色々とすみません。【48】
エマが俺の代わりに事情を説明してくれた。
さすがに兵士になりたくないから逃げていたという説明ではいけないと思ったのだろう。
兄には旅人だと説明していた。
おかげで、俺は服が乾くまでの間しばらくこの家に居ることになった。
ちなみに服は、まだ生乾きである。
ぼうっとしているのも暇なので、俺は自ら酪農の手伝いを申し出た。
簡単な作業でいい。
掃除とか運び物とか何か手伝うことはないだろうか?
するとエマが表情を濁し、「手伝われても金銭的なものは払えない」と言ってきた。
俺は「それでもいい」と答えた。
この世界で稼いでも仕方がない。元の世界へ帰ればこっちのお金はゲームのコインでしか価値がないのだから。
俺は家畜舎の掃除をすることになった。
箒とバケツを手に持って、離れの家畜舎までの道のりを歩き出す。
さきほどからなぜかずっと俺のあとをついてくる数十羽のニワトリとひよこ。
空を飛んでいた小鳥も俺の肩にとまってくる。
放牧されていた毛の長い牛やヤギがたくさん集まってきて、なぜか俺の後ろをついてくる。
番をしていた犬も俺の周囲をうろつきながらついてくる。
そいつ等をぞろぞろと引き連れて、俺はようやく家畜舎にたどり着いた。
開口一番に言う。
助けてください。
家畜舎にいた老人が俺を見るなり驚いたように腰を抜かす。
「こ、こいつはたまげただ。やはりクトゥルク様のお告げに違ぇねぇ」
怯えるように俺に向けて手を合わせて拝み出す。
エマの兄が唖然とした様子で俺に駆け寄り、マジマジと俺を見てくる。
「お前、獣使いだったのか?」
そう……かもしれない。
「自分の能力を理解してないのか?」
そもそも使っている自覚がないから。
「能力は意識して使うのではなく無意識で使うものだ。それがお前の能力なのだろう。エルフならまだしも人間での獣使いとは珍しいな。人間が森で生まれ育つとそういう能力が身につくと聞いたことがある」
いやもうジャングル生まれジャングル育ちでいいです。
「そう悲観するな。誇っていいんだぞ。森で暮らすなんてとても勇気のいることだ。普通の人間なら森で寝ている間に魔物に食い殺されているからな」
……。
「よし、じゃぁ掃除を始めよう。とりあえず──」
檻を脱走して子豚がわらわらと俺の周りにやってきた。
遅れて親豚も俺のところへやってくる。
エマの兄が同情するような目で肩を上下し、お手上げした。言葉を続ける。
「そうだな。とりあえずはお前の周りの動物たちを先にどうにかしよう」
牛やヤギは牧草地へ戻し、豚は檻に入れてニワトリひよこはそのままに、俺たちはようやく掃除を始めた。
陽も空高く昇り、昼を感じ始める。
相変わらずおっちゃんとの連絡はとれていない。
はぁ。これで病院行きは確実だな。
マジで最悪だ、あの野郎。
俺が箒でゴミを払っていると、エマが俺に声をかけてきた。
「色々手伝ってくれたみたいね。ありがとう。あなたの服、ちょうど乾いたところよ。
それとあなたの分の昼食を用意したの。良かったら食べていかない?」
昼食か。
俺の腹がぐるると鳴る。
うん、わかった。遠慮なくいただくよ。
エマがにこりと笑う。えくぼの似合うかわいい笑い方だった。
彼女の笑顔には、なぜかこっちもほっこりさせられる。
エマが少し離れた場所に居る兄に向けて言う。
「お兄ちゃんもキリがいいとこでやめてご飯にしよー。お祖父ちゃんも呼んで来て」
彼は「あぁわかった」と頷いた。
エマが俺の手を取る。
「行こう、K」
え、ちょっ──
無理やりエマに引っ張られるようにして、俺は掃除半ばで歩き出した。




