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時間がなさすぎて展開が緩やかにしか行えない…………っ!
――いや、そうではないのだ。
「――――優希様、」
フッ――と。
目の前の使用人は目を細め、その黒い瞳から一瞬の『ブレ』を掻き消した。
そして、言う。
「――――それでは『処分』の方はどう致しましょうか?」
どこまでも冷血で冷静に、冷徹な台詞を。
「しょ、ぶん……?」
最初、自分は目の前の女性が尋ねたものがなんなのか、本当の本当に理解できなかった――否、脳が無意識に拒否をしていたのかもしれない。
ただ、それでも頭に染みるように伝わる事が一つだけあった。
それは。
「…………すいません、もう一回お願いします」
「ですから『処分』です、『処分』。漢字で言うと、処理の処に分数の分ですね」
その表情が冷血でも冷静でも冷徹でもなく――――冷酷だった事だ。
「…………………………」
思わず自分は絶句した。
その使用人の台詞自体に驚愕を示したのでも、急に不穏な空気へと移ろいだからでもなく。それを聞いてしまった自分が即座にその言葉の裏を憶測してしまっていた事に自分自身がドン引きしたからだった。
『処分』――その単語が指し示すのは一体なんなのか。
いや、そもそも――その『処分』の矛先はどこへ向かうのか。
「…………………………」
「優希様?」
「あ、いや……」
ダメだ。それを訊いてしまったら確定してしまう。
その『処分』という――明らかに暗澹とした内容しか連想しえない何かが対象へと向けられてしまう現実が。
それに。
「す…………ぅ」
心身共に疲れ果て。睡魔に総てを委ねている彼女の前でそんな話は、できない。
『この手』の話は彼女には聞かせられない。いや、聞かせたくないし知ってほしくもない。
だって――――。
「――」
内心で浅ましさが出た自身に舌打ちし、軽蔑してから。
「……アリサさん」
「優希様のお気持ちは大変嬉しくございます。ですが私を呼ぶ際は『アリサ』で結構で――」
「アリサ」
失礼ながらも話半分に済まさせてもらう。
いきなり呼ばれた事が予想外だったのか――それにアリサさんが呆気にとられている間に。シーツに頭を置く彼女の安眠を妨げないように慎重に、静かにゆっくりとシーツから身体を引いてベッドから下りた。それから足下にあった靴を履いてから、アリサさんへと顔を向けて言った。言わせてもらった。
それはあまりに図々しい提案で。
「場所を変えさせて下さい。いえ、変えましょう」
要するにただの下らない見栄だった。
最後の丁寧語は、わざとです。




