第007話 麗しき双子
突然割り込んできた第三者の声に、エミリアと青年は驚いて下を見る。
すると、そこには金髪が眩しい2人の少年がこちらを見上げていた。
よく見ると、2人の顔は瓜二つ。
身長から体型、ちょっとした仕草までそっくりだ。
「兄さん、そんなとこで何やってんのさ」
「馬鹿、ニア。見てわからないの?あれはどう見たって逢い引きじゃないか」
「そっか!じゃあ僕たちはお邪魔だね、ベル。さっさと退散しよう」
「ああ、そうしよう!」
「待て待て!ふざけた勘違いしてんなよそこのアホ双子」
あ、やっぱり双子なんだ。
にしても、よくここまでの美形を2つも生み出したものだ。
…神様の気まぐれだろうか?
「だって、あの女嫌いの兄さんが?」
「特に美人が嫌いなあの兄さんが?」
「「美人と抱き合ってるなんてさ〜♪」」
「だぁから勘違…」
「とりあえず。ここから降りませんか」
何か勝手に盛り上がり始めている三人にピシャリと言い放ち、エミリアは青年から体を離す。
「おまっ、落ちるぞ?」
「ええ、落ちるのですよ?そこの双子も危ないので少しどいていただけますか?」
「「イエッサー!」」
双子はエミリアに言われた通り、その場から少し離れエミリアの様子を見守る。
そして、胸に抱いていた白猫を遠慮なく放り投げ、自らも木から降りる準備を始めた。
「何するつもりだ…?」
「ですから下に降りるんですよ。あ、あなたは目を瞑っていた方がよろしいんじゃないかしら」
「は…?」
地面からエミリアたちのいる木の枝までの高さは、だいたい大人二人分くらい。
それ程高さはないにしても、落ち方を間違えれば大変なことになる。
しかし、1ミリの躊躇もなくエミリアは木の枝から飛び降りた。
その際、短くなったエミリアのスカートがふわりと広がる。
「「おお~、お嬢さん大胆~♪」」
「んなっ……!?」
それぞれから歓声やら喚声やらが聞こえてきたが、エミリアの知ったことじゃない。
エミリアは、タイミングを見計らってくるっと一回転すると、受身を取って着地する。
服は少し汚れてしまったが、エミリアはかすり傷1つなく地上に降り立った。
「お、おま…っ死ぬ気か!?」
「生きていますが?」
「そういう事を言ってるんじゃない!ひとつ間違っていれば死んでいたんだぞ?」
そんな事を真剣な顔で言いながら、青年も木から飛び降り、エミリアよりも華麗に地面に降り立つ。
エミリアのように受身を取るでもなく、片膝をつくのみで彼はあの高さを飛び降りてみせた。
「……あなたに言われたくないのですけれど」
ちょっと妬けた。
「「では改めまして、」」
「僕、ここの第4王子のベルって言います。よろしくー」
「右に同じく第5王子のニアです。あ、僕たち見ての通り双子なんだけど、見分け方はね…」
「「ずばり瞳の色!」」
「……緑の瞳がベル様、青の瞳がニア様ですね」
「「あったり~!すごいね、一発で覚えられるなんて」」
「まぁ、それくらいは・・・」
「「ちなみに、僕たちの年は15。どうぞよろしく~」」
なんというか、随分とフレンドリーな感じの双子王子だった。
人当たりのよさそうな柔和な顔立ちに、イタズラ好きのする目を持った何とも不思議な少年たち。
「「で、キミは?」」
「え?ああ…、三日前からこちらでお世話になっておりますエミ…じゃなかった、エリーと申します。年は…今年で16になります」
「「新しく後宮に入った娘!?」」
「いえ、侍女として参りました」
「なぁんだ。残念」
「お姫様なら僕たちのお嫁さんにしようと思ったのに」
「さすがにお二人の奥さんにはなれませんわ。私の身が持ちません」
「「え~」」
会話が一通り落ち着くと、人々の視線は自然と黒髪の青年へと向けられる。
青年はその視線に気がつくと、ぼそっと聞こえるか聞こえないかくらいの声で自己紹介をした。
「第2王子のクラウドだ。…19」
漆黒の髪に、スカイブルーの瞳を持つ長身の青年。
この青年もよく見ると、とても整った顔立ちをしている。
双子のような明るい感じではないが、近寄りがたい雰囲気を持ったクールな青年…といった印象だ。
それにしても、この国の王子は皆こんなに美形なのだろうか?
とりあえず3人の王子と出逢ったわけだが、皆整った容姿をしていた。
ということは、他の王子たちもやっぱりそうなんだろう。と、当然期待は高まる。
おっそろしい所ね、王宮って…。
エミリアは、心の中でそっと呟いた。
「……自己紹介はいいとして、この距離は一体…?」
エミリアと双子から2メートル程離れた所に、青年――クラウドは腰を下ろしていた。
とても近いとは言えない距離感に、エミリアは思わず尋ねる。
「兄さんは極度の女性嫌いでね。特に美人には警戒心がとっても強いんだ」
そう答えてくれたのは、第4王子のベル。
クラウドは例の白猫とたわむれているため、こちらの事は無視しているらしい。
あ。
そういえば、あの泥棒猫からまだネックレス返してもらってないわ…。
「でもさ、さっきまで抱き合ってたくせに今更こんな離れて座るなんて、兄さんも面白いことするよね」
「ねー。もう触っちゃってるんだし、そんな警戒することないじゃない」
「そーだよ兄さん。珍しく兄さんのほうからエリーに近寄ってたみたいだし」
「せっかくだから、ついでにエリーで脱女性嫌いしちゃったら?」
「断る」「お断りします」
クラウドとエミリアは、ほぼ同時にそう言った。