北の砦【52】
岩肌ばかりの単色な風景が続く荒れた大地にひっそりと、その砦はあった。
今は昔。
当時はその土地に繁栄していたのであろう面影を遺す古城を拠点とし、深い水掘りと巨大な要塞で城の周りを囲んだ頑丈な造り。
それが北の砦と呼ばれる場所だった。
要塞の門をくぐれば、古城の下に広がる古い町並み。石畳の道に沿って、壁だけを遺す家々が点在する。
まるで世界遺産を見ているかのように歴史を感じる廃墟の町並みだった。
その建物を利用し、簡易に作られた野営。
たくさんの兵士が歩いていて、診療所があり、食堂があり、そして談話小屋があった。
エマのお兄さんが俺に説明してくれる。
「カリオトス・クトゥル──【神の祝福を受けた土地】。ここはかつてそう呼ばれていた場所だ。この地に住む古の人々はこの都市を聖地とし、巡礼していた。今はもうその信仰は薄く、誰も興味を示さなかった場所だったんだが……。
これから俺たちはこの砦を黒騎士から守らなければならない」
守る?
「東西南北。砦は全部で四つ存在する。この国にはその四つの古の巡礼地により結界が施され、魔物の侵入を防いでいた。四つのうち一つでも結界を破壊されれば黒騎士の率いる魔物が国全土に侵入してくる。それだけは絶対に防がなければならない」
すると、部隊の前方を歩いていた女剣士が足を止めて部隊の解散を指示した。
自由に行動を始める部隊。
そのまま女剣士が俺の方へ向けて歩み寄ってくる。俺の腕を掴んで、
「お前は私とともに来い」
え? どこに?
彼女は答えなかった。
引っ張られるままに俺はエマの兄と別れ、やむなしについていくしかなかった。




