表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/65

私と勝負しなさい【54】


 古城の裏には訓練できるほどの場所があった。

 昔は野外演劇の舞台として使われていたのだろう。

 その跡地の円形舞台に上がり、シェイリーンがその脇に立てかけられていた鞘の無いむき出しの剣を一本、手に取った。

 それを俺の胸に押し付けてくる。


 は?

 俺は目を点にする。

 シェイリーンの目はマジだった。


「今からここで私と勝負するのよ」


 いやあの……俺、剣とか使ったことないんですけど。


 シェイリーンが怪訝な顔をする。

「剣を使ったことがない?」


 俺は頷き答える。

 あ、あぁ。だから勝負にならないと思う。


 シェイリーンが半笑いする。

「可笑しなことを言う子ね。魔物がはびこるこの世界を裸一貫で生きてきたわけではないでしょう?」


 そこを言われるとなんとも言えない。


「剣を持ちなさい。剣術が苦手なら魔法の併用も許可する」


 そう言って、シェイリーンは俺に剣を持たせると、俺との距離を広げていった。

 シェイリーンが腰に帯剣していた愛用の武器を手にかけ、抜き放つ。


「構えなさい」


 俺は慌てて両手を振って拒否した。

 無理! 絶対無理! できないし、構え方すらわからないよ!


「そうやって魔物相手にも慈悲を乞う気? 私を魔物だと思って本気で向かって来なさい」


 おい、おっちゃん!

 俺は内心全力でおっちゃんを呼んだ。

 なぜかおっちゃんが小さい声でひそひそと答えてくる。


『なんだ?』


 俺の身がすげー危険なんだけど!


『そいつは奇遇だな。俺の身も今スゲー危険な状態だ』


 意味わかんねぇよ。


『質問があるなら簡潔に言え』


 そーかい、じゃぁ簡潔に言う。今すぐ戦闘のやり方を教えろ。


『選択肢が広すぎるな。50:50で頼む』


 剣か魔法。今すぐどっちかの使い方を教えろ。


『クトゥルクの力を使えば両方できるが今はやるな。タイミングが悪すぎる。黒騎士の奴らにお前の居場所が知れたら終わりと思え。以上、それでファイナル・アンサーだ』


 ぶつり、と。

その言葉を最後におっちゃんとの交信は途絶えた。


 答えになってねぇ……。


 油断した隙をついて、シェイリーンが剣を構えて距離を縮めてくる。

 俺は焦った。慌てて剣を盾にするように構え、身を固める。

 金属音を鳴らし、刃と刃がかち合った。

 俺は奥歯をかみ締めてシェイリーンの力押しに耐える。

 刃を重ねたまま、シェイリーンが俺に言ってくる。


「あの時見せた戦い方は偶然? 暗殺慣れしている気がしたんだけど、あれは私の気のせいだったかしら?」


 シェイリーンは薄く笑うと子供相手に遊ぶかのように剣を力押しして俺を突き飛ばす。

 剣が想像以上に重かったことと彼女が戦闘慣れしていたということもあり、押されるがままに俺はバランスを崩してよろめき、地面に転んだ。

 剣が俺の手から離れる。


 痛ぇ、手をすりむいた。


 すりむいた手に目を向けている間に、シェイリーンが一気に間合いを詰め、俺に馬乗りになってくる。


 ちょ、待て!


 無抵抗に仰向けに寝た状態で制止を求める俺の声を無視して、シェイリーンは俺の真上に剣を高く振りかざす。


 本気かよッ!


 シェイリーンが本気で振り下ろしてくる。

 俺は反射的に目を閉じた。


「そこまでだ、シェイリーン!」


 総隊長の声が響くと同時、俺の顔をかすめるように嫌な風を感じた。

 そっと目を開けば、俺の顔横に突き立つ白刃。


 いぃっ!?


 観客席から見物していた総隊長以外の隊長たちから、ため息まじりの声が聞こえてくる。


「やれやれ。時間の無駄だったな」

「どんな野郎か期待してみりゃとんだ腰抜けじゃねぇか」

「話にならん」


 総隊長が手で制して彼等の声を止める。そしてシェイリーンに向けて言う。


「本気で彼を殺そうとしていたな? シェイリーン」


 シェイリーンは静かに俺から退くと、突き立てていた剣を引き抜き、鞘に収める。


「お時間いただきありがとうございました。一つだけ、どうしても確かめておきたかったことがあったんです。今のでハッキリとわかりました」


 総隊長がフッと笑う。


「そうだな。これは確かめておいて正解だったかもしれん」


 それだけを告げて、シェイリーンと総隊長は訓練場を無言で去っていった。


 残された四人の隊長と舞台上の俺。

 内三人がアイコンタクトで「さぁな」とばかりにお手上げする。

 すると、今まで黙っていた褐色丸坊主の男がその重い口を開いた。


「お前たちは気付かなかったのか?」


 理由がわからず呆ける三人をよそに、褐色丸坊主の男が俺に歩み寄ってくる。

 荒く俺の腕を掴むと、その場から立ち上がらせる。


 え? な、なんだよ。


 腕を掴まれたまま、俺は褐色丸坊主の男に引っ張られていく。

 三人の隊長たちとの去り際に、褐色丸坊主の男は言葉を遺した。


「最後の一撃はシェイリーンがわざと外したのではない。シェイリーンの剣が彼を避けたのだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ