誤解だよ!【55】
褐色丸坊主の男に腕を引っ張られる形で、俺は古城の一階の回廊を歩き続けていた。
どこへ連れて行く気だ?
最上階のあの部屋に行くんじゃなかったのか?
俺はそんな疑問を思い浮かべながら、ひたすらついていくしかなかった。
後をついて来る者はいない。
褐色丸坊主の男と俺だけ。
やがて、褐色丸坊主の男はとある壁の前で足を止めた。
俺もつられて足を止める。
壁? この壁がどうかしたのか?
尋ねたが、褐色丸坊主の男は答えてくれなかった。
壁に片手を置き、軽く向こう側へと押し開く。
すると軋み音を立てて鉄の扉が開き、地下へと降りる階段が現れた。
おぉ、こんなところに隠し扉があったのか。スゲー。
階段の下は真っ暗闇だった。
褐色丸坊主の男が暗闇に向けて手をかざし、呪文を唱える。
「明かりを宿し精霊たちよ。我が命に従え」
声に応えるかのように、暗闇にぽつぽつと小さな明かりが生まれていく。
スゲー! 本格的な魔法だ! 初めて目の前で見た!
のん気な観光者気分の俺。
褐色丸坊主の男のテンションは相変わらず低い。
俺を無視するようにして強い力で腕を引っ張ってくる。
わかった、ついていくから階段くらいは自分のペースで歩かせてくれ。
言ったのだが、まるで無視。
転びそうになりながらも俺は腕を引っ張られながら階段を下りていった。
しばらく階段を下りていくと、やがて見えてくるいくつもの狭い空き部屋。
扉も何もない、薄暗く殺風景なコンクリートばかりの部屋が連なっていた。
なんだか薄気味悪い。
湿っぽくてカビ臭く、何かに呪われてそうな感じの部屋だった。
背中を悪寒が走り、俺は身震いする。
いったいここに何があるっていうんだ?
俺は物珍しげに見回しながら、歩き続けた。
褐色丸坊主の男がふいにある部屋の前で足を止める。
俺もまた足を止めた。
え? なに?
俺は不思議に思いながらもその部屋を見つめた。
油断したその瞬間。
褐色丸坊主の男がいきなり俺を激しく突き飛ばしてくる。
突き飛ばされた勢いで俺はその部屋の中へと入り、転倒した。
な、なにすんだよ!
身を起こして叫んだ瞬間、褐色丸坊主の男は部屋の入り口の前で手をかざして口早に呪文を唱えた。
「導くは鉄の檻」
何もなかったはずの入り口が、突然現れた鉄製の檻にふさがれる。
なッ!?
俺は急いで立ち上がり、入り口に駆け寄ると檻に手をかけてしがみついた。
慌てて一本の鉄の棒を引き抜こうとしたが、びくともしない。
俺は完全に牢屋に閉じ込められた。
ど、どういうことなんだ!? 説明してくれ!
褐色丸坊主の男は答える。
「下手な芝居はやめて命乞いでもするんだな。お前が黒騎士の一人であることは総隊長もシェイリーンも当に見切っている。民間人のフリをして素性は隠せても、訓練された者は戦いの場において反射的に地が出てしまうものだ」
誤解だよ! 俺は黒騎士とは何の繋がりもないし関係もない!
「関係がなければ何だと言うのだ?」
俺は必死になって答えた。
異世界人だ! この世界とは全く別の、異次元の世界から来た異世界人なんだ! だから──
褐色丸坊主の男は笑う。
「異次元の世界だと? 何をわからん空言を。拷問中にそういうことを吐かないよう今のうちに気をつけておくんだな」
そう告げて、褐色丸坊主の男は俺の前から去っていった。




