という一人の人間の存在、あるいはその根源を示すそれなりの、それだけのちっぽけな理由。
「真意…………それは」
そんな。
そんなもの。
そんなもの、――――最初から決まってる。
「――――彼女の不幸なんて見たくないからですよ」
空気が凍てついた気がした。
だが、訊かれたからには説明しよう。止まってはやらない。
「彼女……紗希にはもう身寄りがいません。天涯孤独と言っても問題ないくらいには。だとしたら、このままただ学生をやっているだけじゃあ生きていけない」
そこで一旦言葉を区切った自分は、チラリと一瞥して。
「それは、もしかしたらアリサさん、あなたなら解るのではないでしょうか?」
「…………」
無言だった。
無言は消極的な肯定……と受け取っていいだろう。表情も張り付いていた冷酷さが消え去り、霧散しているのが良い証拠だろう。
「そうして考えるとですね、最良なんですよ。ココ」
「と、仰いますと?」
取り繕うように首を傾げるアリサさんは失礼な話、ひどく滑稽だった。ただ笑えないが。
「だって、ここで働いているのは女性だけでしょう?」
「はい…………成程」
理解が速くて物凄く助かる。正直紗希より話しやすい気がしてならない。
「そう、なら女性としては危険がこれで一つ減る。勿論自分も獣になるつもりはありませんし」
「…………」
その沈黙は信頼なのか懐疑なのか。
それはさておいて。
「それに安心しましたよ、その使用人……ユウマさんのあの行動には」
「…………………………はい?」
多分、会って初めてになるんじゃないだろうか――アリサさんが目を点にして驚愕している姿を見るのは。昨日今日で理解できるくらいには常日頃からクールそうな彼女からは、とてもじゃないが有り得ない状態だと思うのは自分だけではないはずだ。
「彼女はあなたを襲っ――」
「そうですね、襲われました」
「でしたら――」
「しかしそれは彼女の良心……いや率直に言えば敵意が反応したからでしょう?」
「?」
「アリサさんが言ったのではないですか――」
自分はアリサさんの先程の台詞、その一部を反芻しながら。
言ってやった。
――――『彼女は粗暴ではありますが、同時に正直でもありますから』
「……それが」
「つまり彼女は彼女自身でなくあなた含め使用人全員にとって悪影響を及ぼすと判断したからこその攻撃だと自分は思ってます。そうでなければアリサさんが『正直』と評するとは思えませんから」
「…………そうですね。これまでも彼女はなんでも力技で解決しようとはしますが、結局は私達を考えての事でしたから」
アリサさんにもどうやら思い当たる節があるようだった。であれば、もしかすると使用人全員がそう彼女――ユウマさんを捉えている事なのだろう。本人達がそう認め合って納得してくれるのならば、それ以上の説明は野暮という話だ。
…………それに。
理由は、あと一つだけ残っていた。
そもそも、理由なんて本当はそれ一つだけしかなかった。
すべてはそう――――醜い自分のためなのだから。
それは『七つの大罪』の一つ――――。




