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帰れる気がしねぇ……【47】


 やられた。


 その一言である。

 俺がこうしてニワトリとひよこにエサをやったり花壇に水をやったり、エマの掃除や洗濯の姿を見つめたりしながら、そろそろ三時間が経つと思う。

 ここには時計が無いから正確とは言えないが。

 俺は頭の中で何度も何度も何度も何度もおっちゃんに呼びかけていた。が、いつまで経っても反応が返ってこない。

 三時間でログアウトが最低条件だと言ったはずだよな?

 騙されたのはこれで何度目だ? そろそろ学習しようぜ、俺。

 脳裏によみがえる悪夢の三日間。

 やっと現実世界に戻れたというのに、なぜまた俺はこの世界に来てしまったのだろう。

 ログアウトのやり方を事前に聞いておくべきだった。

 きっと目が覚めたらまた病院の中だ。


 ははは。

 

 俺は思わず笑いをこぼしてしまった。

 エマが身を屈めて俺の顔を覗き込んでくる。

 

「どうしたの?」


 いや、なんでもない。


「そういえばあなたの名前、聞いてなかったわね。なんて言うの?」


 俺の名は……。

 一瞬ためらった後、告げる。


 Kだ。


「ふーん、Kっていうの。珍しい名前ね」


 隠しても仕方ない。Kという名前自体、そもそも偽りなのだから。それにこれ以上名前を増やしたところで覚えている自信が俺にはない。


 エマがにこりと俺に笑いかけてくる。

 俺もそれに連れるようにして微笑した。


「エマ!」


 ふいに聞こえてきた男性の声に、俺とエマは声のする方へと目を向けた。


 牧草地広がる道の遥か遠くから、こちらに手を振る軍服の青年が一人。


 エマの表情に満面の笑みが浮かぶ。そしてその青年へと駆け出していった。


「お兄ちゃん!」


 嬉しそうに叫んで、エマは青年に飛び込むようにして抱きついた。

 青年もエマを抱きしめ「ただいま」と告げる。


 そうか。お兄ちゃんが帰ってきたのか。

 二人の様子を見て、俺もなんとなく嬉しくなった。


 やがて青年がエマとともに家に帰ってくる。

 そして俺を見るなり一言。


「誰だ? お前」


 ごもっともです。



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