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別れは突然訪れる【27】


 気付けばFがカウンターから消えていた。


「あれ? Fはもう消えたのか?」

 俺を連れてテーブル回りしていたゼルギアが、カウンターに戻ってきてそう呟いた。

 女マスターが微笑して肩を上下する。

「あなたがK君連れて向こうのテーブルに行っている間に消えちゃったわ」

「Fは討伐のこと、なんか言ってなかったか?」

「またエーテル・ポイントを聞きに来ると言っていたわ」

「──ってことは、行く気はあるってことだな」

「そうみたいね」


 ゼルギアが俺に振り向いてくる。


「腹は減ってねぇか?」


 あーそういやかなりお腹すいてきた。


「そうか。じゃぁ俺が肉のうまい飯屋に連れて行ってやる。もちろん俺のおごりだ」


 マジか! やったぁ!


 女マスターがくすくすと笑う。

「K君は食べ盛りみたいだから、あとでゼルギアが財布見て泣いてなければいいけど」

「俺がそんな情けない男に見えるか? 食べ盛りのガキ一人もおごれんぐらいで団長が名乗れるか」


 よっ、さすが団長! カッコイイ!


 ゼルギアが俺の頭を無骨な手でかき乱してくる。


「コイツ、調子いいこと言いやがって。お前も早く出世してそう言えるぐらいの男になれ」



 その後──。

 俺はゼルギアとともに飯屋に行き、そこでうまい肉を頬張りながらゼルギアから過去の討伐の話を聞いた。飯ももちろんうまかったが、ゼルギアの話はもっと面白かった。洞窟で宝を見つけたが巨大なゴーレムが守っていただの、海賊の船に乗ってクラーケンを見ただの、孤島に築かれた廃墟の城には伝説の魔剣が眠っているだの、東の樹海に巨大なアナコンダが住んでいてそいつを倒したら天空の城を見つけただの。

 俺は食いつくようにしてゼルギアの話に夢中になった。

 

 いつの間にか、外は日が沈んで暗くなっていた。


 ゼルギアにギルドまで送ってもらい、俺はそこでゼルギアと別れることになった。

 どこに行くのか尋ねると、


「大人は夜も忙しいんだ。ガキはクソして寝ろ」


 と、返された。

 夜の街中へと去っていくゼルギアの背中を見送りながら、俺は思う。

 きっと夜も仕事で忙しいんだろう。団長ってのは色々と大変なんだな。


『お前のその言葉には胸が痛む』


 いたのか、おっちゃん。


『究極のカミングアウトだな。そんな能力を与えた覚えはないんだが』


 自然と身につけることのできた俺を誉めてやりたい。


『お前に芽生えたその能力もクトゥルクとともに封印しておくとしよう』

「そんなとこで何やっているデシか?」


 デシデシが俺に声をかけてくる。

 いつまでも俺が出入り口付近に立っていたからだろう。


「今日のギルドの集会時間は終わりデシ。三銀やるから片付け手伝うデシ」


 俺はデシデシから三枚の銀貨を受け取った。


「やり方教えるからついて来るデシ」


 言われ、俺は銀貨をポケットに入れるとデシデシのあとについていった。


 デシデシが大声で集会時間の終了を告げる。

 すると、みんな素直にそれに従いぞろぞろとギルドを出て行く。

 帰る流れをぬうようにして、俺はデシデシとともに奥のカウンターに向かった。


「ネリ。片付けを始めるデシ」


 女マスターのネリさんが、俺に声をかけてくる。


「あら、K君もお手伝い? デシデシに使われるなんて大変ね」

 ギロリとネリさんを睨んでデシデシ。

「何か言ったデシか?」

「K君はバイトじゃなくてギルドの会員なのよ?」

「金はあげたデシ。こいつはその時点でバイト扱いデシ」

 ネリさんが俺に言ってくる。

「片付けは適当でいいからね、K君」

「ネリは自分の仕事をするデシ!」

 間に挟まれ、俺は苦笑いするしかなかった。


 ネリさんが俺に一枚の台ふきと毛むくじゃらの小さな生き物――モップを手渡してくる。


 え?


「K君は、二階をお願いね。テーブルは台ふきでふいて、床はモップでごしごししてね」


 いや、あのこれ……。


「そう。それでごしごしするのよ」


 いや、これ……生きてるんですけど。


「指示はボクがするデシ!」

「デシデシはいつも通り一階を掃除しなさい」

「わ、わかったデシ」


 わかりました。


 つられるようにして、俺も了承した。


 そして。

 俺はモップと台ふきを手に、暗い二階へとやってきた。

 明かりはないのか?

 付近に壁を見回す。

 ない。

 奥の方は暗くてよく見えない。

 大抵近くの壁にスイッチがあったりするものだが。

 そういえば、リラさんの家には光りスライムがいたんだっけ。こっちとあっちじゃ常識が違うのかな?

 俺は頭上の水色スライムを見上げた。

 見上げることで水色スライムが俺の額の上に乗ってくる。

 こいつ、光ったりできねぇかな?


『この世界の人間は部屋の明かりを魔法で補っている』


 魔法で?


『お前に超初期魔法の使い方を教えてやろう。まず二回拍手してみろ』


 俺は台ふきとモップを床に置くと、言われたとおりに二回手を叩き合わせた。


 すると部屋に明かりがついた。


『――以上だ』


 俺は首を横に振る。

 違う。絶対違う。俺、なんか騙されている気がする。


『何を言う。これも立派な風魔法の一つだ』


 俺は泣きながら頭を抱え、絶望的に床に打ち伏せた。

 頼む、おっちゃん。これ以上俺の夢を傷つけないでくれ。風魔法はこんなもんじゃない。俺の理想とする風魔法はこんなもんじゃないんだぁぁぁぁ!


『本格的な魔法はお前の力の都合上無理だ。できてこれが精一杯だな』


「うるさいデシよ! ちゃんと掃除しているデシか!」


 階下からのデシデシの怒鳴り声に、俺はハッと顔を上げた。

 そうだ。俺は掃除をしに二階ここに来たんだった。

 モップと台ふきを手に立ち上がる。

 まずはテーブルを拭こう。


 俺はテーブルへと向かうと奥の黒板のところへと向かった。


 ふと。

 何気にテーブルに視線を落とした先に、そこに置かれていた一枚の紙を目にする。

 討伐の紙だった。

 書かれた文字は理解できなかったが、そこに描かれた絵は忘れもしない黒炎竜の姿だった。

 フラッシュバックする記憶。

 俺の中で何かが弾けた。

 暴れそうなほどの力が俺の中に沸々と込み上げてくる。


『ば、馬鹿お前何やって、力に呑まれるな! クソ、制御しきれねぇッ──



 ◆



 外から雷の音が聞こえてきて、デジデジは作業の手を止めた。


「雨が降るデシか?」


 ネリがデジデジのそばに歩み寄る。


「もう掃除はこの辺で切り上げましょう? K君呼んできて早めに帰った方がいいわ」

「そうするデシ」

「あとのことは私がするわ」

「任せるデシ」


 デシデシは掃除道具をネリに手渡し、二階へと向かった。

 二階にたどり着き、デジデジはきょとんとする。


「あれ? Kが居ないデシ。アイツどこに行ったデシか?」


 するとデシデシの足元に水色スライムが飛び寄ってきた。

「お前、一人デシか? Kはどうしたデシ?」

 毛むくじゃらの生き物もデジデジのもとへ寄ってくる。

 水色スライムとモップはどこかへ案内しようとしていた。

「あ、待つデシ。そっちに何があるデシか?」


 スライムとモップが部屋奥のテーブルの上に飛び乗る。


 デジデジも連れるようにしてジャンプし、テーブルの上に飛び乗った。


 そして目にする、一枚の紙。

 デジデジは紙を手にして呟く。

「あ。これ団長と話した時に仕舞い忘れていた討伐の紙デシ」

 足元でスライムとモップが何かを知らせるように鳴きながら飛び跳ねた。

 その様子を見て、デジデジはみるみる何かを察して青ざめた。

「た、たた大変デシ。ボク、とんでもないことしてしまったデシ」

 すぐに、階下のネリに知らせる。

「ネリ! すぐに団長を呼んでくるデシ!」


「どうしたの? 急に」


「Kがいなくなったデシ! もしかしたら一人で黒炎竜を探しに行ったのかもしれないデシ!」



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