なぜお前までついてくる?【42】
綾原の家は住宅街の一角にある十二階建てマンションの六階にあった。
コード・ネームMこと──結衣とともに俺は綾原の住む号室の前にたどり着いた。
って、なぜお前は俺のあとをついてくるんだ?
「いいじゃん、別に。あたしも奈々ちゃんに会いたいもん。
ねぇねぇ、Kと奈々ちゃんって付き合っているの?」
俺はため息をついた。
ほんと女子ってこういう話ばっか聞いてくるよな。
うんざりしながら答える。
付き合ってないし、話したことも無い。
「ふーん。それなのに見舞いに来ちゃうんだ」
来たら悪いのかよ。
「別に。悪いってわけじゃないけどちょっと気になっただけ。そんなことより早く呼び鈴押したら?」
うるせぇな。お前に言われなくても押すよ。
俺はドアの近くにあった防犯カメラ付き呼び鈴のボタンを軽く押した。
乾いた音色が鳴り響く。
しばらくして、ドアが開く。
綾原に似た小学生の男の子が顔をのぞかせる。驚き目で俺を見た後、結衣へと視線を移す。
「結衣姉ちゃん、いつの間に彼氏作った?」
結衣がその子の頭に一撃を見舞う。
「馬ぁー鹿。そんなんじゃないわよ」
「痛ぇ! 何すんだよ、この暴力女! だから彼氏できねぇんだろ!」
「うるさいわね。それよりあんたの姉ちゃん呼んできてよ」
「居ねぇよ。吐き気が治ったとか言って塾に出掛けてったよ」
結衣が俺に振り向いてくる。
「──だって。どうする?」
どうしようもねぇだろ。
俺は手持ちのスイカを綾原の弟に差し出した。
「わーすげぇ、スイカじゃん! オレ超好き! ってか、兄ちゃん誰?」
お前の姉ちゃんの同級生だ。見舞いに来てくれたお返しだって言っといてくれ。
「わーい。なんか知らないけどありがとう!」
聞いてねぇだろ、俺の話。
そんな時だった。
ふいに背後から女性の声が掛かる。
「あら。その後ろ姿は結衣ちゃんかしら?」
「あ、母ちゃんだ。おかえり」
「奈々ちゃんのお母さん、こんにちは。また遊びに来ちゃいました」
結衣が女性に頭を下げる。
俺も小さく「こんにちは」と言って頭を下げた。
きれいな女性だった。
スーツ姿に髪を一つに結った秘書っぽい感じで。
「せっかく遊びに来てくれたのにごめんなさいね。奈々は今日体調が悪くて」
「姉ちゃんなら吐き気が治ったとか言って塾に行った」
「塾に行ったの? 何も今日くらい行かなくても」
女性が俺に目を向ける。
「あら。あなたのその制服、奈々の居る学校の子よね?」
あ、はい。俺が入院している時になんか見舞いに来てくれたみたいでそのお礼に──
「母ちゃん見て! スイカもらったんだぜ!」
「まぁこんなおいしそうな物を。わざわざありがとうね。せっかく来てくれたんだから上がってお茶をどうぞ」
いや、俺はここで。
断ろうとしたのに、急に結衣が俺の腕に絡み付いてくる。
「はい、ぜひ。お邪魔します」
オイ。
「いいじゃん。どうせ男子って暇でしょ?」
それはどこの統計をもとにしての発言だ、コラ。
結局、俺と結衣は綾原の家にお邪魔することになった。




