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結界が消えた……?【57】


 人狼の男──Jは、あらかじめ準備しておいたのか、俺に軍服を手渡してくる。

「とりあえずこれに着替えろや。周りと同じ格好せんと逃げる時バレバレやからな」


 俺は素直に受け取り、着替えを始めた。


 その間、Jは白い子犬のそばに胡坐あぐらで座り込み、子犬をじっと観察していた。

 子犬は小首を傾げてJを見つめる。

 Jが右手を差し出して言う。


「お手」


 子犬は速攻でJの手にカプと噛み付いた。

 手から流れる血をそのままに、Jは何事なく俺に話を振ってくる。

 

「このまま一階へ出て隊長どもと鉢合わせしたら最悪や。やからこの地下の更に地下の通路を抜けて、そっから地上に出て兵士たちに何事なく紛れ込もうと思うとる」


 いや、あの。手を噛まれてますけど。


「特に俺らのとこの隊長さんは無駄に鼻と勘が利いとる。見つかったら俺もお前も終わりや」


 いや、あの。手を……


「隊長さんにはこの世界に来て色々世話になったんやけど、頭ン中で話しかけてくる奴には逆らえんからな」


 俺は着替えを済ませ、子犬をJの手から引き離すと胸に抱いた。

 そして尋ねる。

 良かったらどんなことを言われたのか教えてくれないか? 俺んとこの──俺の頭の中に話しかけてくる奴が秘密主義でなかなか教えてくれないんだ。


「俺んとこも同じや。詳しい事情は何一つ口を割らへん」


 それで平気なのか?


「聞いてもしゃーないやろ。選ばれたと思えば楽しいもんや」


 言って、Jはノビをしながらその場から立ち上がる。


「そろそろ行こか。隊長さん達もそんな悠長に会議はせんやろ。ここに来るんも時間の問題やし」


 俺は静かに頷く。


「こっちや。ついて来い」


 Jに誘導されるままに、俺は子犬を胸に抱いて薄暗い通路の先を歩き出した。


 しばらく歩いて。

 Jがふと、足を止めてくる。

 俺もつられるようにして足を止めた。


「なんや気にせいか? さっきからミョーな感じがするな」


 俺は首を傾げて尋ねた。

 妙な感じ?


「せや。魔物独特の気配を感じる。結界の中やのに、安心できんっつーか。魔物の巣窟の中にいるみたいな、そんな感じや」


 Jが後ろを振り返る。

 俺も思わず後ろを振り返った。


 言われてみれば、たしかにさっきと空気が変わったような気がした。

 重苦しいというか、妙に落ち着かないというか。周りがすごく気になってきて。

 湿気のせいもあるかもしれないけど。でもなんか、例えて言うならホラー映画で脇役が幽霊に襲われる三秒前みたいな、そんな感じがする。

 気のせいだと言われればそうかもしれない。でもそれでも嫌な予感はぬぐいきれなかった。


 ふいに。


 俺の肩に滴り落ちてくる粘着液。

 恐る恐るそれを手に取り、確かめて。

 真上でグルルと低く唸る声を耳にし、俺はそっと天井へと目をやった。

 

 天井に張り付くようにして、カメレオンのような赤黒い大トカゲがぎょろりとした目でこちらを見ていた。真っ赤な口にびっしりと生えそろった鋭い牙。そこからまたヨダレが滴り落ちてくる。


 瞬間、Jが気付いて俺を突き飛ばした。


 突き飛ばされ、俺は床に転倒する。

 Jもその場を跳躍し、退いた。

 まさに危機一髪だった。

 トカゲが鋭い牙をカチ鳴らし、天井から落ちてきたのだ。


 Jがトカゲを見て驚愕に叫ぶ。

「なんでこんなとこに魔物がおるんや!」


 し、知らないよ!


 トカゲが俺へと向きを変えてくる。

 俺は怖くてその場を動けなかった。


「お前はそこを動くな、俺が殺ったる!」


 Jが構えたかと思うと、いきなりその姿が変化した。

 筋肉が見る間に増殖して盛り上がり、隆々な体付きの野獣ビースト化する。

 Jは雄たけびを上げると、その並々ならぬ力でトカゲの尻尾を掴んで持ち上げ、トカゲの体をぶん回して勢いよく壁にぶつけてめり込ませた。


「今のうちに逃げるんや!」


 逃げるっていったいどこに!?


 逃げる予定だった地下通路からは次々と魔物があふれ出てくる。

 残された道は一階へ上がる通路のみ。


『一階へ行け!』


 突然おっちゃんの声が俺の頭の中に響いてきた。

 俺は助けを求めるように内心で叫ぶ。

 おっちゃん!


『地下の暗闇は魔物の温床だ。なるべく外の明るい場所を目指して行け』


 Jも頭の中で声を聞き取ったようで俺に向けて叫んでくる。

「上や! 上に逃げるんや、急げ!」


 俺はJとともに駆け出した。

 おっちゃんが怒った声で言ってくる。


『俺が居ない間にとんでもねぇ馬鹿してくれたな。あれほどクトゥルクの力を使うなと言っておいただろうが』


 ただ牢の檻を消しただけだろ。何が悪い?


『お前が消したのは本当に牢の檻だけか?』


 え?


『お前、使い魔に何と命じた?』


 アレを消してくれって普通に……。

 そこまで言って、俺はようやく自分の失言に気付いた。

 まさか、結界まで一緒に消してしまったっていうのか!?


『使い魔は扱いが難しい。純粋で忠実だが見境が無い。お前がやったことは、優秀な犬にフリスビーとボールを同時に投げて「アレを取って来い」と命じたも同然だ。使い魔は命令通りにお前を閉じ込めていたものを全て排除したんだ』


 なッ! じゃどうすればいい? どうすれば結界は元に戻るんだ?


『こうなってしまったら結界もクソもねぇだろうが。とにかく一階から外へ出て、外の様子がどうなっているのかをまず俺に詳しく伝えろ。恐らく黒騎士も居るはずだ。黒騎士に見つかったら運を天に任せにして覚悟を決めろ。最悪の場合、クトゥルクの封印を解いて使っていくしかない。──ここまでで質問は?』


 ある。


『だが受け付けない』


 じゃぁ言うな。


『とにかくお前はJのそばを離れるな。なるべくお前の中にあるクトゥルクの封印は解きたくない。Jがお前を全面協力してくれるはずだ。魔物のことは全てJに任せろ』


 なぁ、これだけは教えてくれ。Jの中に話しかけてくる奴とおっちゃんとはいったいどんな関係なんだ?


 おっちゃんはフッと笑った。


『元、戦友ってやつだ』



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