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SR:B 1 -おっちゃんが何かと俺の邪魔をする。-  作者: 高瀬 悠
【第一章 第一部】 異世界編
5/65

俺の名は……【5】


「ど、どど、ドラゴンだぁぁぁッ!」

 男どもが悲鳴を上げて腰を抜かし、恐怖に顔を引きつらせたまま街のどこかへ逃げていく。

 それと同時に、なぜか周りにいた街の人達までもが同じような面相で全員その場から逃げ出していってしまった。


 俺はぽつんと街に残され、呆然と立ち尽くす。

 ん?

 ふと、少女へと振り向く。

 少女は逃げていない。不思議そうな顔で小首を傾げ、俺と目を合わす。

 俺もその少女も事情が飲み込めないと言った感じだった。


 俺がおっちゃんに言われてやったのは召喚術。

 地面に、上下二つの三角を重ね合わせた図形を描き、その図形の上に片足を置く。瞬間、地面が光ってポンと出てきたのは小さな翼を背中につけた愛くるしい子犬──


『ドラゴンだ』


 この世界では【かわいい癒し系マスコット】と書いて【ドラゴン】と呼ぶそうだ。


翼竜ドラゴンだ』


 どうみても無理あるだろ、これ。普通ドラゴンっていったらもっとこうデッカくて、体も岩みたいにごつい感じの恐竜みたいな──


『脅すだけならドラゴンもこの程度で充分だ』


 急に子犬がぱたぱたと背中に生えた小さな両翼を羽ばたかせながら地面を歩き、俺の足にまとわりついてくる。


 うをっ! なんだコイツ、いきなり俺になついてきたぞ。


『そいつはお前の使い魔だ』


 使い魔?


『そうだ』


 ってことは、俺の職業は召喚士か?


『全然違うな。清々しいくらいに的外れだ。思いっきり外してくれて俺はすげー嬉しいぞ』


 じゃぁ俺の職業はいったいなんだよ。


『お前の職業はあれだ。そのなんつーか……。いいか、これからは──』


 オイ、今誤魔化しただろ?


『いいから聞け。この世界でお前の能力は全て最低限に抑えて使っていく。力の調整は俺がやる。大きな能力は絶対に使わせない。使えば奴らに俺たちの居場所が見つかっちまうからな』


 ちょ、待て。奴らって誰だ?


『……それは秘密だ』


 いや、言えよ。


『言ったらお前、二度とこの世界に来たくないって言い出すんだろうが。それ俺が困るから。すげー困るから』


 自己中っぷりがハンパねぇな。いいからもう言えよ、全部。


『やーだね。お尻ぺんぺーんだ』


 なんか腹立つ。


『よく言われる』


 いや、そこは直せよ。


『ンなことより、今は目の前の幸せだ。後ろを見てみろ。俺は今すげー清純オーラを感じて胸がドギメギしている』


 なんだよドギメギって。感情表現が間違ってねぇか?


「あ、あの!」

 少女が俺の背の服を掴んで言ってくる。

「さきほどは助けてくださりありがとうございました。私、この街に来たのは初めてで、どうしていいかわからなくて……」


 どうやら彼女はおのぼりさんだったようだ。

 ほんと、助けてあげてよかった。

 俺は告げる。

「この街は治安が悪い。もしこの街に知り合いがいるのなら、早く見つけた方が──」


 少女は俺の言葉をさえぎり言ってくる。


「私に知り合いなんていません。

 突然こんなことを言うと驚かれるかもしれませんが、私をあなたの旅先に同行させてください。もちろんどんな場所にもついて行きます。私、絶対あなたの邪魔にならないようにしますから。お願いです」


『ほぉ。出会っていきなり求婚か。いいだろう。もちろん許可』


 ──してどうすんだ。

 俺はこの世界の人間じゃないし、俺がログアウトしたら彼女はどうすんだ? 一人になるだろうが。どっか安全な街を教えろ。彼女をそこへ連れて行く。


『かー。これだから青くせーガキは。お前、好きな子に好きって言ったことないだろ? 好きな女の手を握ったことなんてないだろ?』


 うるせぇ、ほっとけ。いいから近場で安全な街を教えろ。


『安全な街ねぇー』


 どこがある?


『……』


 どうした? おっちゃん。見つからないのか?


『……悪いな、坊主』


 な、なんだよ、急に真剣な声になって。


『どうやら奴らに気付かれたようだ』


 気付かれたって何が?


 ――突然だった。


 青く晴れていた空が一瞬にして暗闇にむしばまれていく。


 街は夜を迎えて真っ暗となり、街灯が点るも、どこもかしこも激しく点滅を繰り返している。

 何かが暗闇の向こうから迫ってくる気がした。

 肌を撫でていく風が冷たいというよりも、鋭く刺すようなピリピリとした危険を感じて。

 

『こんな微々たる能力でさえも見つかっちまうとはな。こりゃ奴ら、相当躍起になってお前のことを捜し回っているようだ』


 俺を?


『そうだ。そういうわけで、緊急で悪いがお前をこの世界からログアウトさせる。これ以上お前をここに居させるわけにはいかない』


「あの!」

 少女が俺の服を掴んで必死に言ってくる。

「お願いします。せめてあなたのお名前だけでも聞かせてください」


 俺の名前を?


『おっと待て待て待て早まるな。この世界で本名を言うなよ。本名を言えばお前は一生この世界から出られなくなるからな』


 じゃぁ彼女になんて答えればいい?


『【K】だ』


 K?


『そうだ、Kだ。それがこの世界でのお前のコードネームだ』


 コードネーム?


『ゲームをやり始める前にキャラに名前を入力するだろうが。あれと同じだと思えばいい』


 ふーん。わかった。

 俺は彼女に名前を告げる。


「俺の名はKだ」

「ケイ?」

「英字のK」

「K……」


『ログアウトするから目を閉じろ! 急げ!』


 俺は静かに目を閉じていく。

 その耳に聞こえてくる少女の必死に叫ぶ声。


「私、ナナです! 数字の7です! 覚えていてください! 私必ずあなたを──」



 ◆



 俺は机にうつ伏せた状態からゆっくりと目を覚ました。

 カチ、カチ、と。

 その耳に聞こえてくる置時計の刻み音。

 俺は頭を起こし、置時計に目をやった。

 午前二時十四分。


 ……。


「夢、だったのかな?」

 疲れた体に軽くストレッチをかける。

 あの時たしかに俺はすごく疲れていた。

 おっちゃんの声も幻聴だったんだろう。

 ほんと、なんか不思議な夢だったなぁ。


 ……。


 俺は机の上へと視線を落とした。

 書きかけの宿題。

「あ、よだれが」

 慌ててごしごしと服で拭く。

 拭きながら思い出す。

 そういえばこの前見たテレビで、都市伝説を追求するバラエティー番組をやってたんだっけ。俺の好きなアイドル歌手がゲスト出演して「実は私の頭の中には小さいおっちゃんが住みついているんです」と、本気なのかネタなのかわからない感じに笑って話していたなぁ。

 そんな都市伝説みたいな話が本当に起こるわけ――


『お?』


 え?

 俺は慌てて周囲を見回した。

 居るのか? おっちゃん。俺の頭の中に。


 ……。


 気のせい、だよな?


 俺は何事なく宿題の続きを再開した。



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