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閑話 あの人の話

今回はサブの人の視点で書いてます。

しかも、初登場・・・。

ジェイドを掘り下げようとしたので、ちょっと閑話っぽいです。

そして結局、あまり掘り下げられなかったっていう...(´・ω・`)


彼は、『女』という生き物を軽蔑していた。

賢しく浅ましいその生き物に、彼は『拒絶』以外の言葉を知らない。

甘い言葉を(ささや)いてやれば、頬を朱色に染め、口付けてやれば、従順な犬に成り下がる。


こんなにもくだらない生き物が他にあるだろうか?


己の欲に忠実で、手に入れるためには手段を選ばず、醜い争いを繰り広げる愚かな生き物。

ああ、なんてくだらない。虫唾(むしず)が走る。

そんな愚かな生き物を愛するなんて、彼には絶対に出来ないことだった。

しかし、配偶者は必要だった。国のために。国の義務のために。


だから彼は考えた。


自分のことを好きになるような女は論外。愛することも愛されることもない関係がいい。

しかし、ただ馬鹿な女は駄目だ。

ある程度賢く、自分の立場をわきまえられるような女。

さらに、上に立っても皆が羨望を向けるような、そんなカリスマ性のある女でなければならない。

この国において、果たしてそんな女がいるのだろうか。

だが、彼はそんな『女』を捜す必要があった。

エキセンバーグの第一王子ジェイドには、その必要があったのだ。





◇◆◇◆◇





「却下」



太陽さえかすむような神々しい微笑みをたたえながら、ジェイドは非情なまでの冷たさで言い放った。



「・・・ですが殿下、これは国の存続に影響します。どうか聞き入れていただきたく・・・」

「あはは、お前はいつも大げさだね、ノア。そんなに焦る必要もないんじゃないかな。時間なんていくらでもある。今である必要がどこに?」



眼鏡をかけた長身の男が、神経質そうに眉根を寄せてジェイドを見下ろす。

ジェイドも割と身長がある方だが、その男はさらに高い。

男の名はノア・ディック。

現国王のガルトの有能なる補佐であり、ジェイドのお目付け役でもある。

短く切りそろえた茶髪に、若葉色の瞳。ついと眉を寄せるその姿には、現在46歳という年齢以上の貫禄があるようにも見えた。



「今でないとあなた様はいつまで経っても行動を起こさないでしょう。それどころか、のらりくらりと言い訳を立てて逃げるのでしょう?あなた様は」

「さすがノア。幼い頃から私を見てきているだけあって、よくわかっているね」

「・・・わかっているなら承諾なさってください。陛下もお困りですよ」

「いや、承諾したいのは山々なんだけどね」

「別にいいじゃないですか。いつもの似非(えせ)スマイルで乗り切れば。お得意でしょう?」

「ひどいな。いつも仏頂面の君よりは遥かにマシだと思うよ」

「そう思うのならお受けいただけますね?」

「それとこれとはまた別の話だよ。一緒にしないで欲しいな」



あくまでにこやかに。

けれど、底の見えない金色の瞳は決して笑ってなどいなかった。

むしろ悪寒を感じるほどに冷たい印象を与える。


ジェイドはふう、と一つ息を吐き出すと、ノアにしっかりと視線を向ける。

今度は顔から笑顔を完全に消し去って、珍しく真面目な顔だ。

無駄に顔が整っているせいか、笑顔を消すと妙な迫力がある第一王子。

ノアも思わずゴクリと喉をならした。



「とりあえず、この話は保留だ。いいな?」

「・・・しかし、」

「保留だ、ノア。お前は知っているはずだよ?私の性格を、ね」

「・・・・・・・・・」



有無を言わせない、支配者のソレをまとってジェイドはノアの言葉を呑み込む。

こういう時のジェイドは、大抵何を言っても無駄だということをノアは知っていた。

もともと、ジェイドは人に従って生きることを好まない性格なので、素直に言う事を聞くなんてことはほとんどない。

しかし、人の意見を聞く耳は持っている。

だからこそ、ノアはジェイドに対して強く発言することができない。

ジェイドがただの愚鈍な王子ではないことを、嫌というほどに理解しているからだ。



「きちんと、理由があるのですね?」

「どうだろうね?それは君が判断すればいいよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。どうせ、今のあなたに何を言ったところで無駄でしょうし」

「いやあ、君は本当に優秀だよね。話のわかる“人間”は好きだよ」



また、にこりと笑みを浮かべてジェイドは言う。

あえて「人間」と言い表すあたり、彼の歪んだ性格を表しているようだ。

これにはノアもため息を吐かざるを得ない。



「信用ないですね。相変わらず」

「安心してよ。私は君だけでなく、他の誰も信用していないから」



そう、彼は誰も信用していない。

自分の側近にも、団員にも、親族にすら決して心を開かない。弱みを見せない。

ずっと近くでジェイドのことを見てきたノアにすら、彼は一度も心を開いたことがない。

徹底した自己保身だった。



「では、良いご返事を期待していますよ」

「あはは、善処するよ」



どこまでも食えない男だった。

ノアは、ジェイドに一礼するとキビキビとした動きで部屋を後にする。

ジェイドは相変わらず、真意の読めない笑顔でノアを見送った。


部屋を出たあとに、固く閉ざされた扉に目線だけを向け、ノアはこっそりと息を吐き出す。

もう何十年と彼の傍に仕えているが、彼と会話をするのにはいつまで経っても慣れそうにない。

何でも見透かすようなあの金色の瞳に見据えられると、ノアは今でも緊張して冷や汗が出てくる。

自分よりふた回りも年下の、しかもまだ若造と呼ばれる程に若い青年に対して、ノアは言い知れぬ恐怖を抱いていた。放浪癖があって、凡人とは口が裂けても言えないような彼に。


出来れば二人きりで会話するという事態は避けたかったが、彼は暇さえあればこの人気のない別館で過ごしているので、そうもいかない。

ここは彼が唯一安らげる場所だという。

しかも、彼がここに居るということは一部の人間しか知らない。

知られれば、彼の安らぎの空間は“人間”によって壊されてしまう。特に女に知られると、非常にまずい。

これも一部の者にしか知られていないが、彼は『人間嫌い』の『女嫌い』だった。クラウドの『女嫌い』とはまた別で、存在自体に嫌悪感を抱いている。

そんな嫌悪を抱いている女たちに押しかけられたりしたらと思うと、ノアは背筋が凍る思いだった。女に対してではない。ジェイドに対してだ。


と、人気のない渡り廊下を歩いていると、複数の人の気配。

ノアは渡り廊下を外れて、近くの木陰に身を隠す。人気のない廊下を自分が歩いている時点で、勘の鋭い者は気がつくだろう。

この先に誰かがいるかもしれないということに。

そっと息を殺して気配のした方に目を凝らすと、数人の侍女らしき格好をした女たちがこちらに来るのが見えた。


まさか、彼の事がバレているのか?


ノアは焦りを覚えたが、よくよく見てみると、どうもジェイドのところへ押しかけようとする雰囲気ではないようだった。

どこか殺伐としていて、刺々しい雰囲気。

しかも、中には王宮で見た顔もあった。何事かと思ったが、答えはすぐにわかった。



「ここなら誰にも見られないわね」



見ている者がいることに気がつかない女たちは、すっかり誰もいないと解釈し行動を起こした。

その行動とは、いわゆる『いじめ』に属されるであろうという愚かな行為。

年若い少女を壁側に立たせ、それをぐるりと囲むように王宮の侍女6人が囲む。

内容は実にくだらなかった。

お決まりの「アンタ生意気なのよ」から始まり、あとはただの(ひが)み恨み。

聞く価値すらない。

なお、囲まれている少女は俯いていて顔は見えなかった。だが、状況からして恐らく恐怖に震えているのだろう。


同情したが、ノアに彼女を助けることはできない。

場所がここでなければ助けてやることも可能だったが、ここでは無理だ。

ジェイドが隠れ家として利用しているあの場所が知られるリスクを冒してまで、彼女を助ける義理はノアにはない。

足音を出さずにそっと立ち去ろうとした、その時。

ふいに、顔を上げた少女と目があった。

銀色の髪と紫の双眸を持つ、美しい少女だったと記憶している。

ノアは一瞬、息を呑んだ。

自分の存在がバレて助けを求められるかもしれない、という焦る思いと、助けてやらねば、という衝動に駆られたのだ。

女たちに囲まれて震えていた少女も、ノアを視界に捉えると涙を浮かべた瞳を驚きで一瞬丸くした。

けれど少女は、助けを求めることなく、瞳に意味深な輝きを一瞬だけたたえて、ノアから目線を外した。



――早くここから立ち去りなさい



何故か、そんな風に言っているように思えた。

ノアはその瞳の輝きの強さに射すくめられ、慌てたようにその場を離れる。もちろん、足音は殺した。


あの少女は一体なんなのか。

ノアの脳裏には、驚く程鮮明に彼女のことが焼き付いた。


ジェイドとは逆の意味で瞳の中に煌めく光に、ノアは年甲斐もなく(おのの)いたのだ。






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