なぜ綾原がここにいる?【32】
売店のある一階からエレベータに乗り、五階のボタンを押す。
扉が閉まり、二階、三階と上がっていく階の番号を見つめながら俺はため息を吐いた。
変なガキに会っちまったなぁ。
『自分がKだとバレたらどうしようってか?』
いたのか、おっちゃん。
『まずはお前に謝ろうと思う』
なんだよ突然。
『お前さ、あっちの世界で銀貨もらったらポケットに入れる癖やめような』
ん?
『アイテム袋を渡してなかった上に説明してなかった俺が悪いんだが。
その銀貨だけ、妙なところに転送してきただろ?』
お前の仕業だったのかよッ!
『次からはアイテム袋をオプションにつけてやるから、ちゃんとその中に入れるようにしような?』
もう遅ぇよ! すでに恥かいた後だよ!
『スライムをポケットに入とかなくて良かったな。お前あれ、レジで出したら頭疑われるレベルだからな』
出さねぇよ!
エレベータが五階に到着し、扉が開く。
俺はエレベータを出て廊下を歩いた。
歩きながら頭の中でおっちゃんと会話を続ける。
おっちゃん、今までどこで何してた?
『教えない』
またかよ。
『ところでお前、もうこっちの世界には来ないのか?』
行かねぇよ。現実世界でこんな感じになるんだったら俺はもう二度と行かない。
『こっちで出会ったリラさんとかいう奴のことは気にならないのか? ゼルギアのことは? あのスライムはどうしているかなぁとかギルドがどうなったのかなぁとか、そんなん気にならないのか?』
うるせぇな。どうせゲームの世界なんだろ。これが現実。ここが俺の世界だ。
『だーから、お前はこっちの世界の人間だっつってんだろ』
もういいよ、その話は。
『あのなぁ。俺の話はちゃんと素直に聞き入れておくべきだ。たまに本当のことを言う時もあるからな』
わかった。だったら今すぐ本当のことを全部話してくれ。そしたら俺もおっちゃんのこと信じるよ。
『そうか。だが断る』
俺も断る。
『何言っても平行線だな、お前とは』
だったら素直に消えてくれ。
『あとで泣きついてきても知らんからな』
誰が泣くか、ボケ!
──ん?
俺は自分の病室前の廊下で母さんと話す同級生の女子を見かける。
長いストレートの黒髪にスラリとしたスタイル。
アイツ、綾原奈々じゃないか。なんでこんなところに?
成績優秀な綾原と会話を交わすことなんて今までなかった。そのせいか、俺は思わず廊下の角に入って身を隠した。
なんだろう。なんかドキドキしてきた。
そろりと壁の向こうから様子をうかがう。
母さんと綾原が親しそうに話をしている。
どういうことだ?
結局俺は、綾原が帰るまで壁の向こうに隠れていた。




