シッガールタ【61】
『目を覚ませ、この馬鹿野郎!』
ハッ、と。
俺が意識を取り戻したのは、頭の中でおっちゃんの怒鳴り声が聞こえた時だった。
……あれ?
何が起こったのか理解できず、俺は辺りを見回す。
いつの間に俺は古城の外に出たんだろう。
外はあんなに燃えていたのに知らない内に鎮火しており、砦内は何かが暴れまわったように破壊され滅茶苦茶な感じになっていた。その上無数の魔物が周りを囲んでいて、俺は光る蜘蛛の巣の中心で身動きが取れなくない状態でいた。
最悪なことに、俺の前には一人の老人の黒騎士がいる。
そしてその隣には黒い鎧を着たセガールと、傷だらけの二人の黒騎士、そして少し離れた場所にもう一人の黒騎士の姿があった。
『最悪だな』
なんか知らんがほんと最悪だ。いったい何がどうしてこうなった?
『どうやらお前を起こすタイミングを間違えてしまったようだ。悪いことは言わん。お前、もう一度クトゥルクの力に呑まれろ』
ふざけろ、てめぇ。
『冗談だ。まぁ待ってろ。もうすぐそっちに着く。それまで拉致されないよう何とか場を持ちこたえるんだ』
無茶言うな。数秒も持たねぇよ、この状況。
俺の前に居た老人の黒騎士が、いきなり俺の首を片手で掴んで絞め上げてくる。
「急に大人しくなったかと思えば、どうやら意識を取り戻したようじゃのぉ。取り戻したところでもはや手遅れ。クトゥルクの力は手に入れたも同然じゃ」
セガールが老人の黒騎士に言う。
「急げ、ランドルフ。Kの意識を奪いしだい、ここを去る」
ふむ。と、諦めるように呟いて、老人──ランドルフは俺の首から手を退けた。
苦しみから解放され、俺は激しく咳き込む。
すぐに額を鷲掴みされ、ランドルフが呪文を詠唱し始めた。
オイ、おっちゃん。なんかマジでヤバイぞ、この状況。
おっちゃん!
くそっ、返事すら無しかよ。もうダメだ。なんかすげー眠くなってきた。
俺はしだいに眠りへと落ちていった。
混沌と落ち行く意識の中で、気のせいか。
低く唸るような地響きを耳にした。
それはだんだんと大きくなり、体感するほどの振動となって。
俺が完全に意識を落としかようとした時、ランドルフは呪文を中断した。そして驚愕に声を上げる。
「なッ! 戦闘象の大群じゃと!」
その言葉を聞いて、俺は眠気で重くなった瞼を必死に開き、歪んだ視界で音のする方を見た。
地響きを轟かせて砦に押し寄せてきたのは、象の大群だった。
先頭を走っていた一頭の象が真っ直ぐにこちらへ突っ込んでくる。
鋭く大きい牙で魔物を蹴散らしながら、走りを止めずに猛進し。
牙から逃げるようにして黒騎士たちがその場を散った。
象はそのまま走りを止めず真っ直ぐ俺に突っ込んできて──。
次の瞬間!
俺の体は象の長い鼻に巻かれ、そして空高く宙に放り投げられた。
浮遊感、そして落下。
「受け取れ、J!」
頭の中からではなく直接、どこからかおっちゃんの声が聞こえてきた。
おっちゃん?
俺はおっちゃんの姿を確認しようとしたが、確認する間もなく、ビースト化したJにラグビーボールのようにしてキャッチされる。
俺を受け取ってJが駆け出す。
異常なほどの俊足で、象により切り開かれた道を真っ直ぐ導かれるようにして。
壊れかけた砦門をくぐり抜け、Jは俺を抱えてあっという間に砦から出てしまった。
だんだんと遠く小さくなっていく北の砦。それが闇の中へと消えていくような気がして。
俺は眠るようにして一度、重い瞼を閉じた。
◆
しばらくして。
ゆっくりとまた、目を開いていく。
次に見えてきた光景はやけにハッキリと俺の目に留まった。
呆然と。
見える光景を、斜めに傾いた椅子で仰向けに寝座った状態で俺は見つめる。
夜のコンビニの明かりだった。




