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王都からの使者【49】


 昼食の前に、俺は服を着替えることにした。

 エマにそのことを告げると、「じゃぁ先に食卓に行って待ってるからね」と言葉を残して行ってしまった。

 そりゃそうだよな。彼女の目の前で着替えるわけにはいかない。

 俺は洗濯物を前にして仁王立ちする。

 山脈から吹き抜ける乾燥した風のおかげか、洗ってもらった服はもうほとんどが乾いていた。

 エマが見えなくなったことを確認し、俺は干された服を手にとった。

 その途中、エマのお兄さんとお祖父さんが俺に声をかけてくる。

 

 服を着替えて行くから先に行っていていいよ。

 

 二人に食卓へと先に行ってもらい、俺は干された自分の衣服の一式を手に取った。

 その場で着替えを素早く済ませる。

 締めに衣服をぴしっと整えて完了。

 これで村人Aの旅立ちの準備はできた。

 まるでゲーム初期の主人公のような気分だった。

 自嘲するように笑って、俺は足元に脱ぎ捨てていた借物の服を手に取り、そこから見える雄大な牧草地を見渡した。

 

 大きく深呼吸を一回。


 平和過ぎる。

 やっぱ俺、おっちゃんに騙されていたのかな。

 俺は頭の中でもう一度おっちゃんに呼びかけてみた。

 相変わらずの無反応。

 さて、これからどうしたものか。

 問題は今後の行き先である。

 そういえばおっちゃんが「ゼルギアが黒騎士に捕まっている」とか言ってたな。

 

 ……ん? 待てよ。


 ようやくここで、ある疑問に気付いた。

 おっちゃんは元々俺をどこに飛ばそうとして失敗したんだ?

 あのギルドに飛ばそうとしていたか? だとしたらいきなり俺がギルドに現れれば異世界人のKだと周囲に知らせるようなものだ。異世界人のK=クトゥルクの力と知っているあのギルドで、わざわざそんな面倒になるようなことをおっちゃんがするだろうか?

 それに失敗したとわかった後の対処がどうも変だ。

 常にあれこれと無理やりにでも話しかけていたあのおっちゃんが急に話しかけてこなくなるというのはどう考えてもおかしい。


『ほぉ。少しは頭が回るようになってきたようだな』


 俺は鼻で笑った。

 そういうことか。


『気付くのに時間がかかり過ぎたようだな。三時間で戻れなかったのはお前自身の責任だ』


 もういい。わかった。今すぐログアウトさせろ。


『させると思うか? そこに考えがたどり着いたならやることはわかっているはずだ』


 目的があるならストレートに言え。


『やだね。お尻ぺんぺーんだ』


 あーそうかい。


『まぁなんだ。一つだけ教えてやるとしたら、あれだな』


 なんだよ。


『そろそろ仕掛けたモンが動き出してもいい頃だ』


 一瞬にして。

 俺は背後の殺気を感じた。

 不思議なほど自然に、俺の体が場慣れたかのように反応する。

 振り下ろされてくる白刃を寸前でかわし、振り向き様に体勢をひねって相手の懐に入り込む。

 そのまま流れるような仕草で俺は相手の心臓めがけて手の平を突き立てた。

 頭の中で刹那に組み立つ複雑な構成魔法。

 解き放とうとして、俺はハッとする。


 俺、今何しようとしていたんだ?


 頭の中にあった構成魔法がむしばまれるように霧散していく。


 吸い込まれるようにして俺は目前の金髪美女に釘付けとなった。

 襲い掛かってきたのは凛々しい顔立ちをした歳上の女剣士だった。隙をついて攻撃してきたつもりなのだろう。避けられたことにショックを受けたようで呆然と俺の顔を見つめている。

 彼女の握っていた剣がゆっくりと手を離れて地に落ちた。

 そのまま視線は、俺がタッチしている胸へ。

 俺も彼女の視線をたどるようにして今触れているものへと視線を落とした。

 鎧の上からではあったものの。


 俺は一気に顔を紅潮させる。

 慌てて彼女から手を退けて全力で言い訳した。


 ち、違うんだ! これは誤――


 容赦なく、彼女の平手が俺の頬に飛んできた。



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