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そして全ては動き出す【63】


 夜の十時を過ぎた頃。


 俺はJの車で自宅の前へとたどり着いた。

 ヘッドライトが消え、車のエンジンが止まる。

 Jが何気に俺に言ってきた。


「お前の携帯番号教えろや」


 は?


「『は?』やない。携帯や、携帯。今時のガキは普通に持ってるモンやろ」


 ごめん。俺、そういうの持ってないんだ。


「は?」


 Jがすごく意外そうな顔で問い返してくる。

 俺は気まずく言葉を続けた。

 

 その……今まで必要に感じたことなかったから。携帯は持っていないんだ。


「お前、今まで友達とどうやって連絡──」

 そこまで言って、Jはハッとした顔で口を押さえる。

「連絡取る友達が居らんのやな」


 オイ。

 俺は半眼で言い返した。

 ダチは居る。話したい時は学校へ行けば会えるし、用があれば自宅に電話がかかってくる。遊びたい時は勝手に来るし、俺も行くから今まで必要と感じたことがなかったんだ。


「あぁ学校か。そう言われりゃそやな。まぁええわ。今度何かあったらここに来いや」


 言って、Jが後部座席から仕事用リュックを手にし、その中から財布を取り出した。

 俺に一枚の名刺を渡してくる。

 受け取り、そして眉間にシワを刻んで俺は読み上げた。


 ラウンジ・ヘヴン フロア担当 愛元あけみ?


「悪ぃ、そっちやなかった」


 すぐに名刺を奪われる。

 

 俺は不思議に尋ねた。

 さっきの何?


「ガキはこんなん知らんでええ。こっちや」


 再びJが新たな名刺を手渡してくる。

 

 メイド喫茶 みゃんにゃん?


「そこでEというコードネーム保持者がバイトしとる。俺の紹介で来た言えばわかるやろ」


 ふーん。Jってこういうところに行くんだ。


「あっちの世界で知り合うた奴や。興味本位かなんか知らんが、あっちの世界の情報をめっちゃ詳しく収集しとる。あっちの世界行く前に気になることがあれば話を聞いとくのもええかもしれん。それと──」


 Jが俺から名刺を奪って、その名刺の裏にボールペンで何やら書いていく。


「これ、俺の携帯番号な。何かあったらここに電話しーや」


 そして再び俺に名刺を返してくる。

 俺は受け取り、礼を言った。

 色々ありがとう。


「礼言うんはまだ早い。全てはこれから始まるんや」


 え?

 聞き返す俺に、Jはこめかみに指先を当てて言ってきた。


「俺が言うとるんやない、俺の頭ン中の奴がそう言うとるんや。お前、えらい厄介な奴に選ばれてもうたんやな。こっちの世界の生活を邪魔されんよう気ぃつけとったがええで」


 いや、もう遅いと思う。


「そう暗く考えず前向きに考えよーや。退屈な日常のスパイスや思たら楽しいもんやろ。

 何かあればその番号に電話しーや。手ぇ貸せるもんなら貸してやる。ただし仕事が休みの日に限りやけどな」


 うん、わかった。

 俺は名刺を手に、車を降りる。

 車のエンジンがかかり、Jが車の窓を開けて言ってきた。


「ほな、またな。こっちの世界でも黒騎士に気ぃつけや」


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