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W.B  作者: そらら
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2‐Don't mind(2)+オマケ

外に出ると、空は快晴で暖かい風が心地よく吹いていた。

昨日のような都会的な雰囲気はなく、この街はとても落ち着いている。

人も少なく、緑が多いこの街をクードはたいそう気に入っていた。

コウも口には出さないもののそれなりに好いていることは確かだった。でなければ、この自己中心的な性格からして引っ越しをするなどと言い出しかねないだろう。

「こんな早い時間に仕事なんて珍しいよな。」

ふと、クードは隣を歩くコウに向かって口を開いた。

普通、朝から任務ということは少ないのだが今日の仕事場は周りに人が少ないため、早い時間でも差し支えないのだろう。


クード達は『リグネーション』という組織に所属している。

リグネーション通称『リグ』は主に暗殺を生業とする、いわば殺し屋だ。クードもコウもクエラもその組織の一員である。

もともとは本部から派遣され、三人それぞれ別々に違う仕事を行っていたのだが、運命というか災難というかたまたまその三人が一緒に仕事をすることが多く、そのまま成り行きで三人仲良くこの街に住み着いてしまい、そして今に至る。

とはいうものの、勝手にここにいるわけではない。

なんでも、本部の偉い人(偉い人の名前や顔は明かされていない)が三人の相性を見て一緒に仕事を行えば効率が良くなると考え、クード達三人を共に住まわせたらしい。

今となればそれはごく普通のことで、他のリグのメンバーもそれぞれグループを組んで任務をこなしているが、クード達が入りたての頃はまだ個々に仕事をするのが当たり前だった。

そのため、グループを組んで仕事をするというのはクード達が初めてに近く、それを機に今の任務体型の基盤が生まれたと言っても過言ではないだろう。


これは後から聞いたことだが、一緒に仕事する回数が多かったのもその偉い人が命じていたことが原因らしい。

なぜその偉い人がクード達を一緒にしようと考えたかは未だ謎だが、クードにとっては良い迷惑で、相性が合っていると言ったその人のセンスを疑わずにはいられなかった。


「今日って何?」

コウから突然の質問受けて、クードは少し驚いたように聞き返す。

「何って?」

「あ?任務だよ、任務。ターゲット。」

「あ、あぁ。…知らない。」

「あぁ、そう…って、は!?」

「まぁまぁ。」

「いや、まぁまぁじゃないだろ!」

「まぁまぁまぁまぁ。」

「クード…。」

「はいはい。」

「…もういい。」



こういった適当な所に真面目なコウはいつも腹をたてる。まぁ、それも普段クードがコウによって感じているストレスと比べてみればちょうど釣り合っているのかもしれないが。


そんなこんな言い合ってるうちに二人は目的地へ到着した。

歩いて着く場所、つまりこの街にある悪を掃除するのだと思えば悪い気もしない。

前には吸い込まれそうなほど暗いトンネルがぽっかりと口を開けている。

長々と続くそれを見つめながら、コウは静かに呟いた。

「ここだな。」

さっきとは違い、二人の間に緊迫した空気が流れる。


仕事の空気。

二人はそれぞれ準備を始めた。コウは昨日と同じように胸ポケットから拳銃を取り出し、クードは腰に刺さっている剣を二本抜いて両手に構える。

時間が、流れていく。



「俺ってちょっとカッコ良くね?」

「馬鹿。」


緊迫感が一気に薄らぐ。脳天気なクードに呆れているコウ。

それはいつもの光景で、それでも彼らの目は真っ直ぐに目の前の闇を捉えていた。

すると、クードが僅かに反応した。

「…人間じゃないな。」

そう呟いて、そのトンネルに一歩近づく。

それに合わせてコウもゆっくりと近づいていく。


二人がトンネルのすぐ手前まで来た時、

「来るぞ。」

クードの声と共に突然猿のような生き物が一匹、二人の前に姿を現した。といってもその体は猿にしては大きく二人の身長の倍はゆうに超している高さだ。

「下品な顔しやがって。」

クードが言うように、その猿の顔はあの猿特有の可愛らしいさなどみじんもなく、ただ狂気に満ち溢れた鋭い目と、よだれを垂らした牙付きの口の化物だった。

化物はクード達をその視界に入れると、ためらう間も見せずに突進してくる。

「行くぞ。」

コウの声を合図に、二人はそれぞれ左右に別れてその標的へと向かって行った。




「はい、終了!」

二人の前には先ほどの化物の死骸が見るも無惨に残されている。

クードは持っていた剣をもとに収め、そう言うと、満足気に笑みを浮かべた。

その脇でコウは倒した死骸の血液をなにやら小さな白い機械に塗りつけている。

これは、任務の成功を確かめるための確認作業でその標的が人間であろうと今日のような化物であろうと必ず行うことだ。

倒した死骸の血液をその機械に塗り、リグへ送信する。

この機械はリグのグループにひとつずつ配布されており、任務の時に必ず携帯する決まりになっている。

送信し、本部が確認して報酬を得る。



「送った?」

上機嫌そうな口ぶりでクードが尋ねる。

「あぁ。」

「お!?いくらいくら!?」

クードは返事を聞いてすぐ飛び付くように近寄って、コウの持っている機械の画面へと顔を近付ける。

コウは怪訝な表情をするが、

「まだだ。」

と言ってその機械を離そうとはしない。

顔には出さないが、コウもこの瞬間が楽しみなのだ。


ピピピ


受信音が鳴って、二人の顔が一気に期待の色に染まった。

画面に報酬額が表示され、クードは声に出してその数字を数え始めた。


「1、10、100 …え?」

数えていたクードの指と二人の表情が凍り付く。

「……え?」

信じられず、もう一度数えてみるがやっぱり同じだ。


「ち、ちょっと待て。」


今度はコウが数えてみる。だが、結果は変わらず。


「もう一回見せろ!」

「ちょっと貸せ。」


二人ははたから見れば呆れるほど、何度も何度も懲りずにその数を数え直した。

しかし、一度表示された数字が変わるわけもない。

そのうち二人の表情はだんだんと陰りを増して、見るからに脱力して二人同時にその場へしゃがみ込んだ。

「はぁ〜?」

「これだけか…。」

「少ねぇ〜。」

「全くだ…。」

それぞれうつ向いて、愚痴をこぼす。


いつものことだが、任務の報酬は意外に少ない。その理由のひとつにリグはただの殺し屋ではないということがあげられる。


というのは、リグは無差別に人を殺さない。

これは、リグに殺されるもの、つまり標的は、ある共通するものに関わっているものであることを示している。


それは、生物実験。


今の時代、この世界では表向きでは良しとされる生物実験が多発している。

医学の向上、発展、これからの未来のためと称して自分の財産のために生きた命を犠牲にする。

そのようなことが世界中で多数起きているのだ。

リグはつまりそのような科学者、そして先ほどの化物のようにその実験から作り出されたものなど、不法な生物実験に関わるものを抹殺するための組織である。


といっても、リグは表社会で公認されている組織ではない。

あくまでも殺しは殺し。殺人をすれば裁かれる。そのため、リグや他の殺し屋もそれぞれ極秘に任務を行っているのである。



ふと、思い出したようにクードが顔を上げた。

「…なぁ。」

「…あぁ?」

その声にコウはすごくローテンションな声で低く答える。


「腹、減った。」


言うが早いか二人の腹の虫が同時に悲鳴をあげた。

コウは無言のまま、手に持っていた機械をしまって立ち上がり、歩きだした。

クードもそんなコウを見て、そのあとに続く。


二人は目の前の死骸に一礼した。


これはクード達がグループになってからの決まりで、それはその命に対するせめてもの謝罪、そして、


「ありがとう。」

クードは頭を下げたまま静かに呟いた。


「帰るぞ。」

コウはまるで何事も無かったかのようにクードへ呼びかけてそのまま歩き出した。

クードも何も言わずにその後へ続く。


**********


「怖いな。」

帰路を歩きながら、なんの前ぶれもなくコウが言った。

「は?」

当然の反応だろう。クードは間の抜けた返事をしてコウの顔を見た。

すると、コウは真剣な顔で朝クエラに渡されたメモを太陽に透かし、眩しそうに目を細めている。

「何やってんの?」

クードはそんなコウに怪訝に質問した。

コウは何も言わず、困った顔でそのメモをクードに手渡すと

「右下。」

と言って、短いため息をついた。

クードが言われた通り、そのメモの右下のほうへと視線を移すとなにやら任務のメモとは違う色ペンではっきりと文字が示してある。

『太陽にかざしてみてね☆』


とてつもなく嫌な予感がする。

そう思い、クードがコウの顔を見るとコウはもう一度ため息をついた。

自分もため息をつきたくなったが、クードはさっきコウがやっていたようにそのメモを自分の顔より少し上に持ってきて、太陽にかざしてみた。

「ん?」

なにやら文字が浮き出ている。

クードは更にそのメモに目を近付けて、そこで動きが止まった。


『砂糖 200g

 塩  100g

 卵  10個

 (新鮮なやつ↑)

 人参 2本

 ドッグフード1袋

   よろしくね♪』

「なんで気付いちゃったんだよ〜。」

こうなるだろうと思っていても、やつあたりくらいしたくなる。

「知るか。」

コウも同じらしい。

「どうすんだよ?もうすぐそこまで来たんだぞ?」

「知るか。」

「また戻るのか?」

「知るか。」

「30分?」

「…でも、行かなきゃどうなるか分かんねぇぞ?」

確かにそうだ。

クードは

「んー。」

と唸りながら考えて、やがて、

「そうだ!」

と顔を上げた。

「ジャンケンだ!」

すると、コウは得意気に笑って袖をまくる。

「良いだろう。」

二人の掛け声が同時に響いた。




こうなることは分かっていた。

今思えば、ジャンケンが弱いことくらい知っていた。

ことごとくついてない自分に自己嫌悪を抱きながらも、クードはメモを片手に道を歩く。歩きながら、一言。

「…腹、減ったなぁ。」

そう呟く。

その声は少し落ちぎみの太陽に照らされて、虚しく響いていた。

帰った後、クエラに

「遅い!」

と怒鳴られることを今の彼が知るはずもない。



第二部終わりました〜♪ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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