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閑話 あの人の話②

更新遅くなりまして、すみませんでした。そして、今度はジェイドsideで閑話です。本当すみません_(._.)_ 

※11/2にこのページの話を増やしました。読んでない方はまずそこから読んでいただけたら幸いです。



一方、ノアの立ち去った直後のジェイドは。

誰もいなくなった部屋で、両手両足を放り出して華奢なソファーにでろんと寝転がっていた。

人の目がある所では絶対に見られない光景だ。

常に周囲に気を張って過ごしている彼は、人の目がある所では絶対に気を抜かない。そのために人々の目には、彼が完璧でいるところしか目に映らない。


けれど人目がない所では、彼はいつもこんな感じだった。

だらしのない格好をし、気品の欠片もない体勢で、普段の彼からは想像もつかない油断した様子でソファーに体を沈める。

あまり大きくないソファーなので、ジェイドの足はひざ下の辺りから空中へ放り出されている。

寝心地がいいとはとても言えないが、この部屋のこの空間、このソファーが彼の安らぎの場所だった。

王宮にある自分の寝室よりも、居心地は遥かにいい。あそこは人が多過ぎる。

ジェイドにはとても落ち着ける場所ではなかった。



「―――なのよ!――・・・・・・よね」



ふと、女たちの甲高い声音が聞こえたような気がして、ジェイドは不快そうに眉を寄せる。自分の安らぎすら壊していく『女』という存在が、今はとにかく不快だった。



「一体何なんだ・・・。ノアがヘマでもしたか」



ジェイドは億劫そうにその身を起こして、ソファーに腰掛けなおす。

せっかくいい感じに眠れそうだったところを、あの高く意地の悪そうな声音がぶち壊してくれたおかげで、ジェイドは只今絶賛不機嫌中だ。


最近は後宮に新しい女たちが入ってきたこともあり、いろいろと忙しかったジェイドはあまり睡眠を取っていない。

というのも、王宮にある自室では気を抜くことができないので、彼は安眠することができないのだ。安らぐどころか、むしろ疲れてしまう。

そういうわけで、ジェイドは睡眠不足に陥っていた。



「・・・耳障りな声だなぁ。もういっそ、声すら出せないように、息の根を止めてしまおうか」



ごく当たり前のようにこぼした言葉は、ただの文句と言うにはあまりにも冷酷だった。

寝不足のせいだろうか。

いつもより、女の声に不快感を覚える。雑音を耳に無理やり流し込まれているような気がした。


突然、というにはあまりにもゆっくりとした動きで、普段の彼からは想像もできない程に緩慢な動きでふらり、とソファーから立ち上がる。立ち上がると、椅子にかけてあった黒いマントを拾い上げ、申し訳程度に肩に掛けた。

ノアに見られでもしたら、だらしない、と一蹴(いっしゅう)されそうな格好で、ジェイドは部屋を出る。

いつもなら、外に出るときは必ずきちんとした格好で出るジェイドだが、この日だけは何故か身なりを気にしようとは思えなかった。

今の彼には、そんな事に気を配れるほど、機嫌がよろしくなかったのだ。



「・・・ああ、まずいね。このままだと本当に・・・・・・」



全く覇気を感じられない声で、彼は不穏に呟いた。



「殺してしまうかもしれない」





◇◆◇◆◇





木の陰にそっと隠れるようにしながら、注意深く向こう側を見つめる。

声の正体と会話の内容を耳にして、ジェイドはげんなりとする思いだった。

わかってはいたが、ここまでありきたりな状況だと逆に珍しいのではないか、と密かに思うジェイドだ。



「ちょっと顔がいいからって調子に乗っているのではなくて?」

「ああ、嫌だわ。なんて浅ましいのかしら」

「ねぇ?田舎者は媚びるのが本当にお上手で羨ましいわ」



女どもの本性というやつを改めて目の当たりにして、ジェイドは酷く不快そうに眉をひそめる。

自分よりも立場の低い者をいびる女の声は、聞くに耐えないほど不快だし、見下すような女の顔は(さげす)みたくなるほどに醜かった。


近くにノアの気配がないことを確認すると、ジェイドは苛立ったように顔をしかめる。


――アイツはこれを見て無視して帰ったわけか。なるほど、いい根性してる。


もちろん、なんで助けてやらなかったのか。などという理由で苛立ちを覚える程ジェイドは出来た人間ではない。

何故こんなにもけたたましい『愚物』をこの場に放置しているのか、という事に彼は苛立ちを覚えていた。ノアにならこの存在が彼の『気に触れる存在』だと判断できたはずだ。

それをわかっていながらこの場に放置していったことに、ジェイドは怒りを感じていた。

ノアにしてみたら、とんでもないとばっちりと言えるような内容だ。



「・・・本当にやかましいな」



いつまでも止まない甲高い女の声に、いい加減頭痛がしてきそうだ。

ただでさえ今のジェイドは、寝不足で機嫌が悪い。口調がいつもよりも若干荒くなっているのがいい証拠だ。

このままでは本当に彼女たちをこの手で殺めてしまう。

ジェイドの中にどす黒い感情が広がり始めた、まさにその時。



「・・・ご、ごめんなさい。私、そんなつもりは・・・全然なくて・・・っ」



今まで黙って俯いていた少女が、初めて声を発した。

それは震えたような、小動物を思わせるか細いものだった。


ジェイドは、そこで初めてその少女の存在に気がついた。

今まで女たちに囲まれていたせいで、その少女が見えなかったのだ。

そして驚いたことに、その少女の髪は稀に見る美しき銀色。その髪色に遜色ない整った顔立ちに、宝石をそのまま閉じ込めたような紫色の瞳。

この後宮内においても、トップクラスに入るであろう容姿の持ち主であった。


その少女は、女たちの厳しい言葉に身を震わせ弱々しく(たたず)んでいる。

歯向かう力も、加護してくれる人物もいない、か弱い少女の『フリ』をして。

ただ、ごめんなさい、と下手に出るような発言だけを口先に乗せて、そんなつもりはなかったんです、とか弱い少女の顔でうそぶく。

少女の目には、『恐怖』の色など微塵も浮かんでいなかったというのに。

つまり、それが答えだ。



「女どもで遊ぶのは勝手だが、ここで・・・というのはいただけないな」



ジェイドの中に(くすぶ)っていた黒い感情は、標的を変えて一人に絞られた。

つまり、銀色の髪を持つ、今女たちにいびられているはずの少女に。





もし、周りに人の姿があったとするならば、彼の行動は間違いなく『救い』に見えたことだろう。

しかし彼の目的は『救い』などという生易しい産物などではもちろんなく、ただの好奇心と意趣返しのようなものだった。




「はい、ストップ。もうそれくらいにしてあげなよ」




ジェイドの存在に気がついた女たちの反応は、赤くなったり青くなったりと様々だった。

ジェイドの容姿に頬を染め、自分たちの行動を見られたと気がつき蒼白になる。

まあ、それは予想通り。

さて、ではあの少女は?

ジェイドが銀髪の少女に目を向けると、ふと目が合う。

一瞬だったが、確かに迷惑そうな顔をしていた。目があったことに気がつくと、すぐにあの怯えたような表情に戻ったのには、感心せざるを得ない。



「面白い事をしているね、私も混ぜてくれる?」



言葉にささやかな刺と含みを持たせて、ジェイドは妖艶に微笑んだ。


――さて、どうやって楽しもうかな?






(※ここから下↓が追加分の話です)




彼女の反応が予想以上に面白かったせいか、つい気まぐれを起こしてしまった。

特に話すこともなかったくせに引き止めてしまった手前、話さないわけにはいかない。

この件はなかったことにするつもりだったのだけど。



「実は今、王族主催の晩餐会というのを計画中なんだ」

「・・・初耳です」

「そうだろうね。だってまだこの話は通してないもの」

「通っていない話を何故私に?まだやると決まったわけではないのでしょう?」

「やるとは決まっていないけれど、まあ、確実に通るからね。一応、伝えておいてあげようかと思ってさ。嬉しいだろう?」

「まあ・・・、好意もここまで厚かましいと逆に迷惑になるのですね。大変勉強になりましたわ」



右手を頬にあて、困ったような笑顔を浮かべるエミリアに、ジェイドはやはりにっこりとした微笑で応える。

ここまであからさまな敵意を向けてくる女は、正直初めてだった。

それは自分の容姿にしても、生まれ落ちた環境にしても、もてはやされることが当たり前だったから。

だから、面白いと思った。



「さすがに後宮にいるご令嬢全員は無理だろうから、まあ。新しく来た5人のご令嬢は呼ぶとして、後の人選は・・・ノアにでも任せるか」

「・・・あの、それを私の前で話すことに意味があるのでしょうか?」

「あるよ?だって、こんな面倒なことになったのは君のせいなんだから」

「??意味がわかりかねます」



それはそうだろう。

何せ、目の前にいる彼女にとってはただ普通に話をしていただけなのだから。

ただ、その『会話』のせいでジェイドはつい、気まぐれを起こした。

だから、こんな『面倒なこと』になったのは彼女のせい。ジェイドの言い分は、少女にとってほとんどとばっちりに近いものだった。



「まあ、別にわからなくてもいいけど。とりあえず、君のせいなの」

「・・・理不尽極まりないですね。あえて追求はしませんけど」

「そう?助かるよ」



にっこりと天使のスマイルを浮かべてやると、少女は酷く嫌そうな顔をした。

その顔があからさますぎて、思わず吹き出しそうになる。

今まで女たちに笑顔を向けて、こんな反応を返されたことは一度もなかった。大抵の女どもは頬を赤らめたり、ぼうっとした顔になったりしていたのに。



「そうだな、じゃあ今から2ヵ月後。薔薇がキレイに咲く時期に開催するとしよう」

「2ヵ月後!?そんな急に・・・」

「残念、君の意見は聞かないよ。君の大嫌いな王族権力ってやつでね」

「・・・・・・っ」

「まあ、頑張ってご主人さまに綺麗なドレスを用意してあげてよ」



少女が睨むような目で見てきたのに対し、ジェイドは相変わらずの笑顔。

ふと、自分はこの少女の怒った顔が意外と好きかもしれない、などと考えた。

なんというか、ジェイドの根底にある嗜虐心をやけに(あお)ってくるのだ。


きっとプライドの高い娘だろうから、そのプライドをズタズタに傷つけてやったら一体どんな表情(かお)を見せるのか。

泣くのだろうか?

もしかしたら、怒るのかもしれない。

では、完全にプライドを崩された時は?

彼女の心は壊れてしまうのだろうか?

だとしたら、それはそれで面白いかもしれない。

などと考えてしまうのは、ジェイドの性格が歪んでいるからに違いない。



「ああ、そうそう。せっかくだから、名前を聞いても?」

「・・・・・・それも王族権力ですか?」

「君がそう思いなら、私はそれで構わないけど?」

「・・・・・・・・・・・・エリー、別に覚えていただく必要はありませんので、あしからず」

「ふぅん?」



少女、エリーの言葉にジェイドはそれだけを返し、エリーに背を向けた。



「それじゃあね、銀髪のお嬢さん」



ひらりと手を振って、ジェイドはその場を後にした。

きっと今頃、後ろにいる少女は「意味がわからない」という顔をしているのだろうな、などと考え少し笑みがこぼれる。


(長い付き合いになるだろうけど、それまで楽しめるといいな)


その笑みは、天使などとは程遠い、猛禽類のような鋭さを持った笑みだった。





◇◆◇◆◇





「許可しよう」



太陽さえかすむような神々しい微笑みをたたえながら、ジェイドは異常なまでの気安さで言い放つ。



「ですから、国の存亡に・・・・・・って、はい?」

「だから、許可すると言っている。二度も言わせないでくれる?」



ジェイドに「却下」と、冷たく突き放されたのはつい先日のこと。というか昨日だ。

それなのに、この違いは一体どういう了見だ。

昨日と同じ場所(隠れ家)、同じ話題、同じ空気感であるにも関わらず、ジェイドは昨日とは真逆の答えを返してきた。

信じられない。一体彼に何が起こったというのか。

どこか硬いところに頭でもぶつけたか。



「あ、今すごい失礼なこと考えたでしょ?」



なんでわかる。

ノアは一瞬目に見えて動揺したが、そこは年の功。すぐにいつものあの神経質そうな顔に戻った。



「まさか。そんなことより、どういった心境の変化で?」

「誤魔化したな。まあ、いいや。んー、心境の変化っていうよりは単なる気まぐれに近いけどね。本当はこんな案件握り潰すつもりだったんだけど」



さらっと言われた一言に、ノアはため息を噛み殺す。

あの時の「保留」は、やはりそういう意味だったのかと改めて頭が痛くなるのを感じた。

こんな案件、つまり『王族主催の晩餐会』のことだが、今まであれだけ拒んでいたのに気まぐれで許可を出すなんて。



「少し、気になることがあってね。ああ、招待するご令嬢は君に任せるよ。私は特に興味も関心もないからね。選ぶに選べない」

「それは、構いませんが。もとより覚悟のうえですし。けれど、あなた様は一人も選ばれなくてよいのですか?」

「やあ、話が早くて助かるよ。そうそう、その事なんだけど、一つ頼まれてくれるかい?」



天使を思わせる輝かしい微笑みを浮かべて、ジェイドはノアに語りかけた。

ジェイドの笑みの中に、いつもとは違う何かがあるのをノアは微かではあるが感じ取っていた。

言うならば、いつもは何の感情もないただの薄っぺらい笑顔に、何か隠しきれないある感情が加わったような・・・。

・・・・・・説明し難い。

とりあえず、ただ一つわかったのは、ジェイドが今何かしらに興味を持っているということ。それが何なのかまでは、さすがにわからなかったが。



「実はもう一人、後宮に加えたい娘がいるんだ。その事で少し調べてきて欲しいことがあるのだけど、頼まれてくれるかい?ノア」



ジェイドの言葉に、ノアは卒倒する思いだった。

まさか、彼の口からそんな話が出てくるとは。

天変地異の前触れか何かかもしれない。



「また何か失礼なこと考えたね?」



正解。

いや、でもこればっかりは仕方がないだろう。驚くなという方が無茶な注文だ。



「・・・で、その娘とは?」



ノアは恐る恐るといった風に短く問う。

すると、ジェイドは珍しくも目の奥に鋭い光を覗かせて、妖しく微笑んだ。



「銀色の髪の、嘘つき女さ」




急遽内容を増やしてしまい、すみませんでした。1話としてupするには、ちょっと話が少なかったもので;;

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