第三のログアウト【62】
……あれ?
いつの間にか俺は知らない車の助手席の、倒されたシートを上で寝ていた。
ってか、どこだよ、ここ!?
眠気から一気に覚めた俺は冷水をかけられたように飛び起きる。
そのまま激しく周囲を見回した。
誰の姿もない普通車の車内。
もちろんこの車にも見覚えはない。
だ、誰の車だよこれ! ヤバイだろ!
俺は慌てて車のドアを開け、外に出ようとした。
しかしドアを開けようと手をかけたところで、俺はある視線に気付いた。
俺が開けるドア側に立ち、じっとこちらを見下ろす怖そうな感じの金髪の兄ちゃんが一人。
この車の持ち主なのだろう。格好から見て、建設現場で働いている方のようだ。
俺はぎこちなく笑って、その人に向けて頭を下げた。
いや、あの、お邪魔してどうもすみません。すぐに出ますので。
その人がいきなりドアを開けてくる。そして俺の胸倉を激しくワシ掴みして、恐喝するように脅してくる。
「誰やねん、お前。人の車に勝手に乗って。堂頓堀川に沈めたろか?」
ご、ごめんなさい! 俺、気付いたらこんなとこに居ただけなんです!
怖そうだったその人の顔が、急にニコッと笑顔に変わる。パッと胸倉を離され、
「なーんてな。冗談や」
……え?
「なんやその顔。まだ分からんのか? 俺や、俺。Jや」
J? Jって、もしかしてあの時異世界で会った──
「鈍い奴やなぁ、お前。とりあえずそこ座って待ってろや。色々話したいこともあるし、聞きたいこともあんねんから。何か買うてきてやるから、そこ座って待ってろや」
そう言って、Jは俺を車に押し戻してドアを閉めた。
俺は呆然と車の中からJを見つめる。
Jはそのままコンビニの中へと入っていった。
しばらくして。
Jが運転席側へと戻ってくる。
そしてコンビニ袋の中からスポーツ飲料を取り出し、投げ渡される。
俺はそれを受け取った。
「お前の家、どこや? 送ったる」
え? 送るって、ここどこだよ?
「埼玉や」
さ、埼玉!?
「──で、お前の家どこや?」
東京……。
「一時間弱か。まぁええわ」
Jは呟くようにそう言うと、車を動かしコンビニを出て、車道を走り出した。
走行中、Jは俺に話を振ってきた。
異世界への行き方についてのことだった。
やはり異世界への行き方はみんなバラバラで、Jの場合、車で走行中にある条件がそろうと頭の中で声が聞こえてきて、そして異世界に行くんだそうだ。
俺は尋ねる。
じゃぁJが異世界に行っている間、この車はどうなっているんだ? 無人で走っている状態なのか?
Jが無言でポケットから携帯電話を取り出し、俺に放ってくる。
「その携帯の日付と時間、見てみろや」
俺は投げ渡されたJの携帯を手に取り、不思議な思いで画面を見てみる。
そしてその画面を見て、俺は目を丸くした。
携帯に示された日付と時間が、俺が異世界へ行ったあの日の一時間前を表示していたからだ。
ど、どういうことだよ! 時間があの日から巻き戻っているって言うのか!?
「お前はそうかもしれんが、俺の場合は行ったその日から時間が止まるんや」
壊れているとかじゃないよな?
「正確正常。さっき買うたコンビニのレシートでも見てみるか? なんならテレビつけたってもええで」
うん、見る。
俺はコンビニのレシートを確認し、更にテレビもつけてもらって確認した。
そのテレビに映し出されたお笑いバラエティー番組はあの日見た内容そのままだった。
デジャヴを覚えて愕然とする。
本当に、あの日に時間が戻っているというのか。
「もしかしてお前、第三のログアウトの存在を知らんのとちゃうか?」
第三のログアウト?
「そや。あの世界から戻れる方法は三つある。
一つ目は通常ログアウト。戻りたい時に戻る通常の手段や。
二つ目は頭の中で話しかけてくる奴が強制的にこっちの世界へ戻す強制ログアウト。
そして最後の一つがこれや。俺がこっちの世界に戻る時にお前がそれに乗っかって、ついでにこっちの世界に戻ってくる方法。これが第三のログアウト──相乗ログアウトや」




