黒騎士、開戦。【58】
地下から一階へ。
俺たちは広間に向けて走り出した。
広間に進むにつれ、しだいに多くなる兵の数。
古城に明かりが点っているのは外が暗いせいか。
人がごった返すその中を、俺とJは掻き分けるようにして広間へと突き進んだ。
広間に出て、俺とJは目を疑うようにして足を止める。
そこから見える古城の外は一面火の海と化していた。
空はすでに闇に覆われており真っ暗で、光は唯一古城の中だけだった。
隊長からの指令か、古城内では大勢の兵が光の球体を虚空に点して城を守っていた。
外の戦火の中を無数の魔物がはびこっている。
兵士たちが武器や魔法を駆使して応戦してはいるものの、要塞を越えてまだまだ大小ありとあらゆる魔物が押し寄せてきていた。
無事な建物と言えば、もうこの古城だけだ。
倒しても倒しても無限に、その数は時を追うごとにしだいに増えていった。
圧倒的な数と奇襲に押され、戦況は劣勢。
たくさんの兵士たちが目の前で魔物に殺されていく。
目を伏せたくなるような現実。光景が残酷過ぎて俺は直視することができなかった。
Jが俺に声を掛けてくる。
「このままここに突っ立っとるわけにはいかんやろ。正直こんだけの数の魔物は相手にできん。それに加えて黒騎士や。ここで死ぬんは目に見えとる。俺は先に向こうの世界に帰っとるからお前ンとこの奴にもよろしゅー言うといてや」
去ろうとするJの腕を俺は無言で掴んで引き止めた。その足元でも白い子犬が俺を真似るようにしてJの足に噛み付く。
Jが噛まれた足と掴まれた腕を見下ろし、不機嫌な口調で俺に言ってくる。
「なんやねん、お前ら。戦うんやったら勝手にせぇや」
手を貸してくれ。
「言うとくけど、これで戦ったからとゲームみたいに経験値がたまって強くなったりはせぇへんからな。復活はどうか知らんが少なくとも俺の目の前で死んだ奴が復活したんは見たことない。痛いモンは痛いし、死ぬ時は死ぬんちゃうんか?」
わからない。けど、それでも手を貸してほしいんだ。
「お前、自分で何言うとんかわかってんのか?」
わかっている。
答えて、俺は心の中でおっちゃんに話しかける。
これは俺が招いたことだ。黒騎士と戦って事態を収拾したい。どうすればいい?
『戦況はだいたい読めた。後のことは俺がやる』
やるってどうやって?
『秘密だ』
またそれか。
『お前には色々悪かったと思っている。お前がこっちに来てくれたお陰で新米の黒騎士どもをギャフンと言わせることが出来た。まぁ懲りてない奴もいたがそれはそれだ。お前はもう充分だ。今すぐログアウトさせてやりたいとこだが俺は手が離せない。今からログアウトの仕方を教えてやるから自分で──』
待てよ。おっちゃんがここに来るまであとどのくらいかかる?
『少なくとも数十分だ』
それまでこの状態のままなのか? その間に魔物や黒騎士が攻め込んできたらどうする?
『そんなこと考えるな。お前はお前のことだけを考えてろ』
これは俺が招いたことだ。おっちゃんがここに来るまで俺が黒騎士と戦う。
『馬鹿言うな。新米の黒騎士だけを相手するならともかく、今お前のところには指揮クラスの黒騎士も来ているんだぞ。それを一度に相手となるとクトゥルクの封印を完全に解かなければならなくなる。奴らに居場所が見つかっただけでも厄介だというのに戦いを挑むなど墓穴もいいとこだ』
俺が悪いんだ。おっちゃんの言う通りにクトゥルクの力を使わなければこんなことにはならなかった。
『そう思うのなら尚更俺の指示には従え。奴らと戦うな』
俺にここの人達を見殺せっていうのか?
『これ以上変な気を起こすな。お前が奴らに捕まればこの世界全てがクトゥルクの犠牲になる。俺の言うことがわかるか? 今クトゥルクを使うのはタイミングが悪いと言っているんだ。二度警告する。奴らと戦うな』
突如、上階部分が崩落する音が聞こえてきた。
見上げれば城に大穴が開き、そこから顔をのぞかせてくる一匹の大型蠍。
その背には黒いローブを着たファンキーな男がいた。
男は蠍の背から階下を見下ろし狂喜に叫んだ。
「ヒャッハー! お前らの逃げ場を崩してやったぜ! 魔物に食われながら阿鼻叫喚に泣き叫べ!」
大穴から一気に魔物が押し寄せてくる。
進入してくる魔物に古城内は混乱し、戦いが始まった。
その最中で、俺とJは離れ離れになりそれぞれの戦いを強いられる。
俺の目前に立ちふさがる一頭の魔物。
そばに居た白い子犬が俺に向けて一吠えし、指示を待っていることを目で伝えてくる。
ダメだ。お前の力は使えない。
『Jのそばを離れるな!』
無理だ。俺、このまま殺される。
『くそッ、間に合わねぇか! もっと早く走れ、このウスノロども!』
魔物が俺に向けて一撃を振り下ろしてくる。
覚悟したその時。
俺を庇って一人の兵士がその一撃の犠牲となった。
あれは!
一撃の威力で吹っ飛ばされていく兵士に、俺は見覚えがあった。




