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「メイドメイドって……あの人はアリサさんと名乗っていてだな――」
「ほら! なんでもう名前を打ち明けてるような仲になってるのかな!?」
「いや普通は初対面の人としっかり話す時は名乗るものだろ?」
「いーや、ユウちゃんはそんなキャラじゃないもん!」
そうだったっけか。
…………確かに自分からは名乗ってはいない気も……するな。
「……アリサさんの方が名乗ってきたんだよ」
「それこそユウちゃんらしくないよっ!」
「……だから近いって」
彼女が平均より高い背丈を爪先立ちまでして最大限に顔を近付けてくる所為で視界いっぱいにフグみたいにむくれた彼女の整った顔が映る。やりづらいったらありゃしない。何がやりづらいのかは分からないけれど。
「……何だよ」
顔を近付けられて数秒――ひょっとすると数分、あるいは数時間経った頃に。
さっきまで自分がどれだけ後ずさってもその距離を保っていた彼女の方から急に顔を離した。それから一瞬視線を左に逸らしてからまた自分の方へ向き直し、破顔した。
意味が分からない。
「いやぁー、べっつにぃー?」
唇を尖らせて平然と嘘をつく彼女をジト目で見つめると、右手を顔の前でブンブンと振ってあははっと笑い出した。
意味が、分からなかった。
――――なんで。
乾いた、哀しげな表情で、空元気に笑っているのか。
「いやいやヘンな話じゃなくってね」
「…………じゃあ本当になんだよ」
「いやー、…………だんだん素が出て来たじゃない? って思ってね」
「……どこがだ?」
「だって最近のユウちゃん、他人行儀な接し方しかしてくれてないなーって思ってたから」
「そんな事は――」
「そんな事はあったよ」
自分はいつだって素じゃないか――と言い返そうとするより先に言葉で捻じ伏せられた。見れば急に真顔に切り替えて、
「ちょっと最近のユウちゃんは『自分』っていうのを失くし過ぎだよ」
こんな事を言ってきた。
「な――――」
「だってさ、昨日だってそうだよ」
私もだけどさ、と俯いて彼女は言う。
「…………ユウちゃんだってお父さんとお母さんを一気に失ったんだよ?」
……ああ。
「それに、お祖父ちゃんもでしょ……?」
ここで、彼女が顔を上げる。
ここで、知った。
「…………なんでユウちゃんは泣かないの?」
彼女は俯いていたのではなく、泣いていたのだと。
その光景を目の当たりにして――頭を殴られたような衝撃が奔った気がして、体が傾げた錯覚を覚える。熱に魘された時のように、地面が揺らぐようなあの感覚だ。
「なんで、って」
「おかしいよ……、」
『そんな事より』、両の頬を伝う水滴に気付いていないのか――とは言わせてもらえず、
「ユウ、ちゃんはっ、悲しくっ、ないのっ……?」
「それは――」
「……ううんっ、違う」
何も言わせてもらえなかった。
「私が言いたいのはそうじゃなくてっ――――」
「優希様、お待たせしま――――」
同時に、彼女も言わせてもらえなかった。
新たに声のした方を見れば、目の前の紗希の遥か後方にメイド服を着こなした大人びた少女が立ち止まっていた。どう見てもどう見なくてもアリサさんだった。そう、あの冷血で冷徹に冷静なアリサさんなのだが……。
「……大変失礼しました」
その温かい冷たさを誇る美貌に中に、苦々しいものが混ざっている気がしたのだ。
「待っ――――」
「……すいません、今行きますから」
すぐさま踵を返そうとするアリサさんを止め――ようと口を開いた戸頃で、アリサさんに向けていた自分の視線上にいる紗希の方が先にそんな事を言った。再び本人に訊き返そうと慌てて肩を掴もうとするが、先程の言葉と同様に――それより早くするりと逃げるように後ろを向かれてしまう。そしてそのまま無言でつかつかとアリサさんの方へ向かう。
アリサさんは一瞬自分の方に視線をチラリと向けたが、すぐ紗希の方へ切り替え、
「そうですか、ではお2人とも私の後をついて来て下さい」
と言って紗希を誘導する形で本当に踵を返してしまった。停止しているととうとう廊下の先の曲がり角の方へ2人が消えてゆきそうになって――置いてかれて迷ってしまうのもアレなので、自分も否応なしについて行かなくてはいけなくなり、早足で追いかける。体の中に船の碇の如く気不味さが突き刺さった気分だった。さっきコーヒーを飲んだばかりだというのに、いやに喉が渇いた。
「…………、」
今のアリサさんの黒曜石みたいな瞳が、『……良いのですか?』と尋ねてきていた気がした。
最後――紗希はなんて言おうとしたのだろう。
思考の負のスパイラルに駆られて俯くが、赤い絨毯が視界に映るばかりだった。
長ったらしい書き方ですかね自分……?
※感想で≪そんな事はないよ≫と言ってくれると大喜びします。
言ってみよーっ!(サイテーすぎる)
……冗談なので気にしないで下さい。




