第002話 国王勅命
父の話によると、内容はこう。
『王国の後宮制度により、ウォーカー伯爵家よりフローラ・ウォーカーを後宮に迎えることが決定した。3日後、城より迎えが来るので準備しておくように』
エミリアはその話を聞いて、部屋に戻った後すぐに怒りをあらわにした。
「なんて虫のいいお話かしら。何の連絡も無しに突然後宮に入れって?…はっ、馬鹿げてるわ。きっとウチが地方貴族だからって見下しているのね。ホント、王国の城の花という花を全部ただの雑草に変えてやりたいわ」
王国の庭園は他国にも有名な程に美しい、と聞いた事がある。
そのことをふと思い出して言った言葉だったが…。
「………いいわね。これ使えるわ。売ったらいいお金になりそうだし。ふふ、ふふふふ…」
などと本気で考え始めるエミリアに、フローラはくすくすと笑いながら止めに入る。
「駄目よ、エミリア。そんな事止めて頂戴。見つかりでもしたら本当に死刑よ」
「でも、お姉さま。酷すぎると思わない?都合がよすぎだわ」
「仕方ないわ。国王命令だもの…」
フローラが寂しげに笑い、スっと席を立つ。
「さぁ、荷造りを始めなきゃね。3日後なんてすぐだもの」
「お姉さま!」
フローラは、エミリアが呼び止めるのも聞かずに部屋を出た。
部屋に一人残されたエミリアは、俯いて強く唇を噛んだ。
「なにが仕方ない、よ。お姉さまが一番辛いくせに。一番怒っていいはずなのに……っ」
無理をする姉を見て、悲しくなった。
涙がこぼれそうになって、慌てて上を向く。
「………ジダンが、好きなくせに!」
本人から直接聞いたわけではないが、多分間違いない。
フローラはいつもジダンを見ていた。
エミリアに恋うんぬんはわからないが、フローラがジダンに恋心を抱いているのは知っていた。
そして恐らく、ジダンもフローラのことが好きだ。
二人は両想いなのに。後もう少しで上手くいきそうだったのに。
「これで二人が結ばれなかったら、一生恨んでやるわよ。王国貴族共…」
そんな怨念のこもった捨て台詞を吐くと、エミリアは涙を拭いて立ち上がる。
「こうなったらお父様のところへ行って直談判ね」
そうと決まれば、エミリアの行動は早かった。
◇◆◇◆◇
「お父様、私納得いかないわ!」
「お前が納得いかなくても、王の命令だ。避けることなどできん」
「だって、いきなりよ?突然よ!?そんなのって、絶対おかしいわっ」
娘の迫力に驚きつつ、父は頭を振る。
「それが突然ではないらしい」
「どこがよ!?今まで一度だって連絡よこさなかったじゃないの」
「いや、どうやら三ヶ月前くらい前から手紙を届けていたらしいのだが、こちらから一向に連絡が来ないので痺れを切らして直接伝えに来た、らしい」
「手紙?そんなの…………え、手紙?」
「ああ、手紙だ」
……手紙?
「ね、ねぇお父様。まさか赤い薔薇の印章が押された手紙じゃないわよね?」
「ん?いや、それだ。赤い薔薇は国王勅命を意味するからな。…だがなぜ、お前がそれを知っているんだ?」
「ね、ねぇお父様。それって多分これのこと………かも。えへ?」
エミリアは、ドレスの収納部分からくしゃくしゃになった紙を取り出し、机の上に広げて見せる。
広げるにつれて父の顔が青くなっていく。
ソレを見て、エミリアは確信した。
エミリアが正門前で拾っては『ゴミ』といって捨てていたものは、『国王の手紙』であったことを………。
あぁ、ごめんなさいお父様。
だって私、ただのゴミだと思ったんだもの。
その日の夜、エミリアは父からみっちりとお説教を受けたという。