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第008話 悪童


まさかこうも見事にハモってしまうとは思っていなかったクラウドとエミリアは、驚いたようにお互いの顔を見つめ、そしてそれぞれ嫌そうに顔をしかめる。

皮肉にもこの動作もまた、驚きのシンクロ率だ。

そのことに気がついて、またもや二人して嫌そうに眉をひそめるのだった。



「…なんですの?そんなにハッキリおっしゃられなくてもよろしいじゃありませんか。私、少々傷つきましたわ。心が」

「その言葉、そっくりそのまま返させていただこう。…俺は別に傷ついてなどいないが。だいたい、お前の方が先に言ってきたんじゃないか」

「いいえ?お言葉ですが、そちらの方がコンマ一秒ほど早く口にされていましたわ。間違いありません」

「細かいな!ならこちらからも1つ言わせてもらおう。お前侍女だろう、何なんだその態度は。俺は今まで侍女にそんな口を利かれた事など一度もないぞ!」

「それは失礼致しました。田舎の出なもので、こちらの侍女というものがよくわからなくて。以後気をつけますわ」

「それだ、その態度が気に入らない」

「あら、気に入っていただかなくても結構ですわ。気に入られなかったとしても、私には何一つ不自由などありませんもの」



よくもまぁつらつらと言葉が出るものだ、と半ば放置プレイをくらっている双子はひそかに思った。

そして驚きもした。


まず、クラウドがこんなにも長く女の人と会話しているのをベルとニアは見たことがない。

それはクラウドの髪の色が関係しているわけだが、彼の黒い髪を嫌ってか実の母親のローレンですらクラウドとまともに会話などしてくれないのだ。

それなのに、他のご令嬢が一体何を話してくれるというのだろうか。

彼の髪色を見ただけで逃げていくような女と一体何を話せというのか。

そんな状況が小さい頃からずっと続いてきたのだ。そうなると、人を信用できず避けて過ごすようになるのは、ごく自然なことのように思えた。

そして、それが普通であると考えると…



「やっぱりエリーって変わってるよね。クラウド兄さんとあんなにぽんぽん言い合っちゃうなんてさ」

「だよね。どちらかというと兄さんの方が押し負けているけれど…」

「そこは見てみぬフリしてあげるんだよ、ベル。例え兄さんがエリーに言い負かされていたとしても」

「ニアだって言ってるじゃないか。兄さんが負けてるって」

「負けてるモンは負けてるんだから仕方ないだろ?」

「ニア、さっきと言ってること違う」



などと、どうでもいい会話を交えながらベルとニアは、二人の会話を観戦する。

あくまで観戦。二人の会話の間に入ろうなどとは、ミジンコほども思わない双子であった。



「何なんだお前は!ああ言えばこう言う、俺を馬鹿にしているのか!?」

「まさか、馬鹿になどしていませんわ。気のせいでは?」

「その目だ。その目が俺を馬鹿にしている、間違いなく」

「気のせいでは?」

「話し口調からしても」

「気のせいでは?」

「人の話は最後ま」

「気のせいでは?」

「……お前、俺の話聞く気もないだろ?」

「ええ。」

「即答か!だからその態度が俺を馬鹿にしているというんだ!!」



ふむふむ、やはりエリーの方が数枚上手か。

双子は、二人の口論を眺めながら何やら賭け事をし始める。

このまま二人の言い争いを見ているのも悪くはないのだが、ただ見ているだけではやはりつまらない。

せっかく面白そうな事が目の前に転がっているのに、これを利用しない手はない。



「エリーが兄さんを言い負かして勝つに100コル」

「エリーが兄さんを言い負かして勝って、兄さんが拗ねて逃げ帰るに120コル」

「えー、それじゃあ賭けにならないじゃないかニア。それ、どっちみち兄さん負けてるし」

「え?だってコレ、兄さんが負ける前提での賭けでしょ?」

「そうなの?じゃあ僕はー…」



双子の予想はあくまでもクラウドが負ける前提で進んでいる。

それはそうだろう。

誰がどう見ても押されているのはクラウドの方だ。

いやいや、試合終了ギリギリで一発逆転なんて事があるかも……などとは一切考えない非情な双子は、ひたすらに『クラウドがエリーに負けてどんな行動に出るか』について話に花を咲かせる。



「うーん、どれもありえるから1つに絞るのは難しいな…」

「ねぇ…。まあ、何でもいいか。にしてもだよ、ニア」

「ああ、言いたいことはわかってるよベル。新記録だよね、コレ」

「だよね。兄さんがこんなにも長く女性と会話して正常でいられるなんて奇跡的じゃないか?」

「うん、奇跡だよ…」



クラウドは極端な『女性嫌い』である。

それはまあ、これまでを見ていればなんとなくお解かりいただけるだろう。

そしてその『女性嫌い』というのも、やはり過去の女に対する苦い経験からきているのだが、特にクラウドの『女性嫌い』はかなり深刻なものだった。

というのも、女性の近くにいるだけで吐き気を催し、直に触れればさらに腹痛まで起こす。

もはや『女性嫌い』という名の病気だ。


そんなクラウドがよもや会話を成り立たせるだけに留まらず、直に女性に触れ、体調を崩さないだなんて…!

これを奇跡と呼ばずに何とする。

会話に関しては現在進行形なので、双子にとってはさらに驚きである。



「やっぱりエリーって面白いなぁ…」

「ベル気に入ったの?実は僕もなんだ。最近気に入ってる『玩具』もないし、エリーを次の『玩具』にしようか」

「ああ、それはいい考えだね!じゃあ、さっそく作戦会議といこうか」

「了解!ああ、今日からまた毎日が楽しくなるね」



二人はにやっととイタズラ好きのする笑みを浮かべ、そそくさとその場から立ち去った。

エキセンバーグの双子王子といえば、大のイタズラ好きで名が通っているほどの悪童だ。

小さい頃から二人でこっそりと悪巧みをしては、大人たちにイタズラをしかけ困らせてきた。おまけにベルとニアのお世話係は、全ての王子たちの中でもずば抜けて入れ替わりが激しかった。

辞めた原因の8割が双子のイタズラだというのだから、どれだけタチの悪いイタズラをしてきたのかと考えるだけでも恐ろしい。


そして、気に入った相手はとことん可愛がる(玩具にして遊ぶ)という歪んだ感性を持つ双子に、とんでもない気に入られ方をしたとは全く知る由もないエミリアは、未だにクラウドとの口論を続けていた。

双子がその場から消えているなんて、きっと気づいてすらいないのだろう。



「だぁあぁああ!!本当に何なんだお前は!ああ言えばこう言う、俺を馬鹿に…ってこれじゃさっきの会話と同じだな!!!」

「ええ、リピートしていますね。いつの間にやら」

「ハア…もういい。何だかあほらしくなってきた。やめだ、やめ。面倒くさい」

「ええ、それがよろしいかと。私も正直とても面倒くさい人だな、と思っていたところですし」



思ったままを正直に口にしただけなのだが、どうやらこの王子にはお気に召さなかったらしい。

クラウドの額に青筋がピキッと浮かんだ。



「お、前なァ……」

「冗談ですわ」



肩をすくめてエミリアが言うと、クラウドは額を押さえながら大きなため息をついた。

双子の賭けの内容的に言うと

『エリーにクラウドが言い負かされ、エリーのあまりの非常識さにクラウドが呆れた』

となるのだろうか。

何はともあれ、エミリアがクラウドとベル・ニアに痛烈な第一印象を与えたというのは間違いないだろう。





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