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エマの怒り【50】


「ダメよ、K!」


 エマの鋭い声が聞こえてきた。

 俺と女剣士はその声のする方へと目を向ける。

 エマが駆け寄り、俺の腕を掴むとぐいっと引っ張って背にかばった。


「帰ってください。この人は関係ありません。ただの旅人です。この村にはもう兵士になる人なんて一人も居ません」


 女剣士はフッと笑う。地に落としていた剣を拾い、鞘に収めながら、


「威勢の良さはめておくわ。けど勘違いしないで。みんな好きで戦いに身を投じているわけではないから」


「だからってなぜこの村の大事な男手を全て王都へ差し出さなければならないのですか? 王都はいったいどうなっているんですか? この村にはもう頼りになる男手は一人も居ません。この村に残されているのは老人や女、年端のいかない子供ばかりです」


「貴方の言葉は子供の空言ばかりね。まるで地に目を向けていない」


 女剣士が俺を見る。


「ただの旅人というわけではなさそうね。戦力になってくれればその分の報酬は与えるわ。悪い話ではないから考えてみて」


 俺にそう告げて、女剣士はエマの家へと歩き出した。

 エマが慌てる。


「待ってよ! まさかお兄ちゃんをもう連れて行く気なの!?」


 女剣士は足を止め、振り返る。


「休暇は終わり。今この間にも黒騎士との戦いは続いているのよ。兵士達の死を無駄にしない為にも早めに戦地へ行くことが当然でしょう」


 エマが駆け出す。女剣士の前に回りこむと両腕を広げて道をふさいだ。


「行かせない。お兄ちゃんを絶対に戦場なんかに行かせない!」


「エマ」


 エマの兄がやってきて、エマの肩を掴むとぐいっと振り向かせた。そのまま優しく抱きしめる。


「ありがとう」


 告げてエマから離れると、エマの兄は女剣士へと目をやった。


「隊長」


 女剣士は答える。


「召集令よ。これから北上し、北の砦の部隊と合流する」


「わかりました」


「お兄ちゃん!」


 エマが兄にすがりつく。

 そんな彼女を無言で引き離し、そっと頭を撫でる。


「また帰ってくる。その時はお前のおいしいご飯を食べさせてくれ」


 その言葉を残し、兄は女剣士とともに家を旅立つ。

 遠く離れていく兄の背にエマは必死になって叫ぶ。


「お兄ちゃん、行かないで!」


 しかし、兄は振り返ろうとはしなかった。


「行かないで!」


 空しくエマの声だけが響いた。

 やがて膝を折り、エマがその場に泣き崩れていく。


 俺はエマに歩み寄り、身を屈めて彼女に声をかける。


 必ず俺がお兄さんを連れ帰るから。


 エマが顔を上げて俺を見てくる。

 俺は安心させるように笑ってみせた。


 またその時は俺にもおいしいご飯を食べさせてくれよな。



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