ゲームの世界なんて俺には関係ない【44】
家に帰り着いたのは夜だった。
ただいま。
いつも通りに帰ってきたはずだった。遅くなって帰ることは今までにも何度かあったし、そんなに珍しいことではなかった。
それなのに。
なぜか俺を心配して父さんは早めに会社から帰ってきており、母さんにいたっては警察に捜索願を出すところだったという騒ぎ寸前だった。
いやたしかに、退院したばかりで遅く帰ってきたのは謝るけどさ。ちょっと大げさすぎないか?
二人とも俺の無事を確認して安堵する。
ったく。父さんも母さんも俺を何歳だと思っているんだ。小学生のガキじゃねぇんだぞ。過保護すぎだろ。
ため息を吐いて、二階の自室へと向かう。
部屋に入り、鞄をベッドに放り投げて制服を脱ぐ。
『反抗期か?』
うるせぇ。二度と俺に話しかけてくんな。
ラフな服に着替えて部屋を出ると、飯を食うために一階へと降りた。
食卓へ行けば、すでに三人分の食事が用意されていた。
おそらく夕方から用意されていたのだろう。母さんがご飯を温めなおしている。
父さんは風呂に入っていた。
なんとなく三人そろってご飯を食べる雰囲気だったので、俺は父さんが来るまでテレビを見ることにした。
ダイニングからリビングへ移動する。
俺はソファーに座るとテレビをつけた。
つけたと同時にウソホンの番組が終わる。
あ。見るの忘れてた。
まぁいいや。朝倉がどうせ録画しているだろうし、今度借りて見れば済む話だ。
俺はチャンネルを切り替えた。
テレビ画面が替わる。
そこに流れる映像に、俺は呆然とテレビを見つめたまま固まった。
異世界の映像だった。
しかもどこかの村が戦場になっている映像だった。
逃げ惑う村の人々。上がる悲鳴。子供の泣き声。
黒の騎士団の従えた魔獣が次々と逃げる人々を襲い、放たれた火の魔法が村を焼いていく。
最初は一瞬ファンタジーを舞台にしたハリウッド映画だと思っていた。
でもすぐに直感した。
これ、あのゲームの世界じゃねぇか。
俺は力なくリモコンを床に落とした。
脳裏によみがえるリラさんの村のこと。
そして重なる、黒炎竜の吐いた炎がリラさんの村を襲ったあの一瞬。
俺の中で言い知れぬ力が込み上げてきた。
抑えきれぬ興奮。
解き放てとばかりに力が俺の体の中で激しく暴れだした。
駄目だ……ッ!
無意識に俺は力を抑え込んだ。
反動するかのように、卓上にあった三つのガラスコップが音を立てて一斉に割れる。
母さんの短い悲鳴が部屋に響く。
それにより、俺はハッと我に帰った。
テレビから笑い声が聞こえてくる。
あれ?
俺は夢でも見ていたのだろうか。
テレビから流れてくる映像は普通のお笑いバラエティー番組だった。
後ろの食卓では母さんが割れたコップを片付けている。
「どうしてかしら。コップが勝手に」
風呂上りの父さんが慌てて部屋に駆け込んでくる。
何事かと尋ねる父さんに母さんが事情を説明する。
「ごめんなさい。急にコップが割れて」
俺はソファーから振り返り、その様子を見ていた。
偶然……だよな?
『そう思うか?』
話しかけてくんなって言っただろ。
『そういうわけにはいかないんで強行させてもらう。急で悪いがお前、今すぐこっちの世界に来い』
断る。
『わからないのか? このままだとそっちの世界でもクトゥルクの力を暴走させることになるんだぞ』
だから。返すって言ってんだろ、この力。
『それで簡単に返せる力なら俺もここまでお前に手をやかない』
だったら最初からくれなきゃいいだろ。
『俺もあの時は切羽詰まってたんだ。諦めろ』
あの映像、おっちゃんの仕業か?
『まぁな。こうでもしないとお前が動かんからな。
言っておくがあの映像は作り物でもなんでもない。この世界の現状だ。今やこっちの世界では新米の黒騎士どもがあの馬鹿王に踊らされて世界を制圧するだのなんだのと血気盛んに暴れてやがる。奴らを鎮圧するにはお前の力が必要だ』
どうせゲームの世界だろ。
『わかった。じゃぁそう思えばいい。ゼルギアが奴らに捕まっている。公開処刑はもう間近だ。すぐに処刑しないのは恐らくお前を誘き出す為の作戦なんだろう。だがこれだけは言っておく。奴らはやると言ったことは必ずやる。それだけは忘れるな』
脅迫とも思える言葉を最後に、おっちゃんの声は聞こえなくなった。
俺はため息を吐くとソファーから腰を上げて食卓に向かった。




