2‐Don't mind(1)
これ読むと雰囲気変わりますwww
夢を見た気がする。
緑色を背景に茶色い髪が風に流れて、自分はただそれを見た。近づこうとしても出来なくて、彼の思いとは反対にその姿はあっという間に消えていった。
そんな夢。
ガタンッ
いきなり視界に光が入って、目の前には突然、堅い木の木目がドアップに現れる。
「痛ってぇ…。」
自分が落ちたことは分かった。
体の下敷きになった腕は痺れるように痛いし、きっと寝ていてベッドからでも落ちたのだろう。
だとすれば、この腕と背中の痛みには納得が…背中?
クードは現状を把握しようと首だけを上げて、周りを見回した。しかし、それはすぐに必要ないものとなった。
「さっさと起きろ。」
背後から聞こえた声に
(やっぱりそうか。)
と、クードは内心呆れたように心の中で呟いた。痛む腕を押さえながら上体を起こして、声の発生源へ皮肉たっぷりな言葉を投げる。
「ずいぶんとダイナミックな起こし方ですねぇ。」「お前がいつまでも起きないからだ。」
怒りに震わせて放った言葉に返ってきた悪気の無い返事。
言っても無駄だということは分かってはいるが、それでも無駄を繰り返すというのが人間らしい。
途端、今までの鬱憤が爆発したかのように、クードはコウへ食いかかった。
「だからって蹴ることないだろ!?」
「お前が寝坊するのが悪い。」
「寝坊したら蹴って良いって定義がどこにあるんだよ!?」
「無いと思う。」「じゃあ、なんで…!?」
「暗黙の了解だろ?」
こいつには言っても無駄だ。
(本当に無駄だ。)
クードは脱力して、乱れた髪をかきあげながら立ち上がった。
「先に下行ってるぞ。」
脳天気に言って去っていくコウに何も答えず、クードは衣服を着替え始める。
鏡に自分の姿が映っている。金色の髪にはっきりとした目鼻立ち、青い右目に黒い左目。見慣れているとはいえ、昔の自分を思いかえせば少しだけだが違和感を感じる。
あんな夢を見たせいだろうか。
クードは思考を遮るように少しだけ目を瞑った後、上着を手にとって自分の部屋をあとにした。
階段を降りると食卓にはコウと一人の少女が待ちくたびれたような表情で座っていた。
その少女は一見するとクードの妹かと思われるほど幼い容姿をしている。
コウが隣にいるため余計にそう感じるのかもしれないが、華奢な体つきに低い背、長く少しオレンジがかった髪はくせ毛で他人にはとても可愛らしい印象を与えることだろう。
「おはよう。」
少女にそう言われて、クードもぎこちなく挨拶を返した。
「…おはよう、クエラ。」
クエラと呼ばれた少女はニッコリと笑ってクードを見据える。
他人から見れば本当に可愛く、邪気の全く感じられない笑顔だ。
しかし、それはあくまで『他人から見れば』だ。クードやコウから見ればそれは違う。一度関わったことがあれば分かるだろう。
笑っている顔ではあるが、それは決して笑顔ではない。
その笑顔は彼女の食に対する欲望と、それを妨げた者に対する怒りで満ち溢れていた。まるで蛇に睨まれた蛙。
クエラが蛇でクードは蛙。
クードは蛇、いやクエラの呪縛をなんとか振り払って自分の席についた。
「いただきます。」
一斉に言って、食べ始める。
今時このように礼儀正しい家があるだろうか。本人達の性格は全くと言って良いほど礼儀のその二文字とはかけ離れているというのに。
クードは静まりかえった嫌な空気に短いため息を漏らした。
「そうだ!」
突然響いたクエラの声に二人は手を止め、彼女へ視線を向ける。
「どうした?」
コウが少し驚いたように尋ねると、クエラは今まで正面を向いていたその顔をコウのほうへと向け直した。
「昨日言うの忘れてたんだけど、今日の任務もう入ってるわよ。」
「え〜。」
先ほどまでの恐怖感などなかったかのようにめんどくさそうな声を出すクード。
コウはそんな彼を横目にもう一度短く尋ねる。
「時間は?」
クエラはその質問に答えず、代わりにポケットから一枚の紙切れを取り出してコウに渡した。
「そこに書いてある通りよ。」
紙にはクエラの字で任務の時間、場所、標的となる物の特徴が簡潔にメモされていた。
コウはひととおり目を通すとそれをそのままクードに手渡す。
「…げっ!?9時!?あと30分しかねぇじゃん!!」
クードはそう言うと、焦った様子で紙と時計を交互に見やった。
「ごちそうさま。」
コウは食器の上に持っていたフォークを置いて立ち上がり、椅子にかかっていた上着をとって出ていこうとする。
それを見たクードは急いで残りの食事を口に放り込み、
「ごちそうさま!」
そう言ってコウの後を追っていった。