少年と亡霊王子 3
『クフフ、と言う訳でこっちの世界にはモンスターがいます。そっちの世界にはいないだろ?』
「あんなのいるもんか。見た事も聞いた事も無い」
滅茶苦茶凶暴そうだったしな。前足かっちゃかっちゃいわせながら、頭ブルンブルン震わせてた。
「モンスターってあんなんばっかなの?めっちゃ強そうなんだけど」
『いんや、あれは人類未到達レベルだから。下の階層はもっと弱いモンスターばっかだよ』
「人類未到達?下の階層?」
『あー、それはこの世界の説明をしなきゃいけないから後でいいや。まずは現況を認識しなきゃね。
さてカナメちゃん、この部屋には何がある?』
王子に促されて、部屋を見渡す。
四方を石の壁に囲まれた20畳くらいの部屋、通路と同じで壁がぼんやり光っている。
特に何も無い、部屋のど真ん中に下に向かう階段があるくらいだ。後は、ぱらぱら石が落ちてるくらい。
…そこで気が付く。部屋の隅、角っこに何かが転がっている。
(…あれは、剣と鎧?)
『カナメちゃん、あそこに階段があるだろ?』
剣みたいのに気を取られていると、王子が話しかけてくる。
『あれ、下に行ける階段なんだけど、ちょっと行ってみてよ』
「え、やだよ。下にモンスターいたらどうすんの。俺のジョブたまごだよ、割られちゃうよ?」
『大丈夫だから行ってみてよ、話しが進まないでしょ』
そりゃそうだけど、なんて言いつつ渋々階段へ。
若干ビビりながら降りようとするが、階段の途中に変なものがある。
赤く光る、不思議な紋様。なんかCGっぽい。
「バカ王子、これ何?」
紋様を指差し、聞く。
『まあまあ、とりあえず触ってみ』
言われたので、やはりビビりながらそーっと触る。
…なんだこれ?紋様が浮かんでるただの空間なのに、しきりが存在するかの様に手を通さない。叩いてみると、固い。叩いても音がしないのも不思議だ。
『乗ってみなよ、平気だから』
言われた通り乗ってみる。うおすげえ、俺が乗ってもビクともしない。百人乗っても大丈夫…って、やかましいわ。
…て、あれ?するってえと…
『それは結界ってやつだな、それがあると下に降りられない。』
「ちょっと待って。…部屋の外には穴とモンスター、階段には結界。つまり…」
『そう、カナメちゃんは、この部屋から、出られない』
………
「…何をおっしゃるうさぎさん。それじゃあ詰んでるじゃないですか」
『見事に詰んでるねえ』
うそやん。異世界に来てみたら、部屋から一歩も出られませんでした…って、アホか。
『だがなカナメちゃん、安心したまえ。現状は確かにここから出られないが、俺がいる』
「え?」
『俺ならカナメちゃんに、ここから出られる知恵を、強さを教えてやれる』
「王子…」
『でもただじゃあ、教えてやらない。一つだけお願いを聞いて欲しいんだ』
「お願い?」
『ああ。心配すんな、とても簡単なことさ。今は言わないけど、ここから出られる様になったら俺の願いを叶えてくれると約束して欲しい。そうしたら俺が責任を持ってカナメちゃんを強くしてやる』
「今は言わないって。それは俺にも出来るような事?」
『言ったろ、簡単だって。ここから出られる様になったカナメちゃんなら余裕さ』
「…まあ、なにかしなくちゃどうしようもないし。わかった、約束するよ」
『よし…契約成立だ、改めてよろしくな。大船に乗ったつもりで、この優しい優しい俺様についてこい』
「泥舟じゃなきゃいいけど、まあ、よろしく」
握手は出来ないけど、確かに俺たちは、約束をした。
『じゃあ、俺のターン。ここで俺は、カナメちゃんの超喜ぶ情報を一つ提示する!!』
「そういやさっきそんな事言ってたな、んで何よ?」
『この世界、エルフいるよ』
「…なん、だと?」
『だから、この世界に、エルフいるよ』
「ソレハ、アノ、ミミガナガイ、アレデスカ?」
『言葉が不自由になってるぞ、カナメちゃん。だから、その耳が長いエルフがいるって』
「…ヒャッホーーー!!神様ありがとう!!」
それだけで、その一つだけでこの世界に来て良かったって言えます!!
『しかも、ここから出れるレベルなら超強くなってるハズだからな。強い冒険者はマジモテるぞ』
「マジか…」
『ああ、選び放題、より取り見取りだ。やったねカナメちゃん!!』
なにそれすごい。選び放題って、右手にかわいいエルフ、左手にきれいなエルフみたいな事だよな。それなんてパライソ!!
『まあ、俺の目算じゃ長くて10年かかるから。気長にやろうや』
「は?」
『最短でも5年はかかるかなあ。がんばれ!!』
…こいつ何言ってくれちゃってんの?馬鹿なの、死ぬの?10年かかったら俺25歳だし、5年でも20歳だよ?順調にいけば高校生になって、女子高生とキャッキャウフフな青春を送っていたハズなのに…
「嘘…ですよね、5年、10年て。俺の輝かしい青春時代が無くなっちゃうじゃん!!ホントはここからサクって出れる方法あるんですよね?」
『あるかボケぇ、ダンジョンなめんなよ。…ちょうど良いからここがどういうところか、今がどういう状況か説明しようか』
そう言って王子は説明を始めた。結構長い話なので要約しよう。
王子の話では、人々はこの世界の事をヴァールと呼んでいるらしい。印象だと文明のレベルは中世時代と同じくらいか。魔法やモンスターの事を考えると、正に異文化って感じだけど。
そして、ヴァールと地球の最大の違い。それは、ダンジョンが存在すること。
モンスターが生息するダンジョン、それがヴァールの各地に200から300存在するらしい。
『そして俺たちはダンジョンの傍に町を造り、国を造る。なんでだと思う?』
「わかんない。モンスターなんか危ないんだから放っておけばいいのに」
『そうなんだけどさ。カナメちゃん、さっき隅っこに転がってるの見てたろ』
「ああ、あの剣とか鎧?」
『そうあれこそがダンジョンから受けられる恩恵、ドロップアイテムだ』
王子が言うには、モンスターは倒されるとドロップアイテムって言うのを残すらしい。それは、武器や防具、その元になる素材、それに食糧なんかもある。その中には肉や魚、野菜はたまた飲み物まであるらしい。それにモンスターは、倒しても半日程で再度出現するので食糧を安定的に確保する事が可能だと言う事だ。
味も普通に人が作る物より美味しいらしい。
『一階層や二階層は馬鹿でかいからな、どれだけ倒してもモンスターがいなくなる事は無い。それに、モンスターは増えすぎると、ダンジョンの外に出てくるからな。どのみち、定期的に間引いてやる必要がある』
「ダンジョンの外にはモンスターはいないの?」
『ほとんどいない、ダンジョンから出てきた野良モンスターくらいだな。あと、神獣って呼ばれるのもいるけど、山奥なんかに潜んでいて人目に触れる事はまず無い』
野良モンスターはダンジョンからあまり離れた所には行かないらしく、人々はモンスターのいない所にも町を造ったりする。ただ、ダンジョンの傍の方が圧倒的に人口が多い。やはり、食糧の安定的供給が肝なのだろう。
そしてヴァールにある大陸のひとつ、ユラス大陸のエウロプと呼ばれる地方。そこにテイデンと言う山がある。その中に迷宮型と呼ばれるダンジョンがあり、その傍にエステバン王国はあった。
『そしてその国の王子として、俺は生まれた』
モンスターを倒して日々の糧を得る、という人の営みの性質上王家にも武力が求められる。歴史を紐解けばエステバン王国の初代国王もダンジョンに潜るとても強い冒険者だったらしい。
『王家の者は20歳になったら、ダンジョンの20層にいるあるモンスターを倒し、そのドロップアイテムである宝石を持ち帰り武の証を立てる、っていう掟がある。それをしなきゃ、どんなに王位継承順位が高くても国王として認められない、ってやつだ。』
そして、王子が18歳の頃、国王である父親が病に倒れた。そのせいで、王子は急ぎダンジョンに向かわなければいけなくなった。王家には有用な男児が王子と、その弟しかいなかったのだ。
『ちなみに、俺が生きてた頃の人類のダンジョンにおける最高到達階層ってどれくらいだと思う?』
「うーん、100階くらい?」
『正解は、海の向こうにあるアムル共和国の32階層です』
「え、いっちゃ悪いけどそんなもんなの?」
『ああ、そんなもんだ。だいたい平均して25階層くらい。理由としては、階層ボスの存在が挙げられる』
「階層ボス、1階層ごとにボスモンスターがいるのか」
『ボスのいる部屋には特殊な結界が張ってあって、一度に六人までしか入れない。それにそのパーティーが全滅するか撤退すると、瞬時に回復するっておまけつきだ。大体1階層上がると加速度的にモンスターが強くなるし、ボスはさらに強いし物量押しが効かない』
王子はダンジョンにちょくちょく潜っていたらしく、普段は3人でパーティーを組んでいたらしい。ただ、掟でダンジョンに行かなければいけなかった時は、一人が体調不良だったらしく二人でダンジョンに入ったらしい。
「二人って少なくない?」
『いやあその頃俺って、王国始まって以来の天才とか、祝福された王子とか呼ばれてて。剣も魔法もいけたし。実際20階層くらいなら楽勝だったんだよ』
「それならなんで…」
死んじゃったの?、とは続けられなかった。
『早い話、調子に乗ってたんだな。ボスは一度倒したら復活しない。このダンジョンは29階層まで突破済みだったから30階層ボスを倒そうってなったんだ』
父親が死んで国王になってしまうと、公務に忙殺されてなかなかダンジョンに潜れなくなってしまう。
30階層までの順調さも手伝って、必死に帰るよう求める仲間を押し切り、王子はボスに挑んだ。
果たしてボスは倒したが、仲間は瀕死の重傷を負ってしまった。そこで帰ればよかったが、仲間を残して一人で上に行ってしまう。
『どこまで行けるか試したかった、俺なら人類の最高到達階層まで行けるって思った』
…そして、そこには罠が待ち構えていた。31階に上がった瞬間、ここの階段にある物と同じ結界が発動する。下に降りられなくなった王子は慌てて空間魔法で外に出ようとするが、結界の力か魔法が効力を発揮する事は無かった。それは、上の階層に行っても変わらなかった。
王子は結界を消す方法を探して、俺たちがいる階層、40階層まで到達していた。
『ここに来るまで二年かかったよ。正直楽しくて仕方なかった、生きてる実感が半端なかった。この為に生まれたと本気で思ったし、本当の自分にやっとなれたと思った』
39階層のボスを倒した先に、結界を消すと思われる装置があった。装置は壊したが、そこで帰るという選択肢は、王子には無かった。
『二年は長すぎたよ。俺が帰らなかったせいで弟が王位に着いたはずだし、こと国政に関してなら弟のほうが優秀だと思った』
さすがの王子も39階のボス戦で重傷を負ったし、二年ものダンジョン生活のせいで病も患っていた。そして、40階層に上がった時に発動した結界を見て、心が折れた。
『そして、この部屋で死んでしまいましたとさ。ただ、問題はこの後だ。ダンジョンやなんかで、国王が跡継ぎを決めずに死んでしまうことがある。それを防ぐ為に、エステバン王国に伝わる秘術に、死んだ王家の者を守護霊としてこの世に留めるっていうのがあるんだ』
王子曰く、王家の男児は生まれた時、赤ん坊の頃にこの秘術にかかるらしい。本当なら、死んだ瞬間に王城に召喚され、やはり秘術にて消滅させられるらしい。
ただ王子の場合、結界の力が作用したのか、この部屋から動くこともできずに今日まできてしまった。
『と、言う訳で俺の予想だと、ここの結界を消すには49階か59階まで行かなきゃいけない。それには死ぬほどの努力をしても、長い時間が必要なのさ。実際死んだら終わりだから、無理もできないしね』
絶句である。聞けば聞くほど詰んでるとしか、状況的に思えない。
『ダンジョンには、階層ごとに適正レベルがある。カナメちゃんだって、ここのモンスターを倒せば、わりかしすぐレベル上がると思うよ』
「いやいや、LV1でどうやってベヒーモス倒すのよ。つーか出口の外の穴も越せないよ?」
魔法も使えないし、本当終わってないかこの状況…
『クフフ、ここで俺の出番なのである。優しい優しい俺様が、カナメちゃんに必勝法を伝授してやろう』
「マジですか、師匠!!」
『師匠…いい響きだ。良し、カナメちゃんのダンジョン生活、明日の為にその一!罠を使え!!』
「罠を使え?」
『モンスターを倒す際、罠を使っても良いんだが、俺も伊達に長い間この部屋にいた訳じゃない。閃いてしまったんだな、ベヒーモス必勝法を!!』
「教えて下さい、師匠!!」
『クフフ、ある時俺は見てしまったのさ。あの穴に落ちるベヒーモスを』
「それで?」
『まあまあ、早速実戦といこうじゃないか。弟子よ、あそこに落ちてる石を持て』
イラっとしたが、言われた通り石をもつ。
『モンスターに攻撃を当てると、当然こちらに向かってくる。良し、出口の前に立って、うまく石をあのデカブツに当てるんだ』
良く分かんないけど、やってやろうじゃないのさ。
慎重に狙いを定めて、ベヒーモスに向かって石を投げる。
…あ、当たった。
「ブモォォォーーーー!!」
石を当てられたベヒーモスは、怒り狂ってこっちに向かってくる。
…あ、落ちた。
こっちにこようとしたベヒーモスは、気付かず穴に落ち、その瞬間…
ゴーーーーー!!
穴の中、四方から出てきた炎を浴びて、
…ベヒーモスは消滅した…
『な!』
サムズアップをした王子が、めっちゃ良い笑顔で言う。
『罠で倒しても経験値は入るから。この調子でガンガンレベル上げていこうな!!』
「こんなんでいいのだろうか…」
『ラッキーだと思えって。とりあえずレベル確認してみ、40階層のモンスターともなればレベルも結構上がるはずだよ』
そんなもんなのか、と思いつつステータスオープンを唱える。
あ、レベル上がってる…
『レベル幾つになってた?』
「2、だけど…」
『え?』
「LV2、だけど…」
『あれえ、おかしいな。もっと上がってていいもんだけど。これじゃあ15年くらいかかるかも…』
15年て…15年経ったら30歳だし、30歳まで童貞確定だから、これがホントの魔法使いってか。
…って、やかましいわ!!